第2話 アリカと約束
『元鉄業工場にアクロイヤー出現! ミクロマン部隊出撃せよ!』
「出撃だ! 行くぞみんな!!」
アーサーは四人に指示を送りながらに入る。
「すみません! 遅れました!!」
そこへ三人の少年と二人の少女が走ってくる。
「君は…!?」
少年を見て驚くアーサー。
「久しぶりだね…アーサー…」
少年は笑顔で久しぶりに会った友人に話しかける。
「…真悟…か?」
「じゃあこっちが…」と、イザムが振り向いた先には少女が…。
「ええ、イザムさん…」
少女も真悟に負けないくらい笑顔でイザムに話しかけた。
「はるか…なのか?」
ゆっくりと少女に問いかけるイザム。
「お久しぶりですね…お会いしたかった…」
はるかはイザムの再会で思わず泣きそうになるが堪える。
「相変わらず顔は変わってないな…大輔!!」
「へっ、変わってなくて悪かったな!」
少々ふくれっ面になる大輔。
「君もりっぱになったであるな…」
「うん、エジソンは変わってないけど…」
エジソンとの再会に微笑む智。
「大きくなったな…クリス…」
「ええ…だってもう16歳だもの…」
5年前に見た時より少々性格が明るくなったクリス。
「さあ、行っておいで! アーサー! また後で会おうね!!」
真悟は笑顔でアーサー達を見送る。
「ああ、行って来る!!」
その時、出撃するアーサー達を見つめるアリカ。
「ミクロマン…」
アーサー達の乗った新ミクロステーションはアクロイヤーの出現地まで飛んで行く。
「エジソン、アクロイヤーは?」
「もうすぐなのである! あっ! ここである!」
ミクロマン達が辿り着いた場所は廃墟と化した鉄業工場だった。
「ここで反応があったのである…!」
「そうか…みんな…くれぐれも油断しないようにしよう…!」
緊張感の中、新ミクロステーションから降りたアーサー達はそっと工場の中へ入ろうとする。
「(何だろう? ものすごく嫌な予感がする…。とてつもない悪寒が…)」
と、そこへ…。
「アーサー!!」
声を聞いて驚くアーサー。
入口の方から幼い声が聞こえてくる。
その声の主は…。
「ア…アリカ…ちゃん!?」
そう、そこにはアリカがいたのだ。
「あのね…アリカ…アーサー達のお手伝いがしたくて…」
走って来たのだろうか、アリカの話し方がが途切れ途切れになっている。
「そりゃ嬉しいけどさ…何で一人で?」
ウォルトははらはらしながらアリカに尋ねる。
「だって…もし耕平おじさまやお父さまとかアリカと一緒にいてそこを誰かに見られたら…またおじさま達の悪口言われちゃうかもしれない…アリカはアリカの悪口言われても平気だけど…おじさま達の悪口を言われるのはもういやなの…だから一人で来たの…」
「き…気持ちはわかるが君を巻き込むわけには…」
アーサーはそっとアリカを帰そうとするが、アリカはそれを拒む。
「アリカはアーサー達に無茶して欲しくないの! 無茶してケガして…何かあったら嫌だもん! アーサー達が地球を守ってくれるならアリカも地球やアーサー達を守りたい!」
アリカの大きな大地色の瞳から涙が溢れ出る。
「だから…アリカも一緒に戦います!」
涙を流しながら強い瞳でアーサー達を見つめるアリカは芯の強い少女だという事がよくわかる。
「耕平……?」
アーサーの目にはそのアリカが耕平に見えた。
「さすがは…祐太の娘だな…」
アリカの強い意志にオーディーンは感心する。
「で、どーすんだ? アーサー?」
ウォルトはフッと視線をアーサーに向ける。
しばらく沈黙していたアーサーだったが、やがて自分の瞳をアリカに向ける。
「わかった…一緒に行こう…! ただし、絶対に我々から離れない事。いいかい?」
アーサーの言葉にアリカは笑顔になる。
「うん! アリカ絶対にアーサー達と一緒にいる!」
喜んで頷くアリカ。
「よしっ! では、中へ入ろう!」
「何だか…暗いね…」
暗い工場の中は今にも何かが飛び出してきそうだ。
「やっぱ…アリカちゃん外で待ってるか?」
ウォルトに言われるが、アリカはきっぱりいやだと言った。
「大丈夫だよ。アリカは怖くない…」
五人ににっこり微笑むアリカ。
「だってね、いつも耕平おじさまが言ってたの。『アリカは誰よりも強く、そして優しい心を持っている。だから、怖いものがアリカを襲って来ても決して恐れちゃだめだ』って言ってたの!」
「いい叔父をもったな…アリカ…」
オーディーンが優しくアリカに微笑む。
「うん! アリカ、耕平おじさま好きよ。もちろんお父さまも大好き!」
アリカを見ていると、アーサーも笑顔になってくる。
「そうか…きっとみんなもアリカちゃんの事大好きだよ」
「ふふっ! おじさま達だけじゃないよ。お母さまや麻美お姉さんや真悟お兄ちゃま達もだーい好き!」
その時…。
「あらあら。悪いけど、もう大好きな人達に会えないわね…お嬢ちゃん」
何処からか女性の声が響き渡る。
「なっ…誰だ!?」
アーサーは驚いて辺りを見回すが何も見あたらない。
「何処を見ているのですか? あなたの影の中ですよ!」
「何っ!?」
アーサーの影の中から淡い紅色のアクロイヤーが現れた。
「お前は…デモンだな!?」
アーサーは紅色のアクロイヤーを激しく睨み付ける。
「そう。私と会うのは初めてですね。初めまして、我が名はデモンピンク。デモンの一人です」
デモンピンクはそのままアリカの元まで歩み寄る。
「あなたがアクロイヤーなの?」
きょとんと首を傾げながら尋ねるアリカ。
「そう。あなたが久磁の娘ね。20年前に私の兄をあのミクロマン、とくにアーサーに倒されたのですよ」
「えっ…?」
――ズキン…ッ!
「あなたのお兄ちゃま…死んじゃったの?」
「ええ。仲間とは全然うまくいかなくて生意気な奴でしたけど…一応私の兄だからね」
「まさか…貴様の兄は!?」
アーサーは嫌な予感がしながらもデモンピンクに尋ねた。
「そう…その名は…デモンレッド!!」
デモンレッド。
それはかつてアーサーが倒した敵の名…。
「アクロイヤーにも兄弟っていんのかよ!?」
ウォルトは驚いてエジソンの方へ振り向く。
「僕も知らなかったのである。まさか奴に兄弟がいたとは…」
エジソンも初めて知ったようだ。
「どうしてアリカはもう大好きな人達に会えないの?」
一体デモンピンクの言っている事にどんな意味があるのだろうか?
アリカはそれが気になって仕方がない。
それに応えるかのようにデモンピンクは話を進める。
「わかりやすく説明すると…あなたはここで死ぬのですよ!」
「えっ…? アリカ…死んじゃうの…?」
「そう。可哀相だけど、お嬢ちゃんが生きているとね、地球制服の邪魔になるの」
ゆっくりとアリカに向けて自分の右手の砲を発射しようとする。
「そんな事…させやしない!」
アリカの前にアーサーが立ちふさがる。
「あら、どいてくれないのね」
がっかりするデモンピンク。
「この子は私達の大切な友人の子だ。私達が守る!」
アーサーはアリカだけは守ろうと心に決めている。
「そう…その少女を強く想う力には感動しました。ならば六人全員で死になさい!」
デモンピンクは右手の砲をアーサー達に向ける。
「くっ…! アリカちゃん逃げろ!」
「えっ…!?」
「くらうがいいわ…アクロボール!!」
ドオオオオオオオ!
アクロボールが放たれ、工場中に大爆発が起こる。
「ふふふ、いくらミクロマンでもこの爆発から逃れられないでしょ…ん?」
工場の外へテレポートしたデモンピンクはアーサー達の最後を看取ろうとするが…。
「あれは…!」
驚いたデモンピンクの視線の先には五人の小さな戦士を小さな両手に抱えてしゃがみ込んでいるアリカの姿が…。
アリカの体のあちこちには傷があるが、アリカは痛みに耐えてアーサー達を守ろうとする。
「うっ…ううっ…」
五人の戦士達はアリカの手の中で目を覚ます。
「くっ…」
痛む頭を押さえながらアーサーはゆっくりと立ち上がろうとする。
そして自分達が今立っている場所が何処なのかをようやく理解した。
「あっ…アリカちゃん…!?」
アーサーが上を見上げると、そこには目に涙を溜めながらも痛む傷に耐えながらも必死にアーサー達を守ろうと彼らを自分の小さな手に納めるアリカが…。
「なっ…何故…何故逃げなかった!?」
アリカの傷を見ながらイザムは驚いて尋ねる。
「だって…だってアリカは…アーサー達から離れないって約束したんだもん…こんなの痛くないもん…アーサー達の方がずっと痛いもん…!」
ひっく、としゃくり上げながらアリカはキュッとアーサー達を抱えて、立ち上がる。
「アリカ…全然怖くない…耕平おじさまが言ってたもん…アリカは強くて優しい子だって…怖いものが襲って来ても絶対に恐れたらだめだって…言ってくれたの…!」
小さな足をゆっくりと外へ進める。
「もうちょっと待っててね…すぐ外へ出してあげるから…」
幼い少女は自分の小さな手に五人の小さな戦士を乗せながら外へ出てくる。
「ふう…やっとお外に出られた…」
そして、アーサー達をそっと地面に降ろした。
「ありがとう…アリカちゃん…」
小さく囁くようにお礼を言うアーサー。
「ううん…頑張って…ミクロマン…」
笑顔で応援するアリカは何とも愛らしい。
「ああ…必ず勝つ!」
アーサーはアリカに微笑んだ後、デモンピンクに向かって睨み付ける。
「あーら…優しい子に出会えてよかったですね、ミクロマン。今の爆発でお別れになるのかと思いましたが」
「デモンピンク! 我々は絶対に貴様を倒す! 幼い少女の命を奪おうとした事を許さない!」
アーサーの左腕からレッドキャリバーが現れる。
「レッドパワー全開!」
イザム、ウォルト、エジソン、オーディーンもそれぞれの武器をデモンピンクに向ける。
「覚悟…! レッド…ブレイク―――――ッ!」
レッドキャリバーから紅い光線がデモンピンクを貫こうとする。
「ふっ…私を総統達と一緒にされては困りますよ…」
デモンピンクの薄笑いはレッドブレイクによって消される。
「………やった」
アーサーは力が抜けて座り込む。
「頑張ったね…アーサー…みんな…」
アリカは小さく笑う。
「ありがとう…地球を守ってくれて…ありがとう…」
グラッ…!
「あっ…!」
ドサァッ…!
アーサー達の目の前でアリカが倒れる。
「アリカちゃん!」
ウォルトは驚いてアリカの元に走り寄る。
倒れた理由は疲れた事と、アーサー達を庇った時の傷の痛みだった…。
「いかん! 早く連れ帰らねば!」
アリカの容態に気付いたエジソンは急いで耕平達と連絡をとった。
アーサーは気絶しているアリカを見て酷い後悔に襲われる。
「私がしっかり守っていれば彼女は…! すまない…耕平…祐太…!」
「…リカちゃん…アリカちゃん…」
何処からか優しい声がアリカを呼び覚ます。
「ん…あ…耕平おじさま…」
アリカが目を覚ました場所は耕平の研究所の医務室で、目の前には耕平がいる。
「気がついたか…よかった…!」
大切な姪が無事な事を知って耕平は安心する。
「ごめんなさい…」
「ん…? 何が…?」
「だって…お父さまやおじさま達に…黙って…」
謝りながら泣きそうになるアリカ。
それを見た耕平は優しくアリカの頭を撫でる。
「いいんだ…素直に謝れる子は優しく強い証拠だ…もうすぐ真悟達も来るからな…」
「ホント…?」
「ああ、みんな君を探していたんだよ。もしかしたらアクロイヤーに捕まったのだろうかとね…」
アリカに掛け布団をかけながら話す耕平。
「あっ…アーサー達は? デモンピンクをやっつけたんでしょ?」
ガバッ!
アリカはアーサー達を探そうとベッドから起きあがる。
「残念だけど…逃げられちゃったよ…」
医務室のドアが開いたのかと思えば真悟は入ってくる。
「あ、真悟お兄ちゃま!」
アリカは嬉しそうに真悟に笑いかける。
真悟も笑顔に、ベッドの近くにある椅子に座る。
「もうケガは大丈夫?」
「うん! もう平気! あの…逃げられちゃったって…どういう事…? アーサー達は?」
アリカは嫌な予感を胸に秘めながらも真悟に尋ねる。
「あのね…よく聞いて…デモンピンクはアーサーの攻撃が当たったのかと思ったら…そのレッドブレイクの閃光に紛れて逃げたみたいなんだ。だから奴が何処にいるのかはわからない。だけど、地球にはもういない事がプロフェッサーMの調べでわかったんだ。だからアーサー達は…」
「アーサー達は…?」
真悟は気の毒そうに顔を伏せる。
「デモンピンクを追いかけて…行っちゃった…地球から旅立ったんだ…」
――地球から旅立った…。
つまり、アリカが何処を探してももういないという事…。
「そんな…!」
と、その時…。
キィィィィィイイイイン!
小さなシャトルが打ち上げられるのが窓から見える。
アリカはそのシャトルにアーサー達が乗っているのがすぐにわかった。
「いやだ…いなくならないで…!」
アリカの目には涙がボロボロ零れる。
「アーサーが…みんなが謝ってたよ…『自分達のせいでケガをさせてしまった…本来は自分達が君を守るのに…』って…」
「いやだよぉ…イザム…ウォルト…エジソン…オーディーン…アーサー! アリカを置いて行かないで…!」
泣き出すアリカを見て、真悟もつられて泣いてしまう。
「アリカちゃん…!」
耕平は真悟の肩に左手をおき、アリカの頭に右手をおく。
「これ、アーサー達がアリカちゃんにって…」
耕平の手には空色の長い布が…。
「本当は自分達の宇宙船のシンボル代わりにするつもりだったらしいが…アリカちゃんに渡して欲しいと頼まれた。約束代わりにと…」
「約束…?」
一体何の約束なのだろうかアリカは首を傾げる。
「そう、その約束とは…『またこの地球で会おう、そして今度こそ君を守らせてくれ』との事だ…」
「えっ…?」
アリカはそっと空色の布を頭に被せ、結ぶ。
「アリカちゃん…?」
アリカの行動に真悟はじっと見つめる。
「耕平おじさま…真悟お兄ちゃま…アリカは待ちます…アーサー達がここに戻ってきてくれる事を…」
少女の大地色の髪と瞳が小さく輝く。
そして、窓の外を見上げる。
「きっと…帰って来てね…アリカはずっと待ってるよ…ミクロマン!」
アリカは青空を見て微笑む。
―――今度会えた時は…もう離れないでね…ずっと一緒だよ…。
To be continued..

