第6話 無情の読心者!ソルジャー・レイミア
「あっ…」
翌朝、ケントとカイトは朝食を食べながらテレビを見ていると、ウェブモンスターのニュースが出ていた。
字幕も、『ダイバーランドで謎の怪物体出現』と。
女性のニュースキャスターがモンスターの出現の時の状況を伝えている。
「あのモンスターまた出るのかな…? 兄ちゃん」
カイトは、昨日の事を思い出して泣きそうになりながらケントに尋ねる。
「大丈夫さ、もしそうなったとしても兄ちゃんが守ってやるからな! もちろん、グラディオン達と一緒に救い
出してみせるさ! 子供達やシャイアや…エイリさんをな!」
明るく励ますケントにカイトも笑顔で頷いた。
「うんっ!」
「よしっ! そうと決まれば早く朝ご飯を食べて元気よく学校へ行こうぜ!」
弟の頭を撫でた後、ケントは朝食を食べる。
カイトも笑顔で兄を見つめながらも食事を続けるのだった。
「おはよう、マモルくん!」
教室にて、カイトがマモルに声をかける。
「あっ、おはようカイトくん」
「肩のケガはもう大丈夫?」
マモルの怪我を知ったカイトは心配そうに尋ねる。
「うん。まだ少し痛むんやけど…でも大丈夫や!」
「そう? よかったぁ!」
笑顔で楽しく話すカイトとマモルを見つめるケント達。
「マモルが帰って来た時、マジカルゲートの戦いでの傷が現実でも響くなんてびっくりしたよ」
キョウイチがマモルを見つめながらケント達と話す。
「あのシャイアって奴が言ってたけどよ、『自分には後三人仲間がいる』ってのはどういう事なんだ?」
首を傾げるナオキにショウは説明する。
「多分、そのシャイアって子と同じように超能力を持った三人の子達がいるって事じゃないかな?」
「その中にエイリさんがいるのかしら?」
エイリを心配するアオイに全員は静まりかえる。
「とにかく…またモンスターがここに現れるかもしれないから、先生が『明日から自宅待機してください』って
言ってました」
やっと兄と共に学校に登校したトモユキが、担任からの連絡をみんなに伝える。
ちなみに、トモヤはボーッとした表情で窓の外を見ている。
一応コウジが声をかけてみるが、彼は上の空のままだ。
「はあ…だめだこりゃ」
ため息をつくコウジの背後から声がかけられる。
「コウジくん」
「へっ? あっ…///」
彼に声をかけたのは、二年生の臼井チサト。
いつも落ち着いていて、大人びたインド人のクォーターの少女だ。
「チサト、ちゃん。どうしたんだ?」
赤面になりながらもコウジはチサトに問いかける。
「あっ、チサトでいいよ。あのね、昨日はその…慰めてくれてありがとう」
どうやら、昨日はモンスターの出現に驚いて泣いていたチサトをコウジが慰めたようだ。
「あの時すぐお礼を言おうと思ったんだけど、すぐに総下校になったから言えなくって…」
「えっ、いや、クラスメートが落ち込んでたら放っておけなくてさ」
「優しいもんね、コウジくん」
笑顔で話すチサトにコウジは更に赤面になる。
その時――。
「チサトちゃーん! ちょっと来てー!」
同級生のシラベがチサトを呼ぶ。
「あっ、うん! それじゃあね、コウジくん。本当にありがとう!」
コウジに一礼したチサトはシラベの元まで走って行った。
「チサト…」
走り行くチサトを見送りながらコウジはチサトの名を呟く。
と、そこへ…。
「へー、コウジくんって、チサトに興味があるんだ〜」
「ほー、初めて知った〜」
コウジの隣でツバサとキョウイチがニヤニヤしている。
「へっ…? うあわっ! いつからいたんだ!?」
「お二人さんが仲良く話している時からだよ〜♪ それにしてもアッツアツだね〜♪」
驚くコウジにツバサは笑顔でからかう。
「おっ、おいおい! 別にアツアツなんてっ…///」
「照れない照れない♪」
キョウイチまでコウジをからかう。
「そっ、そういうキョウイチだって先週ミナモちゃんと一緒だったし、ツバサだって一昨日アヤノちゃんと話し
てたじゃんか!」
負けずに言い返すコウジに何故かツバサだけは「うっ!」と引きつる。
キョウイチは何故か平然としている。
「ああ、あの時はミナモちゃんが買い物の帰りで、荷物を持つのを手伝ったからさ」
「あっさり言ったなこの人…で、ツバサは?」
自分の方に向くコウジに、ツバサは大慌てする。
「ちっ…違うよ! アヤノちゃんはただの幼なじみだよぉ!///」
「そう言えば、幼稚園一緒だったみたいだな」
コウジはツバサ達三年が入学した時の事を思い出す。
「懐かしいなぁ。確かあの時、新入生が四人だと聞いた時はまさか男子が一人だけとは知らなかったよ」
「そうだねぇ」
「はあ…」
いつの間にかのほほんと思い出に浸っている三人であった。
一方、パリにいるジャンはガリューンと相談しながらルシフェリオンの事を調べている。
「ルシフェリオン…あいつは一体誰に造られたんだろう?」
「まだわからん。こちらも調べているのだがな…」
新しい発見もなく、ジャンは、はあっとため息をついて、頬杖をつく。
「ケント達の言っていた子。名前は確か、エイリだったな。彼女がルシフェリオンのウェブダイバーになって
しまったって聞いたけど…」
「ああ…」
「あっ、そうだ!」
すると、ジャンは何かを思いだしたかのようにペンで紙に書き込む。
「何をしているんだ? ジャン…?」
尋ねるガリューンにジャンは書き終えた紙を見せる。
「ルシフェリオンの名前って何かに似ているなと思ったら…ルシフェルと名前が似ているんだ」
「ルシフェル…と?」
「うん。ルシフェルっていうのはね、大天使ミカエルの双子と言われている天使で、でも天界の決まりを
破ってしまった堕天使なんだ」
「堕天使だと!?」
確かにルシフェリオンは堕天使型のウェブナイトだ。
「でも、名前の由来を調べても仕方ないよね…」
「うむ…」
我に返ったジャンとガリューンは、はあっとため息をついたのだった…。
「あら…」
マジカルゲート内で一人の少女が何やら占いをしている。
「何をしているんですか? レイミア」
少女の側に、シャイアが歩み寄る。
「シャイア…占いの結果が出たわ」
レイミアと呼ばれた少女はフッと顔を上げる。
「結果…ですか?」
「ええ、このカードを見て」
そう言って、シャイアに一枚のタロットカードを渡す。
「ほう。これは13番目の『DEATH』…死神ですね。誰と誰が死ぬのですか?」
「あなたは二人死ぬ事を予知しているみたいね」
レイミアは11人の子供の映像を映し出す。
その子供とは勿論、ケント達11人のウェブダイバーだ。
「この桜庭コウジっていう子と、ジャン・ジャック・ジャカールっていう子が今日死ぬわ。どうしてかというとね、
この私に倒されるのだから――」
「………」
沈黙しているシャイアを見つめたレイミアはクスッと小さく笑った。
「シャイア、今あなたは占いが外れる事を予知したでしょ?」
「…僕の考えをわかっていましたか」
「ええ、私は心を読みとる事ができるのだからね」
「なるほど…エイリの方はどうですか?」
「エイリなら、デリトロスが残したジャギを回収しているわ。リュシフェーラ計画の為にね……私はそろそろ
ルシフェリオンと出撃するから」
「お気をつけて」
タロットカードを閉まったレイミアは、手からダーツを二本出す。
「もし占いが当たれば、今言った二人は今日死ぬ…ふふっ」
シュンッ…!
レイミアがダーツを投げると、ダーツは見事にコウジとジャンの映像の額部分にに突き刺さった。
「お見事ですね」
「ええ…行って来るわ」
金色の髪を靡かせながらレイミアはルシフェリオンの元まで歩いて行った。
銀色の髪を輝かすシャイアに見送られながら…。
「痛っ…!」
額に痛みを覚えたコウジは額を押さえる。
「どしたの?」
首を傾げるツバサにコウジはうーっと呻る。
「今、おでこが痛かったような」
「じゃあチサトに『痛いの痛いの飛んで行け〜』ってしてもらったら?」
からかって笑うツバサにコウジは赤面になる。
「何でそこでチサトが出てくんだよ!?///」
「さあね〜! ははははーっ!」
元気に走り回るコウジとツバサ。
「じゃあ私はこれで…」
帰りの支度を終えたトウカが教室から出ようとする。
「あれ? トウカちゃんもう帰るの?」
尋ねるヒナにトウカは少々恥ずかしそうに話す。
「え、ええ。今日はね、茶道の稽古があるから…」
「あ、そっか」
「その後に華道の稽古もあるの、それじゃあごきげんよう」
そう言ってトウカは、ヒナやみんなに一礼した後に教室から出た。
「日舞もやってるんだよね、トウカさんって」
「さすがお嬢様だよね」
「しかも美人だし…羨ましいわ〜」
チサトとミナモとシラベは羨ましそうにトウカを見送る。
「そう言えば、この間迎えが来たのを見た事あるぜ」
ナオキもトウカを見ながらケント達と話している。
「彼女は家で一番大事にされているからね」
「お父さんが貿易商のお仕事をしているのよね?」
ショウとアオイもその話に参加している。
「そうか…痛っ!」
何かがケントの頬を掠める。
「どうしたの!?」
心配するアオイにケントは首を横に振る。
「わからない。今の…何だ?」
その時…。
「きゃあっ! ツバサくんの変態!!」
「僕じゃないよぉ!」
背後では三年の皆本アヤノとツバサが口論になっている。
「どうしたんだい?」
仲裁に入ったショウにアヤノは涙目になる。
「ショウさぁん! ツバサくんが私の服の肩口を切り裂いたんですよ!」
「僕やってないよ! アヤノちゃんこそ僕のタンクトップの紐切っただろ!?」
「切ってないわよ失礼ね!」
よく見れば、アヤノの肩口が切られていて、ツバサのタンクトップの両方の紐が切れている。
両肩を押さえながらツバサは自分じゃないと宣言する。
「うわあっ!」
ナオキの左腕から血が出てくる。
「ナオキくん!?」
アオイはそっとナオキの左腕を押さえる。
「目に見えない物が俺の左腕を切ったんだ…!」
傷口を押さえるナオキの側に三年の太宰アミが手に持っているハンカチで傷口を縛る。
「アミ…?」
「アミちゃん?」
キョトンとするナオキとアオイにアミは、「よしっ!」と結び目を作った。
「このままで保健室に行った方がいいよ、ついていく」
「あっ…ありがと」
自分に付き添うアミに、ナオキは礼を言った。
「アオイちゃん、ちょっとナオキくんを保健室まで連れて行くから」
「ええ、お願いね」
何かを理解したアオイはナオキをアミに任せた。
「ナオキ…」
友人を心配するケント。
その時に、グランモバイラーが光り出す。
「あっ…!」
「ケント、俺も行くよ!」
教室から出ようとしたケントとカイトにコウジが止める。
「コウジ…!?」
「言っただろ? 俺はケント達の役に立ちたいって!」
「…わかった、行こう!」
頷いたケントは、カイトとコウジと共に教室から出て行った。
マジカルステーションでは、一足先に来ていたカロンとジャンがケント達を出迎える。
「待っていたピョコ! ケント! カイト!」
「コウジも来たんだね」
息を切らせながら、コウジは頷く。
「ああ、俺だってウェブダイバーだからな!」
と、そこへ…。
『待ってたぜ! 俺様のウェブダイバー!』
通信モニターにシャークオンが映し出される。
「シャークオン!」
『お前とは、正義の味方としてのダイブは初めてだな。よろしく頼むぜっ!』
「おうっ!」
笑顔で返事をするコウジに、シャークオンは満足したようだ。
その後に、グラディオンが映し出される。
『ケント、ダイバーランドの方でかまいたち事件が発生している。発信源はリュウグエリアだ』
『ルシフェリオンの奴! 俺様のエリアをっ…行こうぜコウジッ、ジャンッ、カイトッ、ケントッ!』
「「おうっ!!」」
「「うんっ!」」
ケント、カイト、コウジ、ジャンの四人はグラディオン達と共に出撃した。
リュウグエリアでは、気味の悪い魚が泳ぎ回っている。
「うっわー…汚そう」
口を尖らせるケントにコウジも頷く。
「ホント…気持ち悪い」
「油断はしない方がいいよ、この近くにいるかもしれないからね」
辺りを見回しながら警戒するジャン。
その時…!
「シャドーアローッ!」
ガリューンの背後から黒い矢が飛んでくる。
「ぬっ!?」
見事、ガリューンはその矢を切り落とした。
「お前か…ルシフェリオン!」
睨み付けるグラディオンの先にはルシフェリオンの姿が…。
「彼女のシャドーアローを切るとは、さすが漂泊のウェブナイト・ガリューン」
ククッと笑いながらルシフェリオンは再び矢を放とうとする。
「彼女だと…? まさか、エイリさんか!?」
ケントは、ルシフェリオンの言葉を聞き逃してはいなかった。
「そうだ…始末する前に紹介しておこうか」
ルシフェリオンの体から、少女が出てくる。
「あっ、エイリさんじゃ…ない」
目の前にいる少女は、ケント達が求めている人ではなかった。
金色の髪に群青の瞳の少女。
「私の名はレイミア。堕天四天王の一人よ。この間はシャイアがお世話になったようね。悪いけど、エイリ
を返すわけにはいかないわ」
そう言って、レイミアはタロットカードの束を取り出す。
「あれは、タロット…カード?」
呆然としているグラディオン達にレイミアはクスッと笑った。
「戦う前に、ちょっと占わせてもらうわね。あら、やはり死神のカードね」
カードの束の中から死神のカードが出てくる。
「結城ケントくんと結城カイトくん、あなた達兄弟以外の子達は残念ながらここで死ぬわ」
「何だって!?」
「そんな事信じられるか…と思ったわね」
再び笑うレイミアにケントは驚く。
「まさかっ…!」
「ええ、そのまさかよ。能力があるのはシャイアだけじゃないわ。私には読心力があるのよ」
「こちらの作戦もお見通しという訳か…」
ジャンの答えにレイミアはタロットカードを消す。
「そうよ。あなた達は今ここで、私に倒されるのよ!」
そう言って、レイミアはルシフェリオンの中へ戻った。
「レイミア…!」
自分の思いを読みとられたケントは未だに唖然としたままだ。
「ケントッ! レイミアを助け出すにはルシフェリオンを倒す以外ないのだっ!」
グラディオンの呼びかけに我に返ったケントは、すぐさまグラディオンとワイバリオンとの合体を開始させる。
「いくぜコウジッ!」
「おうっ!」
グラディオンの前に来るシャークオン。
「アクアトルネイドッ!」
シャークオンの手から放出された水の渦がルシフェリオンを包み込む。
「効かぬな…」
バッとアクアトルネイドを弾き飛ばすルシフェリオン。
「なっ…!?」
「ならば今度は俺達からだ!」
唖然とするシャークオンに続いて、ガリューンがルシフェリオンに挑む。
「シャイニングボルトッ!」
ガリューンから放たれる雷がルシフェリオンを襲った。
だが――。
「効かぬと言っているのがわからぬのか――この愚か者共めがっ!!」
攻撃を避けた後に、ルシフェリオンはルシファーブレードで雷を切る。
「ガリューンの技が…効かない!?」
ルシフェリオンの強さにジャンは力が抜ける。
「前に言ったはずだぞ、ウェブナイト共。我は不死身だとな…」
「今度はこちらの番ね…」
クスッと微笑むレイミアにルシフェリオンは、「うむ」と頷く。
「ルシファーブレードッ!」
昨日と同じような衝撃波がグラディオン達を襲う。
「うわあああああああっ!」
衝撃を受け、倒れ込むグラディオン。
「グラディオンッ!」
「ケントッ!」
グラディオンの元へ飛んで来たガリューンはグラディオンに肩を貸す。
「すまん、ガリューン…」
「大丈夫かい? ケント?」
「うん。サンキュー、ジャン…」
「バラバラに攻撃していたらキリがないな」
ガリューンの疑問にジャンも賛成する。
「そうだね。何か、何か方法はないのか…!?」
悩むジャンを見つめるコウジ。
その時、彼はある方法を思いついた。
「あっ…そうだ!」
コウジは、シャークオンに何やら話しかける。
「ん…? そうか…よしっ!」
納得するシャークオンにレイミアは二人の心を読む。
「なるほど…全員で総攻撃を見せかけて、自分を犠牲にしようという作戦なのね…悪くないわ。それなら
遠慮なく、占い通りにまずはあなたを抹消してあげるわっ! 桜庭コウジくんっ!」
ルシフェリオンとレイミアがシャークオンに向かって攻撃を開始する。
「シャドーアローッ!」
ルシファーブレードが弓矢に変形し、そこから大量の矢が飛んでくる。
「今だ…みんなっ!」
「何っ…!?」
コウジのかけ声と共にグラディオン達は総攻撃する。
「おうっ! やろうぜ、グラディオン!」
「ああっ! いくぞケントッ! ビクトリーシュートッ!!」
まずは、ビクトリーグラディオンのビクトリーシュートがルシフェリオンの右半身を攻撃する。
ズガアアアアアアンッ!
「ぐっ!?」
「ルシフェリオンッ…!」
ルシフェリオンと同時に右半身を痛めるレイミア。
「今度はこっちの番だ!」
「シャイニングボルトーッ!」
続いて、ガリューンのシャイニングボルトがルシフェリオンの左半身を攻撃した。
ビジュイイイイイインッ!
「うっ…!」
全体を痛め、レイミアは苦痛に苦しむ。
「いくぜコウジッ!」
「ああっ!」
「アクアトルネイドッ!」
最後にシャークオンのアクアトルネイドがルシフェリオンの翼を攻撃した。
「一体何故っ…!?」
今の自己犠牲は見せかけだったのか。
レイミアは苦しみながらコウジに問いかける。
「心を読まれるとするなら、その心の中に嘘の方法を、それから本当の作戦にうつる方法を思いついたんだ!」
「コウジ…!」
ケントは感心の眼差しをコウジに向ける。
「そう…だったの。でもね、あなた達が死ぬ事には変わりないわっ…!」
「待てレイミア、今日はこのくらいにして引き上げよう。ザコ共の相手をしていると、あの計画が実行しにくく
なる」
まだ戦おうとしているレイミアを止めるルシフェリオン。
「うっ…そうね、わかったわ。まだキトリ達がいるものね」
「そうだグラディオン、今日はこれぐらいにしてやろう。だが、エイリは決してお前達の所へは帰さない……
いや、エイリはもう帰って来ないっ!」
そう言い残して、ルシフェリオンは姿を消す。
「待てっ!」
追いかけようとするグラディオンだが、ガリューンがそれを止めた。
「今は休息が大事だ。戻るぞ」
「ガリューン…わかった」
仕方なくグラディオンは頷く。
「はあはあ…」
教室ではやっとツバサとアヤノの仲裁を終えたショウが息を切らしながら座り込んでいる。
「あっ、すっかりショウさんに任せてた…」
マジカルステーションから戻ったケント達は現在のショウの状況を理解した。
「ナオキくんは、軽いケガだってアミちゃんが言ってたわ」
アオイからの情報にケント達はホッとした。
「コウジくんっ!」
再びチサトがコウジに話しかける。
「あっ…ど、どうしたんだ? チサト?」
「右の手首から血が出てるわ! どうしたのっ!?」
そっとコウジの右手首を押さえるチサト。
「そ、そこで転んじゃってさ(あ、さっきの戦闘でいつの間にか手首が切れちゃったのか? 気付かなかった」
「ちょっと待ってて!」
苦笑いするコウジだが、チサトは黄色のハンカチで彼の右手首を縛った。
「このまま保健室まで行こう? ついて行くわ。その代わり、治るまで絶対に外しちゃだめよ?」
優しく左手を引くチサトにコウジはつい、「うん」と頷いてしまった。
「ごゆっくりね〜お二人さ〜ん♪」
コウジとチサトが教室から出た後に、ケントやキョウイチ達がからかい始めるのだった。
「うっ…ううっ! 何て事なの…この、この私がぁっ!」
暗闇の中、レイミアは傷の重さに苦しむ。
「かわいそうに…辛かったんですね」
手当をしながら、シャイアはレイミアを見つめる。
そこへ――。
「何だよ、お前負けたのか?」
シャイア達と同い年の少年がレイミアを冷やかす。
黒い髪に小麦色の肌を持つ少年にシャイアは「嫌味を言うのはやめなさい」と注意する。
「本当に君は、エイリにしか優しくしませんね、キトリ…」
キトリと呼ばれた少年は暴言を吐く。
「うっ…うるさいっ! 俺以外の奴があいつを倒すのが悔しいだけさ!」
「残念ですが、今日はいらっしゃいませんでしたよ。君のお気に入りの、親王トモユキくんは…」
「誰があんな奴を気に入っていると言った!? その逆さ。俺はあいつが…親王トモユキが憎いんだよっ!」
キトリの手から雷が放たれ、天上に映されているケント達の映像のうち、トモユキの映像を破壊する。
「ほう、それは失礼。けど憎んでいるにしては、君はいつも彼の日常を見ていますね」
「あいつに弱点があるかどうか見ているだけだ…おっ?」
トモユキのデータを見ていると、キトリは一つだけ気になる映像を見つける。
それは――。
「この女は?」
「どれ?」
レイミアの手当を終えたシャイアは、キトリが見ている映像を覗き込む。
その映像にはトモヤとトモユキとヒナとトウカが楽しそうに話している場面だった。
「この背の高い少女ですか?」
ヒナを指さすシャイアにキトリは首を横に振る。
「違う。その隣にいる女だ」
キトリの指さす先にはトウカがいた。
「ああ、彼女は親王トモユキくんが惚れ込んでいる子ですよ。名前は確か…『佐方トウカ』。父親が貿易
商人で、なかなか可愛いお嬢さんですね」
「つまり、親王トモユキの大事なものか。そうだ――この手があった」
シャイアの説明にニヤリと笑うキトリ。
「どうかしましたか? 今度は君が出撃しますか?」
「いや、先にリュンファを行かせてやれ。俺に良い考えがある。佐方トウカ…か。ククッ!」
卑屈に笑うキトリを見つめ、その後に手当を受けて眠るレイミアを見つめながらシャイアは深くため息をつく
のだった――。
