とどかない不思議――限られた時間――
<第二日目・昼>
昼休みは、放課後とはまた違った活気に満ちている。
生徒の数だけ時間の過ごし方があり、楽しみ方がある。午後の授業が始まるまでのわずかな間だが、午前中に消費した精神力と体力を回復する、貴重な時間だ。
そんな時間を、自分は、どうしてこんなことに費やしているのだろう――?
上下にわかれた階段の前に立ち、リョーマは何度目かのため息をついた。しかし、ため息をついていても、仕方がない。今朝の練習中に幾度となくこぼされた名が、どうにも神経を尖らせる。この原因をとり除くためには、やらねばならぬ。
「……今日こそは――」
昨日は結局、青緑の双眸を持つ二年生には会えず終いであった。汐花との喧嘩に夢中になるあまり、せっかくの機会を棒に振って。それでこうして、苦労する羽目になっているのだから、悔しいやら情けないやら複雑だ。
「チャンスはこの時間だけ。有効に使わないとね」
本日の放課後は、愛猫・カルピンを予防接種に連れていくため、早々に帰宅しなければならない。無論、部活も休む。その旨を部長に伝えた先週の段階では、何とも思わなかったのだが、いまとなっては、どうして今日なのだろうかと舌打ちしたい気分であった。放課後の方が、自由に行動できる時間の少ない昼休みよりも、何かと都合がいいのに……。
青学のルーキーは腕時計に視線を落とした。予鈴が鳴る頃には教室に戻るとして、残り時間を計算する。計算はすぐに終わった。いまからなら、何とか二ヶ所はまわれそうだ――と、そこまで考えたところで頭を振る。二ヶ所はまわれる、などと、それではすんなり会えないことが前提のようではないか。
「……とにかく、いこう」
「まずは、教室へ」 「……部室へいってみるか」