第4話  堕天使!ルシフェリオン





 ――ント…ケント…。


「う…ん…誰? 俺を呼ぶのは…」


 ――ケント…ケントくん…。


「この声は…まさか…エイリさん!?」

 暗闇の中、ケントは目を覚ます。

「何処にいるんだエイリさん!?」

 ケントは、エイリを探そうと走り出す。

 そこへ…。

「ケントくん…」

「えっ…あっ…エイリさん…!」

 ケントの背後からエイリが現れる。

「よかった…無事だったんだ…!」

 エイリの無事を知ってホッとするケント。

 …だが…。

「…やる」

「エイリ…さん…?」

 エイリは何かを言おうとしている。

「どうしたの? 何をやるの?」

 ケントは嫌な予感をさせながらも尋ねる。

「あなたを…殺してやる…」

 今のエイリの表情は憎しみで溢れている。

「エイリさん!?」

 驚くケントの胸に剣が刺さる。

「うわああああああああああ!!!!」





「エイリさん…! あっ…!」

 気が付いたら、ケントは自分のベッドで寝ていた。

「今のは…夢か…エイリさん…」

 ケントはエイリの無事を祈りながら再びベッドで横になる。

 夢に出てきたエイリのあの表情…。


――あなたを…殺してやる…。


「無事でいてくれよ…必ず助けるから…エイリさん…」

 多くの不安を抱えながらもケントは再び休むのだった。



 翌日、トモヤとトモユキの様子がおかしい。

 トモユキは泣きそうになっていて、トモヤは悔しそうにしている。

 やはり、エイリの事が気になって仕方がないのだろうか?

「今日のトモヤくん達…いつもと違うね…」

 ツバサは、コウジ達と一緒にトモヤ達を見つめている。

「ホントだよな。無理もないだろ…エイリさんがいなくなったんだからさ…」

 コウジは深くため息をついた。

「それに…ナスカエリアを解放できなかったみたいだし…何があったんだろうな?」

 昨日、グラディオンとゴレムオンと共に新たなウェブモンスターを倒したはずなのに、ナスカエリアが元に戻る事はなかった。

「ケントくん? 大丈夫?」

 席に座ってボーッとしているケントに話しかけるアオイ。

「あっ…アオイちゃん…うん…大丈夫…」

 だが、全然大丈夫には見えない。

「やっぱりエイリさんの事…?」

「うん…昨日…エイリさんの夢を見たんだ」

「エイリさんの?」

「そう…俺を呼んでいて…だけど、俺を憎むかのように睨んでいた…」

「睨んでいたの…? エイリさん…」

「そして…俺に言ったんだ…」

 ケントの拳が震え出す。

「なっ…何て言ってたの?」

 アオイはその震えに耐えるように尋ねる。

「俺を…『殺してやる』って…」

 その一言に男子全員がケントに振り向く。

「ケントも見たのか!?」

 トモヤの腕がケントの肩を掴む。

「もって…トモヤくんも?」

「ああ、俺達も同じ夢を見たんだ…エイリの夢を…」

 トモヤが悔しみながら顔を伏せる。

「それで兄さん…寝る度に呻っていて…」

 トモユキも顔を伏せる。

「兄さんはずっと言ってました…『助けられなくてごめん』って…」

「トモヤくん…トモユキくん…」

 二人を見つめるケントにナオキが話しかけてくる。

「俺も見たんだ…ケント達と同じ夢…」

「というより、ウェブダイバー全員が見たようだね…」

 ナオキやショウも同じ夢を見たようだ。

「実は…私も見たの…」

 ポツリと呟くように話すアオイにケントは驚く。

「アオイちゃんも見たのか!?」

「ええ…私を酷く憎むかのように見ていたわ…」

 夢に現れたエイリの表情には何か意味でもあるのだろうか?
「エイリ…くそっ…!」

 トモヤは何かを振り払うかのように教室から走り去る。

「あっ、兄さん!!」

 トモユキは急いでトモヤの後を追いかけて行った。



「ふふふっ…随分と下らない情けを持った友人だな…」

 暗闇の中、大きなロボットが少女に話しかける。

「そのような事を気にするな…例の作戦を始めるぞ、ルシフェリオン…」

 少女はゆっくりとマスクを装着する。

「始めよう…人間共に我らの強さを教えてやろう…」

「行くぞ、ルシフェリオン…」

 少女がロボットの中に入っていく…。



「まさかまたマジカルゲートが侵略されるとは…しかも閉じこめられた子供達の数はあの時よりも増えている…60万人もが…」

 グラディオンはマジカルステーションからウェブモンスターの生息地となった各エリアを見つめる。

「一体…あの少女は何者なのだろうか…?」

 昨日、ナスカエリアで出会った少女を思い出すグラディオン。

「子供達をウェブモンスターに変えたのが、あの少女である事は間違いない…。だが、普通の人間ができる事はまずないはず…」

 色々考えていくうちにグラディオンは気分が悪くなってきた。

「後で、ケントと共にまたナスカエリアを調査してみよう…」




「ねえ…親王ブラザーズは今日どうしたんだろうね?」

「さあねえ…ケントくんやショウさん達まで元気ないし…」

 シーンと静まりかえる教室。

 二年生の琴原シラベと三年生の綾瀬ミナモはケント達の様子が気になって仕方がない。

「マモルくん、カイトくん…だいじょうぶ?」

 カイト達より一つ年上の渡辺マユが二人に話しかける。

「あっ…大丈夫や…マユちゃん」

「心配してくれてありがとう」

 無理して笑顔を作ろうとするカイトとマモル。

 そんな二人にマユは…。

「何か悩みでもあるの?」

 あっさりと見破られてしまった。

「バッ…バレた…?」

「うん、わかるわ…」

 よく見たらマユは今にも泣きそうだ。

「あっ、あのね…実はエイリさんの事なんだけど…マユちゃんは知ってる?」

 カイトは仕方なく話し始める。

「うん知ってるわ。よく遊んでもらったもの…。たしか…今マジカルゲートに閉じこめられちゃってるのよね…」

「せや、早く戻って来てくれるとええんやけど…」

 ――一体彼女は何処へ…?

 カイト達の心にはこれしかなかった…。

 その時…。

「大変よー! 先生が、先生が…!」

 六年生の占部ヒナが大慌てで教室に駆け込む。

「ヒナさん…?」

「どうかしたの?」

 ケントとアオイがヒナに尋ねる。

「大原先生が今そこで…交通事故で…」

「何だって!?」

 自分達の担任である大原先生は体育会系で、事故ったりするなんて信じがたい。

「それでどうなんだ!?」

 再びケントがヒナに問いかける。

「一応怪我はそんなに酷くないみたい…だけど、先生だけじゃない…ダイバーランドの殆どで交通事故が起こっているみたいなの!」

「そんな…一体どうなっているんだ!?」

 頭を抱えるケントに突如、グランモバイラーが光り出す。

「グラディオン…?」

「とにかくマジカルステーションへ急ぎましょう! ケントくん!!」

「ああ、行こう!」

 アオイと共にケントは急いで教室から出ていくのだった。




「グラディオン!!」

 マジカルステーションにある司令室で、10人の子供達が揃った。

「みんな揃ってくれたか…トモヤ達は?」

 グラディオンは、今いるウェブダイバーの中で、二人足りない事に気付く。

 その二人とはもちろんトモヤとトモユキだ。

「あっ、トモヤくんは…昨日エイリさんを見つけられなかったから落ち込んでいるんだ…」

「トモユキくんはトモヤくんについてあげていて…」

 ケントとショウが悲しそうに話す。

「そうか…ダイバーランドで起こっている事故は、もうみんな知っているだろう。その起源が…」

「起源が…?」

「ダイタリオンサイトにある、オーロラエリアだ」

「オーロラエリアって…ライガオンが守っているエリアだ!」

「さっきから連絡が取れないピョコ…」

 未だ必死にライガオンと連絡を取ろうとするカロン。

「とりあえず、オーロラエリアとナスカエリアに行ってみよう、ケント!」

「わかった…って、何でナスカエリアまで?」

「ナスカエリアはドラグオンサイトだが…私はどうもあそこが気になって仕方がない」

「そっか…じゃあオーロラエリアへ行ってライガオンに会った後に、ナスカエリアへ行ってみよう!」

 そう言ってケントが発進ゲートまで行こうとした時…。

「待って、僕も行くよケントくん」

 突如、ケントを止めるツバサ。

「僕も一緒に行く。ダイタリオンにも、この事を伝えなければいけないからね」

 ショウもツバサの意見に賛成する。

「わかった…アオイちゃん、カロン! 後は頼んだよ!」

「気を付けるピョコ!」

「頑張って!」

 ケント達三人を見送るカロンとアオイ。

 そして、発進ゲートからグラディオンが出撃したのだった。





 オーロラエリアでは微かだが、様子がおかしい。

「何処にいるんだろう…ライガオンは…」

 グラディオンから降りたツバサは辺りを見回すが、ライガオンの姿は何処にもない。

「何処かにいるはずなんだけど…君が来たとわかれば、すぐ飛んで来ると思うけどね」

 ショウにはわかるのだ。

 ライガオンは、自分のウェブダイバーであるツバサに優しい事…。

 だから、ツバサがピンチになるといつも助けに来るのだ。




「っつーかホント何処にいるんだ? こんなに探してもいないなんて…」

 あれから数十分探したが、ライガオンは見つからない。

 ライガオンが見つからない事で、ツバサはだんだん苛立ってくる。

「まさかここにいないわけ…ないよな…?」

「さあ…」

「大丈夫だ…と思う…」

 ケントもショウも、ツバサの問いにただ苦笑いするだけだった。

 だんだんツバサの苛立ちが露わになってくる。

「こう見えても…ツバサって怒ると怖いんだよね、ショウさん…」

「うん…」

 ツバサの怒りにケントとショウは怯えを覚えるのだった。

 そこへ…。

「あっ…!」

 シャギャアアアアアアアッ!

 昨日戦ったモンスターとは少し違うが、ウェブモンスターらしき巨大な生き物がケント達の前に立ちふさがる。

「現れたな…! 待ってろよ、今助けてやるからな!」

 そう言って、ケントはグラディオンにダイブする。

 それと同時にショウのパートナーウェブナイト・ダイタリオンが到着する。

「ショウ…来たぞ」

「待ってたよ、ダイタリオン。ウェブダイブ・ダイタリオン!」

 ショウもダイタリオンにウェブダイブした。

「…あれ?」

 気が付けばツバサは一人佇んでいる。

 上を見上げれば、そこにはグラディオンとダイタリオンがモンスターと戦っている。

「…早く来てよぉ…ライガオン…」

 こっそり呟くツバサ。




「グラディオン…カロンから話は聞いている。今回の敵は子供がこのような姿に変えられているのだな」

 ダイタリオンがグラディオンに話しかける。

「ああ、その犯人も子供らしい…正体はまだわからないが…」

「とりあえず、今はこのモンスターを元に戻そう! グラディオン!」

 昨日出会った少女の事を思い出したケントだが、それを振り切るかのようにグランブレードをモンスターに向ける。

「早く装置を見つけなきゃ! 今度は何処にあるんだ!?」

 ちょうどタイミングよく、カロンから通信が入る。

『ケント! 装置を見つけたピョコ! 今度は額を狙うピョコ!』

「今度は額か!? 何かやりにくいけど仕方ない…!」

 グランマグナムがモンスターに向けられる。

 だが…。

 ギャオオオオオオオオオンッ!

 モンスターがツバサに気付く。

「ケント! ツバサが…!」

 グラディオンが急遽ケントに知らせる。

「しまった…逃げろツバサ!」

 モンスターはケント達から離れて、ツバサの方まで進んでいく。

「ライガオンのやつぅ…あっ!」

 急に自分の周りが暗くなったかと思えば、自分の真上にモンスターがいるのだ。

「ひっ…!」

 そろ〜っと後ずさるツバサだが、モンスターは更にツバサの側まで来る。

「きっ、来ちゃだめっ…!」

 モンスターの気に障らないように、ツバサはそのまま立ち去ろうとするが…。

 グワアアアアアアアアアッ!

「うわあああああっ!」

 モンスターの鋭い爪がツバサを切り裂こうとする。

 その時。

「エレクトリックランサー!」

 ライガオンの攻撃がモンスターを襲撃する。

「ラッ…ライガオン…!」

 上空から自分のパートナーウェブナイト・ライガオンの出現にツバサは驚いている。

「…もう何処にいたんだよぉ!? 探したんだぞ!?」

 モンスターの迫力に恐れたのか、ツバサの目は少し涙目だ。

「…すまない…怖い思いをさせてしまったな…」

 そう言ってライガオンはツバサの側まで歩み寄る。

「とりあえずケントくん達を援護しないとな! ウェブダイブ・ライガオン!」

 ツバサはケント達の援護をするために、ライガオンへダイブする。

「ダイタリオン、ペガシオンは?」

「今こちらへ向かっているところだ…」

「いくぞライガオン! エレクトリックランサー!」

「こちらも…アックスノヴァ!」

 ダイタリオンとライガオンの攻撃がモンスターに直撃する。

「ごめんな…痛いかもしれないけど…これしか助ける方法がないんだ…いくぞグラディオン!」

「わかった!」

 モンスターの額の辺りまで飛んでいくグラディオン。

「グラディオーン!」

 そこへ、ワイバリオンが到着する。

「ワイバリオン! ちょうどよかった! グラディオン・ビクトリーモード!」

 グラディオンがワイバリオンと合体して、ビクトリーグラディオンとなる。

「ビクトリーザーンっ!」

 グランブレードがモンスターの痣を切る。

 グアアアアアアアアアアッ!

 モンスターが倒れるのと同時に少年の姿に戻る。

「やったなグラディオン!」

 少年の無事を知り、喜ぶケントにグラディオンも頷く。

「ああ…これでここも解放されるだろう」

 そして、モンスターに変えられていた少年はそのまま転送される。

「ショウさん! オーロラエリアが戻っていくよ!」

 エリアが戻っていくのを見つめるショウとツバサとダイタリオンとライガオン。

「さてと…ナスカエリアへ行こうかグラディオン」

「ああ…」

 そのままグラディオンがナスカエリアへ向けて飛び立とうとした時…。

「シャドーウィップッ!」

 真上から、長くて黒い鞭のような物がグラディオンの左肩を掠める。

「ぐうっ…!」

「グラディオン! 誰だっ!?」

 ケントが上を見上げると、そこから黒いロボットが降り立つ。

 その姿はまるで『堕天使』のようだ…。

「あれは…ウェブ…ナイト!?」

 ロボットを見たツバサは、驚きのあまり声が途切れ途切れだ。

「まさか…ウェブナイトは全部で13体のはずだ…!」

 ショウも、突然のロボットの出現に驚きを隠せない。

「我が名は、ルシフェリオン。先程の戦いは見事だった…グラディオン、そして結城ケント。とりあえず、はじめましてと言っておこうか…」

 ロボット――ルシフェリオンはゆっくりと、グラディオンの元まで飛ぶ。

「我らの刺客を倒すとは…さすが惑星クーリアの戦士…」

「刺客だと…? やはり先程のモンスターは…!」

 ルシフェリオンはグラディオンの過去を知っているのか…?

「お前の仕業だったのか…! じゃあ昨日現れたあの仮面の子も…!」

 ケントは、昨日出会った少女を思い出す。

「紹介しよう、私のウェブダイバーを…」

 ルシフェリオンの体から誰かが出てくる。

「久しぶりね…ケントくん…」

 その誰かとは紛れもなく…。

「なっ…エイリさん…!」

 黒のダイバースーツを身に纏ったエイリだった…。

「エイリさんが…ルシフェリオンのウェブダイバーだったなんて…!」

「ナスカエリアで見つからないと思ったら…ウェブダイバーになってたっていうのか…」

 ショウもツバサもエイリとの再会がこんな形になるとは思いも寄らなかった…。

「モンスターがマジカルゲートだけに存在していると思われては困るわ…」

「マジカルゲートだけに存在しているわけじゃないのか!?」

「それはダイバーランドでわかるわ…」

 そのままエイリはルシフェリオンの体へ戻る。

「待てっ…!」

 後を追いかけようとするグラディオンだが…ルシフェリオンは物凄い速さで、飛び去った。

「何て速さだ…」

「はっ…!」

 ツバサは何やら嫌な気配を感じる。

「どうしたんだい? ツバサくん?」

 ショウは首を傾げながらツバサに尋ねる。

「ショウさん、ケントくん、すぐにダイバーランドに戻ろう! みんなが危ないよ!」

「ツバサ…!?」

 ケントにはわからないが、ショウは何となくわかる。

「わかった、戻ろう」

「わかったよ…!」

 ケントは仕方なく頷いて、みんなと共にマジカルステーションに戻るのだった…。