第二章 二つめのユーボーグ(エジプト編)





 アーデンクールを追って、ミクロマン達と勇人とさくらが辿り着いた場所は、ピラミッドと砂漠のあるエジプトだった。
「確かに、アーデンクールはここに逃げてきた。もしかしたら、このエジプトに二つめのユーボーグがあるかも
しれない!」
 勇人は腕で、額の汗を拭いながら辺りを見回す。
「それはいいけど…ここってあっつーい!」
 さくらも、上着を脱ぎながらハンカチで汗を拭く。
 そんなさくらを見ながら勇人も、
「そう言えば喉乾いた…」と、へたり込んでしまう。
「困ったな…でも大丈夫だ! ウォルト、頼む!!」
「おうよ! 俺に任せな!」
 アーサーに頼まれ、ウォルトはマグネアームを出して上へと向ける。
「ウォルト?」
 首を傾げる勇人にウォルトは余裕の笑顔で笑いかける。
「見てな…ウォーターホイッパー!!」
 ウォルトのかけ声と共に、マグネアームから大量の水が噴き出してくる。
 しかも、勇人とさくらはミクロ化になっているから、水を受けるのに最適だ。
「うわーい! 気持ちいい!」
 冷たい水を浴びて、喜ぶさくら。
「助かった!」
 勇人も嬉しそうで、ウォルトは安心した。
「そんなに喜んでくれると、俺も嬉しいぜー!」
「解説しよう! ウォルトは超磁力で水を自由自在に操る事ができるのである!」と、満足そうに説明するエジソン。
「そうなんだ。ありがとうウォルト!」
「おかげで助かったわ!」
 元気になった勇人とさくらはウォルトに礼を言った。
「いや、役に立てたならそれでいいんだ! おっ? あそこに町があるぞ!」
 ウォルトの指さす方向には町が見える。
「本当だ、行ってみよう!」
「ああ、もしかしたらアクロイヤーの手がかりが見つかるかもしれない!」
 そう言ってアーサーは町へと歩き始める。
「あ、待ってよ!」と、アーサーの後を追いかけるさくら。
「町についたら、勇人とさくらはミクロ化を解いた方がいいかもしれないな」
「そうだね」
 オーディーンの言葉に勇人は納得する。
 二人は町についたら、ミクロ化を解く事にした。


 町では、色々な人々がいる。
 店を営んでいる者や遊んでいる子供達。
 水屋に、壷屋。
 日本にはない物がたくさんあるのだ。
「すっごーい! エジプトに来るのって初めてだから、いろんな物がある!」
 さくらは珍しそうに町のあちこちを見渡す。
「ああ、だがアクロイヤーに関するものはないな…」
「そうだね。誰かアクロイヤーを見た人がいればいいんだけれど…」
 イザムの言葉に頷いた勇人は周りを見つめている時。
「これ…そこの子供達」
 何処からか声が聞こえる。
「へっ?」
 さくらは、声が聞こえた方向へ振り向く。
 そこには、占い師らしき女性が。
「あの…あなたは占い師さん?」
 さくらは首を傾げながら、女性に尋ねる。
「そう。おぬし達の事を占ってやろう」
 そう言って占い師は自分の水晶球を見て占い始める。
 勇人とさくらもその水晶を見つめる。
 もちろん、ミクロマン達も。
 すると…。
「おお! そこの子供達。おぬし達の運命は波乱に満ちておるようじゃな」
「えっ? どういう事なんだ?」
 突然の結果報告に勇人は首を傾げる。
「そうよ、もうちょっとわかりやすく説明してくれる?」
 さくらも、この結果がわからない。
「特に少女。おぬしは氷のような冷たいものに包まれるであろう。そして、おぬしも氷のようになる」
「ちょっと、それどういう意味なの?」と、嫌な予感がしながらも聞き返すさくら。
「そして、少年。おぬしはその少女と共に五つの不思議な星に守られておる。その五つの力によって、封印が解ける。
そしてこの世界にないものが手に入るであろう」
 しばらく輝いていた水晶球の光が消える。
「封印? 封印って何!?」
 封印。一体この言葉に何の意味があるのだろうか?
 勇人は気になって仕方がない。
 しかし、その願いも空しく占い師は、
「それはおぬし達のその目で見る事じゃ」と、言い残して去って行った。
 そして後に残された二人の子供と五人の宇宙人。
「何? あの人…」
「さあ、わかんない…」
 さくらの質問に勇人はこれしか答えが出なかった。
「とにかく、アーデンクールを探そう! 確かに奴はここに来ているはずなのだから!」
「うん!」
 そう、今の自分達の目的はアーデンクールを見つけだし、倒す事。
 そしてユーボーグを取り返す事。
 これが、彼らや勇人とさくらの目的なのだった。

 しばし歩いていると、エジソンの持っているコンピュータが光り出す。
「むっ!」と、気付いて眼鏡を光らすエジソン。
 光っているコンピュータをそのまま見つめる。
「どうしたの?」
 勇人がエジソンに尋ねると。
「アクロイヤーの反応があるのである…!」
 それを聞いて、一同は驚くのも無理もない。
「何ですって!? それじゃあこの近くにあいつはいるの?」
 さくらも驚きを隠せない。
「ああ、可能性はある! おそらくこの反応はアーデンクールなのである!」
「アーデンクール…! 必ず貴様を倒し、ユーボーグを取り返し、そして…シャクネツを救い出す!」
 小さな怒りを胸に秘め、アーサーは呟いた。
「とりあえず、その反応があった場所へ行ってみよう! エジソン、その場所は何処なんだ?」
 勇人はエジソンの方へ向き、彼に問いかける。
「ここから、少し東に進んだ先のピラミッドなのである!」
 そうエジソンが言いながら、コンピュータを東に向けると同時にコンピュータの光りが増した。
「じゃあ、そこへ行ってみよう!」
 エジソンのコンピュータを頼りに、勇人達は東に向かって歩み始めるのだった。


 そして、ピラミッドへようやく辿り着いた。
「はあ…やっとついたわね」と、息を切らすさくら。
「入口は何処だろう?」
 必死に入口を探す勇人。
 すると、ピラミッドの脇に小さな穴が開いている。
「もしかして…ここが入口なの? 普通の人間は入れないわね」
 さくらはそのまま穴を見つめながらその場に座り込む。
 すると、エジソンのコンピュータが今度は鳴り出す。
「反応が大きくなっているのである!」
 エジソンの答えにオーディーンも確信する。
「ああ、つまりアーデンクールはこの中か」
 しかし、勇人は少し入口を見て疑問に思う。
 何故なら、例えそこが入口であっても何故開けっ放しなのか怪しいからだ。
「でもさ、入口が開けっ放しなんてちょっとおかしくない?」
 勇人の言葉にさくらも頷く。
「そうよ、何か怪しいわ」
「決まってるだろ? 七名様ご招待ってわけさ!」
 ウォルトはこれはもういつでも来いとのメッセージだと確信した。
「そのようだな」と、イザムも頷いた。
「では、中へ入ろう! 二人もミクロ化してくれ!」
「うん!」
 返事をした勇人はミクロッチのスイッチを押す。
「わかったわ!」と、さくらも続いてミクロッチのスイッチを押した。
 そして、全員が中へ入ると。
 ドドドドドドド!
 突然、落盤が彼らを襲う。
「きゃあっ!」
 驚いたさくらは悲鳴をあげる。
「みんな伏せるんだ!!」
 急いでアーサーは勇人とさくらを抱える。
 しばらくして、やっと落盤が納まる。
「みんな…怪我はない?」
 ゆっくりと勇人が起き出して全員に尋ねる。
「ええ、大丈夫よ」と、多少は起きあがるのに苦労するがさくらは自分の無事を知らせる。
「ああ、こちらも平気だ。だが…!」
 起きあがったアーサーは入口の方へ振り向く。
「あっ、入口が!」
 そう、今の落盤の影響で岩が崩れてしまい、穴が塞がれた。
「くそっ…! 閉じこめられたか!」
 入口が無くなってしまい、悔しがるウォルト。
「仕方ない。先を目指すしかない」
 そう、もう後戻りはできないのだ。
「そうだね」
 勇人もそう頷くしかなく、全員は先に進み出した。


 先へと進んで行くと、アーサー達はピラミッドの頂上に来た。
「ついに頂上…か」
 多少は警戒させながらもアーサーは小さく囁いた。
 すると…。
「待っていたぞ、ミクロマン!」
「!?」
 声のする方へと振り向くとそこにはアーデンクールの姿が…。
「いやがったな! アーデンクール!!」
 アーデンクールを睨み付けながら、ウォルトはマグネアームを装備する。
「アーデン…クール…!」
 勇人は再び出会った敵を見つめる。
 そして勇人の体から小さな震えが…。
「随分と世話になったみたいだな。このアーデンクール様を…」
 アーデンクールはバカにするような言い方で、アーサー達を見下す。
「ここに閉じこめたのはあんたの仕業ね!?」
 さくらも怒りを隠せない。
「そうだ。ピラミッドとはこの国の王の墓。そして、貴様達の墓にでもなるのだ! ここで死んでもらおう!」
「そうはさせない!」
 イザムはマグネソードを取り出し、アーデンクールにその剣先を向ける。
「ふっ、この少女がどうなってもいいのか?」
「何っ!?」
 アーデンクールはさくらの腕を引っ張り、人質にする。
「きゃあっ!」
「さくら! さくらを離せ!!」
 さくらを取り返そうとして、アーデンクールに向かって走り出す勇人。
「返してほしいか? ならいいものを見せてやろう!」
 キラッっとアーデンクールのゴーグルが光る。
 すると、さくらの体がたちまち氷に包まれていく。
 ピキッ…ピキッパキッ…。
「いや…助けて勇人!!」
「やめろアーデンクール! さくらー!!」
 しかし、勇人の願いも空しくさくらは氷づけになってしまった。
「さくら…!」
 勇人はあまりもの事にショックを受ける。
「さあ、どうするのだ? ミクロマン…ハッハッハッハッ!」
 勝ち誇ったように高笑いをするアーデンクール。
「アーデンクール…! 貴様を倒す!!」
 怒りを爆発させたアーサーは一人でアーデンクールに向かっていく。
「あっ…待てアーサー!!」
 急いでアーサーを止めようとするイザムだが、もはや止められない。
「そんな攻撃で私を倒せるか! くらえ! アーデンキャノン!!」
 アーデンクールの右腕のキャノンから弾丸が飛び出す。
 ドゴオオオオオオオオオッ!
「うああああああああああ!!」
 アーサーの悲鳴がイザム達や勇人、そしてさくらの心に響き渡る。
「アーサーーーーー!!」
「ふっ、やはり弱いな…そんな事で…ミクロマンシャクネツや…あの者達を救う事ができんな…」
 アーサーの頭を足で踏みながらあざ笑うアーデンクール。
「負けないで…負けるなアーサー!!」
 カアアアアアアアアッ!
 すると、勇人とさくらのミクロッチが光り出す。
 そして、イザム達のミクロジウムも輝き始める。
「むっ? 何だ…!? この光は…!」
 光を浴びて苦しみだすアーデンクール。
「俺達のミクロジウムも…光っている…!」
 イザム達もこの輝きに驚きを隠せない。
「アーサー! 奴の弱点はあの胸のミラーである! あれをユーボーグで破壊するのである!!」
 エジソンはやっとの事でアーデンクールの弱点を見つけた。
「わかった…」
 倒れていたアーサーだったが、ゆっくりと立ち上がる。
「ユーボーグ装着!!」
 アーサーの声に反応したのかユーボーグ・パワーバーストがアーサーの腕のマグネアームに自ら合体する。
「装着成功! マグネパワー全開!!」
 そして、イザム達のミクロジウムと同じにアーサーのミクロジウムも輝き始めた。
「そうか…あの占い師さんが言っていた五つの力はこれだったんだ…」
 それを見た勇人は占い師の言葉を理解できた。
「お…おのれミクロマン! 死ねーーー!!!!」
 アーデンクールはアーデンバイクに変形をして、アーサーに襲いかかる。
「覚悟しろ! アーデンクール! 超磁力パワーブレイク!!」
 アーサーのパワーバーストから放たれたエネルギーはアーデンクールに叩きつける。
 ズガアアアアアアアアア!
「ぎゃあああああああ!」
 攻撃を受けたアーデンクールは倒れてしまった。
「ぐっ…ううっ…」
 苦しみながらも立ち上がるアーデンクール。
 そんなアーデンクールの元にアーサーが歩み寄る。
 静かに…けど怒りをまたこみ上げさせながらアーサーはアーデンクールに問いかける。
「さあ、教えてもらおう。シャクネツは何処だ?」
「くっ…仕方ない…教えよう…! シャクネツは…アクロデビル様の…」
「?」
 一体シャクネツは何処にいるのだろうか?
 その思いはみんな一緒だった。
 アーサーも勇人も答えを待つしかない。
「体内…だ…!」
 ドクン…!
「なっ…!」
 アーデンクールの答えに勇人は狼狽える。
「果たしてお前達に…シャクネツを助け出せるかな? 10年前に人間の大半を救えなかったお前達に…!」
 そう言い残したアーデンクールは爆発した。
 ドオオオオオオオッ!
「アクロデビルの体内だと!? 何と無謀な…! シャクネツ…必ず助け出す!!」
 アーサーは新たにシャクネツの救助を心に決めた。
 その時、アーデンクールの爆発と同時にさくらが元に戻った。
「ふうっ! 死ぬかと思ったわ…」
「さくら!」
 さくらの生還に喜ぶ勇人。
「無事でよかったのである!」と、エジソンもさくらの無事な姿を見て喜ぶ。
「…あれ?」
 ウォルトは何かを見つけた。
「おーい! ここに何か埋まってるぞー!」
 ウォルトは大声で全員に知らせた。
「何だ?」
 イザムもウォルトが立っている場所へと歩み寄る。
 そして、他のみんなも行ってみると。
「あっ…! ここにユーボーグが!」
 赤く輝くユーボーグを見て嬉しいのだろうか勇人の声は何処か明るい。
「やはり…アーデンクールはここにユニットシェルレーザーを隠していたのであるな…」
 エジソンはゆっくりとユーボーグを持ち上げる。
「さあみんな! 残りのユーボーグを探そう!」
 アーサーは立ち上がりながらみんなに言った。
「うん! 一刻も早く残りのユーボーグを取り返さないとね!」
 アーサーの言葉に勇人も頷く。
「おい、ユーボーグと一緒に何か紙みたいなものがついているぞ」
 オーディーンがみんなにユーボーグと一緒にあった紙を見せる。
「ホントだ、何か絵が描いてあるわね」
 さくらも紙に描かれている絵を見つめる。
「それはおそらく…ユーボーグの設計図なのである」
「これが?」
「そう、そこには合体条件が書いてあるのだが、その設計図は随分と昔に作られたようなのである。だから、僕でもそれの
解読するのは難しく、できたとしても時間がかかるのである」
 本当に一体何年前の設計図なのだろうか?
「あの占い師さんが言っていた封印ってアーデンクールで、この世界にはない物ってこのユーボーグだったのね」
 さくらもどうやら占い師の言葉を理解できたようだ。
「うん、そして僕達を守ってくれる五つの不思議な星ってアーサー達じゃないかな?」
「俺達が?」
 勇人達の言葉に首を傾げるイザム。
「きっとそうよ! 私と勇人の素敵な五つのお星様ね! アーサー!」
 明るくアーサー達に話すさくら。
「ああ、そうだな」
 アーサーも笑顔で頷く。
「おい、天上に光が!」
「えっ?」
 全員が上を見上げると、月が輝いている。
「きっと出口だ!」
「助かったぁ!」
 出口が見つかり、勇人とさくらは喜んだ。
「さあ、脱出しよう!」
 アーサー達は急いで脱出した。


 ピラミッドを出た時、外はもう夜になっていた。
「夜だから、少し涼しいね!」
 月の光で青く輝く砂漠を見て勇人は夜の風に浸る。
「そうであるな。今日はもう遅いのである。今日はここで休むのである」
 エジソンは休める場所を探し始める。
「もし、風邪を引いたらどうしよう」
「なぁに心配すんなよ! 寒気がしたらみんなくっついて寝りゃ安心だ!」
 からかうように笑うウォルト。
「ええっ、恥ずかしいよぉ…」
 確かに今のメンバーの中で女性はさくらだけだ。
 後はみんな男性ばかり。
 男性達と一緒にくっついて寝るというのはさすがに恥ずかしい。
「気にしない気にしない!」
 元気づけるようにきっぱり言うウォルト。
「さあ、もう休もう」と、アーサーは笑顔で勇人とさくらに言った。

 結局、勇人とさくらはミクロ化のままで寝る事となった。
 みんなが就寝して少し時間が経つ。
 小さな風が吹く真夜中。
 涼しくても、エジプトだからやはり少々暑い。
 その暑さにアーサーは目を覚ました。
「ふう…暑い…ちょっとそこまで歩くか…」
 立ち上がったアーサーは他のみんなを見つめる。
 イザム達は戦いに疲れたのかよく眠っている。
 ウォルトはぐーぐー寝息をたてている。
 アーサーはそれを見て小さく笑い、そしてそのまま足を砂漠へと進める。
「勇人の言うとおり、月の光で砂漠が青く見えてきれいだな…ん?」
 砂漠を見つめていたアーサーだったが、見つめる先の人影に気付く。
「あれは…」




            「勇人…?」            「さくら…?」          「気のせいか…」