第2話  異変再び

 

 

 

「兄ちゃん、今日はどこ行くの?」

 マジカルステーションにて、結城カイトが自分の兄、結城ケントに尋ねる。

「そうだなぁ…今日はグラビトンエリアへ行こうか? あそこカイト好きだろ?」

「うん! だってあそこにはワイバリオンがいるんだもん!」

 そこには自分のパートナーのウェブナイト・ワイバリオンが守護しているのだ。

「よし! それじゃ行こうか!」

「うん!」

 ケントの話にカイトは笑顔で頷いた。

「アオイちゃん達もいいよね?」

 ケントは、一緒に来ている友人達に問いかける。

「ええ、いいわよ」

「僕達もええよ!」

 有栖川アオイや三条寺マモル達も頷く。

「それじゃ出発しよう!」

 そして、ケント達を乗せたグラビトンエリア行きのトレインは発車された。

 

 

「ホント、デリトロスからここを取り戻せてよかったね! ショウさん!」

 タイムエリアでは、倉知ショウと原ツバサが遊びに来ている。

「うん、みんなに愛されているこのマジカルゲートがすべて取り戻せて本当によかった…」

 ショウの青緑色の瞳がゆっくり見開かれる。

「ケントくんやグラディオンに感謝しなきゃな!」

「そうだね、一番はケントくん達のおかげだからね」

 そこへ…。

「あ、ショウさん達じゃないですか」

「「??」」

 ショウ達の元へトモユキ達が歩み寄る。

「あ、トモヤくん、トモユキくん! 二人共ここに来たの?」

 ツバサの問いかけにトモユキは笑顔で頷いた。


「はい。あ、そうだ! さっき学校から帰る途中でエイリさんに会ったんですよ!」

 しばしの沈黙…。

「エイリさんって…天童エイリさん!?」

「マジで!? 僕達も会いたかったなぁ…」

 ショウやツバサもエイリの事を聞いて驚いたようだ。

「久しぶりですよね…本当に…」

「うん、彼女が卒業して以来まったく会ってなかったから…」

「今日マジカルゲートに来てるはずだ。確か彼女の兄貴が提案したエリアが今日オープンされてるって…」

 トモヤは、先程エイリが言っていたエリアを思い出す。

「あ、だけど…何て名前かは聞かなかった…」

「ああ、聞けばよかったよな…」

 ズーンと落ち込むトモヤとトモユキ。

「そう言えば姉さんが言っていたな。確か…『ナスカエリア』とか言ってた。ペルーのナスカの地上絵に興味を持っていたからね。エイリさん達兄妹は」

「つまり、昔のものに興味があるって事?」

 ツバサは地上絵の事などわからないが、何となく聞いてみる。

「そうだよ、エイリさんは社会、得に歴史が得意だったから」

「ところで…ナスカの地上絵って…何?」

 何故か少々恥ずかしかりながらツバサはショウ達に尋ねた。

「「「えっ…?」」」

「実は…知らないんだ…」

 ぶつぶつと言いながらツバサは顔を伏せてしまった。

「ナスカの地上絵とは、ペルーにある地面に大きな鳥や動物の絵が描かれているんです。誰が描いたかは今も謎に包まれていて、有名なんですよ」

 トモユキの説明にツバサはふむふむと頷く。

「エイリさんのご両親って、探検家でしたからその血を受け継いだんでしょうね」

「そうだったんだ…ん?」

 突然、周りが暗くなる。

「これは…まさか…!」 

 ショウ達の『まさか』とは一つしかない。

「だが、デリトロスはもうケント達が倒したはず…!」

「と、とりあえず! 逃げよう!」

 ショウ達はすぐ近くの非常用ゲートで脱出した。

 

 

 ウーウーウーッ!

 コンピュータから警報が鳴り響く。

「まだ原因はわからないのか!?」

 ワールドリンク管理局にあるメインコンピュータルームでは、ケントの父、結城タケトが他の局員達に問いかける。

「わかりません! エリアが次々と奪われていきます!」

「しかもデリトロスの時よりも何倍もの早さでエリアが占領されていきます!」

 画面にはエリアが黒く変色していく。

「急いでワクチンプログラムを用意するんだ! こちらは倉知くんと天童くんの援護に行く!」

 タケトはメインコンピュータルームを出て、ショウの姉、倉知レナがいる研究室まで走って行く。

 

 

「倉知くん、天童くん!!」

 タケトが研究室に入って来る。

「あ、主任!!」

 レナがタケトに気付く。

「マジカルワクチンの方は?」

「準備はできています!」

「そうか、では天童くん! ちょっと手伝ってくれ!」

 天童と呼ばれた、レナの隣りにいる青年は頷く。

「はいっ!」

 レナよりは少し幼く見えるエイリの兄、天童カイリは急いでマジカルワクチンを用意する。

「マジカルワクチン! 投入します!!」

 たくさんのマジカルワクチンがマジカルゲートの中を彷徨うかのように移動する。

 だが…。

「なっ!? 破壊された!?」

 マジカルワクチンが一つも残らずに一つのエリアから発生された光線により破壊された。

「何処のエリアからだ!?」

「あっ…!」

 エリアを見たカイリは驚く。

「どうしたの? 天童くん!?」

 レナが尋ねると、カイリは低く話す。

「『ナスカエリア』からの光線です…」

「そこは君が提案したエリアだったな…倉知くん、天童くん! 私が有栖川博士に頼んでおくから今日はもう早退するんだ!」

「「えっ!?」」

 タケトの証言にレナとカイリは驚いた。

「何故ですか!? あっ…ショウ!!」

「えっ…? エイリ…ユイリ!!」

 レナは弟の事、そしてカイリは妹と弟の事を思い出す。

「そうだ、君達には大事な兄弟がいる。心配だろう、早く戻ってあげてくれ!」

 タケトの瞳には家族を大事にする意志が込められている。

 二人はしばらく沈黙していたが、頷いたのだった。

 

 

「みんな! マジカルステーションの司令室まで来てくれ!!」

 ケントは通信用のモバイラーで仲間達を呼んだ。

「ケントー!」

 呼んだ直後に、コスモエリアから戻ってきた浅羽ナオキが司令室に入って来た。

「ナオキ、そっちは大丈夫か!?」

「ああ、何とか俺は脱出できたんだけど…ケント達は?」

「こっちもアオイちゃんやカイト達はみんないる!」

 後から、ショウ達もやってきた。

「はあ酷い目にあった…」

 ぜえぜえと息を切らすツバサにショウも頷く。

「うん、今回はクラスメート全員揃っているね」

 ショウは予め人数を数えると、メンバーは全員揃っていた。

「あっ…ジャンくんは!?」

「ここだよ」

 最後にジャン・ジャック・ジャカールが司令室に入って来た。

「アスリートエリアに来ていたらガリューンから連絡がはいったんだ…『すぐに避難しろ』ってね」

 そこへ、カロンが大慌てで駆けつけて来る。

「大変ピョコ〜! さっきワールドリンク管理局からのマジカルワクチンが大量に発射されたけど…破壊されちゃったピョコ〜!」

「何だって!?」

 デリトロスが現れた時に、侵略されたエリアを浄化できるワクチンプログラムが破壊されるなんて…。

「しかも、破壊光線を出したエリアは……『ナスカエリア』ピョコ!!」

 ナスカエリアの名を聞いて、ケント達は一瞬硬直する。

「ナスカエリア…だって…? そこからなのか…!?」

 恐る恐るケントはカロンに尋ねる。

「…エイリッ…!」

 トモヤは先程に会った友人の名を口にする。

「だから今、オルトリオンが見てきてくれているピョコ!」

「オルトリオンだけで大丈夫でしょうか…?」

 トモユキは自分の相棒が心配でならない。

「あっ! ちょうどいいピョコ! ケルベリオンが戻って来たピョコ…トモヤ!?」

「俺はケルベリオンと一緒に行く! トモユキも来い!!」

 トモヤは司令室を飛び出す。

「兄さん…まさかエイリさんを…? 行きます!!」

 トモユキも兄に続いて出ていった。

「ああ危険ピョコ! 駄目ピョコ〜!!」

「行っちゃった…トモヤくんとトモユキくん…あっ…ショウさん…まさか…!!」

 トモヤ達を見たツバサはハッと思い出して、ショウに振り向く。

「おそらく…エイリさんを助けに行ったんだ…」

 ショウやツバサもトモヤ達と同じ事を考えていた。

「俺とグラディオンで連れ戻して来る!!」

「気を付けてねケントくん!」

 アオイ達に見送られて、ケントは急いでマジカルステーションにある発進ゲートまで走って行くのだった。