第七話 美豹の女戦士!ソルジャー・リュンファ
「ぎゃああああっ! また服が汚れたあああっ!」
校庭で、キョウイチが泣き出す。
どうやら、転んで服が汚れたようだ。
「あらら、かわいそうに;」
一緒にいたツバサはよしよしと、キョウイチを慰める。
あれから一週間が経ち、ウェブモンスターが出現しなくなった為、自宅待機していたケント達は再び学校に
登校できるようになった。
「あのレイミアって子…ちょっとやりすぎちゃったかな?」
コウジは、レイミアを攻撃してしまった事を密かに後悔していた。
「気にするなよ、コウジのせいじゃねぇって!」
励ますナオキだが、コウジは落ち込んだままだ。
「はあ…」
「だーめだ、こりゃ;」
ため息をつくコウジに呆れるナオキ。
と、そこへ。
「キョウイチくん、ちょっとじっとしててね」
「はうー…えっ?」
キョウイチが下を見ると、ミナモが服の汚れた部分をハンカチで拭く。
「あ、ありがと」
「どういたしまして!」
やっと汚れが落ちた為、キョウイチはミナモに礼を言った。
「キョウイチとミナモだ。そう言えば最近仲いいな、あの二人」
ナオキは二人を見つめている。
トモヤはというと――。
「だーから俺は悪くねえって何回言や気が済むんだよ!?」
「反省するまで気が済まないわよっ! バカじゃないのっ!?」
教室内では、幼なじみ同士でもあるトモヤとヒナが口ゲンカをしている。
「ああ、兄さんったら〜!」
必死に仲裁に入ろうとするトモユキだが、なかなか入れない。
それは余りに二人が恐ろしいからだろう――。
「トモヤくん、前よりは元気になったわよね」
女子の方では、アオイとアヤノ、マユ、トウカが楽しそうに二人の痴話喧嘩を見つめながら話している。
「ホントよねー! やっぱトモヤくんはあれくらいの元気がなくっちゃね!」
アオイに続いてアヤノはうんうんと頷いた。
「でもトモユキくん災難よねぇ;」
心配そうにトモユキを見つめるマユにトウカはクスクスッと笑う。
「そうね。でもお兄さんであるトモヤくんがああして元気になると、一番に嬉しくなるのはトモユキくんだと思うわ」
トウカは小さい頃からずっと親王兄弟とヒナを見てきたのだ。
三人の気持ちは一番よくわかる。
「トモユキくんが嬉しそうにしていると、何故だか…私まで嬉しくなっちゃうわ」
アオイ達に聞こえないようにトウカは小さく囁くのだった。
「でも、キョウイチくんって本当に服が好きなのね」
ハンカチを洗いながらミナモはキョウイチと話している。
「そりゃあ、美しさを大事にしなくちゃあね」
自慢げに語るキョウイチにミナモは羨ましそうに見つめる。
「いいなぁ…キョウイチくんは美しさをアピールできて」
「えっ? ミナモちゃんにだってあるんじゃないの?」
「ううん。私、アピールできるものないもん」
「何で?」
「だーってさ、私って普通の女の子だもん。特別な…そう、トウカさんのようなすごい美人じゃないし」
トウカを羨ましがるミナモにキョウイチは、ある事を思いつく。
「そうだ、ミナモちゃんって趣味とか特技ってないのかい?」
「えっ? まあ、しいて言うなら読書かな? パパが書いた小説を読むとか」
「なら、その好きな事をアピールできればいいんじゃないかな?」
「そうかな?」
「そうだよ、僕は賛成するよ」
「ありがとう」
お互いの顔を見合わせながら笑うキョウイチとミナモ。
「何か…あーゆーのって、いいよねぇ」
キョウイチとミナモを見ながらカイトはマモルに問う。
「せ、せやな;」
苦笑いしながらマモルは頷き返す。
「カイトくんってああいうのに興味あるんやな」
「実はね、まだ兄ちゃんにも話してないんだけど、僕ね…好きな子いるんだ」
赤面になりながらボソボソと話すカイト。
「えっ!? 誰々!?」
「誰にも言わないでね?」
「わかっとるよ!」
興味津々に頷くマモルにカイトは少々緊張しているが話を続ける。
「あのね…ミヨちゃん」
「ミヨちゃん? カイトくん、ミヨちゃんが好きなんか?」
「うん、でもミヨちゃんは兄ちゃんが好きみたいで…」
カイトの指さす方向には自分と同い年の財津ミヨがピョンピョン飛び跳ねている。
「あれ? ケントくんは何処だわさー?」
ミヨが探しているのはカイトではなくケントだ。
「ホンマやな;」
「はあ…;」
「ふふっ。選ばれたウェブダイバーと聞いて見てみたら、ただの甘ったれの坊やばっかりじゃない」
ケガを完治したレイミアの隣りで、11人のウェブダイバーのデータを見ている一人の少女。
「あなたって、大人の男が好みなの?」
訊ねるレイミアに、少女は勝ち誇った表情でレイミアの方に向く。
「よくわかっているんじゃない、レイミア」
「だって、いつもあなたはキトリやシャイアを子供扱いしてるじゃない。同い年なのに…そうでしょ?
リュンファ…」
リュンファと呼ばれた栗色の髪の少女はフフッと笑う。
「当たり前じゃない、あいつらは子供なのさ。本当の戦いの意味を知らない子供でね」
「今度はあなたがルシフェリオンと出撃するのね」
「そう。行く前にレイミア、ちょっと占ってちょうだいよ」
「ええ、いいわよ」
頷いたレイミアはタロットカードを並べる。
「今度は…10番目のカード、『WHEEL』。つまり、運命の輪よ。戦いは避けられないってわけね」
そう言って、リュンファにカードを見せるレイミア。
「戦いは避けられない…か。いいよ、上等だよ! 戦いを甘く見てる日本の坊や達にこのあたしの強さを
教えてやるわっ!」
高笑いしながら、リュンファはレイミアから去って行った。
「ふう…調子に乗りすぎない事を祈るわ。運命の輪は、幸運か不運かはカードによって判断されるから
時々変化が起こるかもしれないわ」
一息ついた後、タロットカードをしまいながら、レイミアはキトリの言っていた事を思い出す。
「そう言えば、何故キトリはリュンファを先に出撃させたのかしら? 何か意味でもあるのかしら…?」
「あれ?」
教室に戻ったミナモは教壇に飾ってある花を見つける。
「どうしたの? ミナモちゃん?」
シラベが尋ねると、ミナモは悲しそうな表情になる。
「お花…枯れちゃった」
「えっ? あ、ホントだ。今朝お水替えたばっかりなのに…」
花瓶に生けた花が一本も残らず枯れてしまったのだ。
「あーっ! この間描いた絵の絵の具溶けてるーっ!」
カイトが描いた絵から絵の具が零れてくる。
「何で!?」
驚くカイトの後ろではツバサの叫び声が聞こえる。
「うあああっ! サッカーボールが溶けちゃったよー!」
大事なボールが溶けてしまい、ツバサはショックを受ける。
「ショウさぁん…!」
ツバサは涙目でショウに訴える。
「かわいそうに…気持ちはよくわかるよ」
ショウはツバサの悲しみを受け止めてくれた。
何故なら――。
「たった今、僕の机も溶けちゃったから;」
気の毒そうな顔で、ショウは机に指す。
「げげっ!僕の上着が…命が溶けるうううっ!」
「んな怖い事、チビ共の前で言うなっ!」
慌てるキョウイチにトモヤが突っ込む。
ちなみに、チビ共とはカイト、マモル、ツバサの三人である。
「チビって言わないでよ! これでも最近140センチになったんだからなっ!」
「俺より高いってのはどゆ事!?」
ナオキが身長の事でツバサに問いつめる。
「四年である俺は138なのに、三年であるツバサが140とはどーゆーわけ!?」
「ナオキくん、ちゃんと牛乳飲んでんの!?」
「飲んでらぁっ!」
「僕の服を…おのれええええっ!」
「ぎゃあっ! キョウイチくんがヒステリー起こしたあっ!;」
キレたキョウイチを何とか宥めようとするマモル。
その時にケントのグランモバイラーが光る。
「あっ…!」
「グラディオンからだよ!」
グランモバイラーが光った。
それは即ち、それはグラディオンから事件の知らせがあるという意味だ。
「キョウイチ、一緒に行くか? 服の敵取ろうぜ」
ケントの誘いにキョウイチはもちろん、受け入れた。
マジカルステーションに到着したケント達はすぐさまグラディオン達の元へ急ぐ。
「お待たせ、グラディオン!」
「ケント。キョウイチも来てくれたか。こちらにも、ちょうどフェニクオンが待機している」
「待っていましたよ、キョウイチ」
グラディオンとワイバリオンと共に待っていたのはフェニクオンだった。
「フェニクオン、やっぱりこれは…」
まさか…と言いかけるキョウイチに、フェニクオンは頷く。
「はい、ルシフェリオンの仕業です。しかも場所はマグマエリア! ミーのエリアを好き勝手にするなんて
許せません!」
「よしっ、ジャガオンも行くと言っていた! 出撃だ!」
マジカルステーションから、三体のウェブナイトが出撃したのだった。
マグマエリアでは、殆どの物が溶け始めている。
「くそっ! 何て事だっ…!」
悔しがるジャガオンの前にグラディオン達が到着する。
「グラディオン、みんなっ! 来てくれると信じてたぜ!」
「そりゃここはミーの担当ですからね!」
「ウェブチェンジッ! フェニクオンッ! ファイターモードッ!!」
キョウイチのかけ声と共にフェニクオンがファイターモードに変形する。
「待っていたぞ…」
その直後にルシフェリオンが出現する。
「ルシフェリオンッ…!」
睨み付けるグラディオンとケントの前に栗色の髪の少女が現れる。
綺麗な顔立ちだが、何処か厳しめな印象だ。
「あんたがグラディオンのウェブダイバーで、戦いの意味を知らない坊やの結城ケントだね?」
「だっ、誰だ!?」
「あたしはリュンファ。堕天四天王の中で最も戦いの価値がある女さっ!」
リュンファの瞳は、既に闘志が宿っていた。
そのまま彼女は、ルシフェリオンの中へ戻る。
「この世に産まれてきた事を思いっ切り後悔させてやるっ!」
「オイラ達は負けやしないっ! ガトリングバスターッ!」
先手でジャガオンがルシフェリオンに攻撃する。
「ふんっ、そうやって暴言を吐きながら突進していく奴は戦いの本当の楽しさを知らないんだよっ!」
リュンファの言葉と同時に、ルシフェリオンのルシファーブレードが銃になる。
「シャドーフレアッ!」
銃口から炎がジャガオンを燃やそうとする。
「うあっ…!」
熱さに耐えられないジャガオンは一度ルシフェリオンから離れる。
「くそっ…これじゃ攻撃ができないっ!」
「相手が炎ならば、こちらも炎でお相手をしましょう!」
「うんっ!」
フェニクオンとキョウイチがジャガオンを庇う。
「ヒートウェーブッ!」
フェニクオンの両翼から炎の渦がルシフェリオンを包み込む。
「あっ…でも本人も火傷しちゃうかもっ!」
キョウイチは、ルシフェリオンの中にいるリュンファに気付く。
「ご心配は感謝するよ。けどね…あたしはこんな火傷など平気なのさっ!」
火傷した左腕にそっと右手を乗せるリュンファ。
すると――。
「なっ…!?」
「火傷が…消えたっ!?」
フェニクオンとキョウイチは、突然の光景に驚きを隠せなかった。
そう、リュンファの左腕の火傷が綺麗に無くなっていたのだ。
「あたしにはね、蘇生能力があるのさ。誰が傷ついてもすぐに復活するし、豹のように死を恐れないのさっ!」
だが、リュンファは気付いていなかった。
何故なら、ルシフェリオンの背後にグラディオンが攻撃しようとしている事を――。
「今だっ!」
「!?」
ケントの合図でグラディオンはグランブレードを振り下ろす。
「ビクトリーザーンッ!」
グランブレードがルシフェリオンの背中を斬りつける。
「ぐううっ、しまったっ…! リュンファ、ここは退くぞ!」
痛みに耐えながらも、ルシフェリオンはそのまま消えてしまった。
「逃げられたかっ…!」
「ケントッ! ケガは!?」
慌てて話しかけるキョウイチにケントはコクッと頷く。
「ああ、大丈夫だ。キョウイチは?」
「こっちも大丈夫。フェニクオンの方も大丈夫だって」
「そっか…よかった」
ケント達は安心して戻るが、ジャガオンだけは何処か不満だった。
「っ…!」
そう、それは――。
「やっぱり必要だ。オイラにもウェブダイバーがっ――!」
「あっ! 枯れたと思ってた花が元気になってるよ!」
「ホントだ! よかった〜!」
教壇に飾ってある花が元気になったのを見たミナモとシラベは喜んでいる。
「サッカーボールが元に戻ったぁっ!」
これでサッカーができる、とツバサはボールをキューッと抱きしめる。
「ホッ、僕の机も元に戻った」
自分の机も元通りになって、ショウは一安心した。
「一時はどうなるかと思ったわね、トモユキくん」
ホッとしているトモユキに話しかけるトウカ。
「はい、こっちはビクビクしちゃいました」
話している二人を見ながらトモヤは小さい頃を思い出す。
「そういやー、トモユキが熱出した時に困っていた俺を励ましてくれたのって…誰だったっけ?」
「おのれ…あのガキ共っ! このあたしをコケにしてくれたねっ!」
悔しがるリュンファの前にキトリが歩み寄る。
「ふんっ、あれだけ強さを見せてやると言っておいて、負けて帰って来るとはな」
「うっ…うるさいね! 今日はたまたま失敗しただけさっ! そう言うあんたは、自信満々じゃない!?」
あえて、負けた事を認めないリュンファにキトリはニヤリと笑う。
「ああ…俺はな、憎い奴を傷つけるのが楽しみでしょうがないんだ。それに利用できる女を見つけたしな。
今度は俺が行く…そして、あいつを陥れてやるっ!」
そう言って、キトリはトウカのデータを呼び出す。
「こいつなら使える。あいつを陥れるのにな…ハハハハッ!」
キトリの高笑いがナスカエリアの中で響き渡るのだった――。