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フランスで活動した建築家 吉田真澄のアトリエ
 ◆ 私の住んでいたパリの家 ◆


 「パリでは、どんなところに住んでいたのですか?」 と、聞かれることがたびたびあります。パリのアパルトマンに興味を持つ方も多いと思います。

ヴォージュ広場
                                   マレのヴォージュ広場

 私も渡仏前は、自分がどのような家で過ごすことになるのか、期待感でいっぱい
 興味津々でした。

 パリに着くと、住所が決まらなければ滞在VISAの手続きができませんので
 ホテルに滞在しながら、まずアパルトマン探しから始めました。

 住む家へのこだわりは、職業柄当然ながらあるのですが、パリの住宅事情は
 東京と同様に厳しいものでした。探してみて初めて、自分が外国人であることと
 時間的制約の中で「気に入る家にめぐり合うことの難しさ」を実感させられました。


  マレのアパルトマン 


  最初に住んだのは、中世のままの建物、
  マレ地区のカルナヴァレ館に近いアパルトマンです。

  マレというと、にぎやかな狭い通りを思い浮かべると思いますが、
  実は、建物の中庭には、住んでいる人しか知らない
  すばらしい世界が広がっています。

  道路に面した門を開けると、右のような中庭があり、さらに建物の
  南側には、住民専用の緑あふれる広い庭があります。

  このアパルトマンは、14世紀のハーフティンバー(木骨組み)の
  部分と、サヴェルニー館と呼ばれる、16世紀のピンクの壁の
  貴族の館から成っています。とても静かで美しい建物です。


   私は、2階に住んでいました。天井の高さは、3.8mです。
   中世の建物ですから、エレベーターはなく、古い階段を上ります。

   アール階段のすり減った段板は、歴史を感じさせられましたが
   日本に帰って重いトランクを2階へ上げるときには、とても苦労しました。

   ちょうど私が住んでいた頃に、エレベーターの設置について
   住人で検討しているところでした。
   オスマン様式の建物の場合、階段の真ん中の吹き抜けにエレベーターを
   設置しているところが多いですが、ここは中世のつくりでスペースが足りず
   中庭側にシャフトを作る方法で進めるようでした。

   その後ほどなく引っ越しをしましたので、完成が見られず残念でした。

 
   お隣に住んでいたのは、優しい老紳士S氏。
   いつもボンヌファムの作る美味しそうな
   スープの香りがただよってきました。
   散歩にチェックのシャツがお気に入りでした。

   引っ越しの挨拶にいったときに泣いて
   しまったほどの心優しい方です。
   お餞別に食べきれないほどたくさんの
   美味しいショコラをいただきました。
   甘くてちょっぴり苦い味がしました。
   本当にありがとう!Au revoir!
   マレのアパルトマン
マレの階段


 フランス式の観音開きの無垢の木製のドアは、品格があります。
 とても重厚で、内部に鉄板を入れた扉で、内開きです。


 日本では玄関で靴を脱ぐため、脱いだ靴がドアの邪魔になり
 開け閉めしにくいことのないよう、外開きが一般的ですね。
 でも、来客時の動線は内開きがスムーズと言えます。
 お客様を招き入れる方向に開くからですね。


 欧米では、玄関で靴を脱ぐことがなく、侵入者を防ぐ意味でも
 内側に開くドアを押さえる方が理に適います。
 蝶番が部屋側に取り付けられることになりますので、
 泥棒がバールを枠とドアの間に入れてこじ開ける心配もありません。


 扉には外側のノブやレバーハンドルはなく、鍵穴に差し込んだ鍵を
 まわして、ドア中央の取っ手を押して内側に開けます。
 閉めるときは、取っ手を引くとオートロックでラッチが閉まります。

 この状態で外出する時もありますが、長時間の外出や旅行にでかけるとき
 鍵を差し込んで何回も回します。すると上下左右に鍵が閉まります。

 日本でも、この考え方を取り入れた家を設計しています。
 「つくばのメゾン」のドアのページが整いましたら、ご紹介いたします。

 7区のメゾン




   7区は、パリで治安のよい地区です。
   協働する設計事務所に近い中世の街マレとは、全く雰囲気の異なる
   カルチェです。

   パリ中心の一軒家は、とても珍しく
   この家を訪れる友人は、とても驚きます。
   Comme à la campagne ! 田舎みたい!と。

   緑に囲まれたとてもかわいい田舎風の家です。

   建物の広~い中庭に建っているので、道路から
   家が見えないため、泥棒の心配も全くありません。

   両隣のプライベート教会から、鐘の音が聞こえます。
   煙突の後ろに写っているのが教会です。
   木々の間からエッフェル塔が見えなければ
   パリにいることを忘れる、静かな佇まいです。

   私はこの家のおかげで、物質的豊かさでなく、
   古いものを大切にして、庭の緑や光、風、鳥の声と
   心豊かに暮らすことを教えられました。

7区のメゾン

 この家では、毎日、コンシェルジュさんが愛犬と一緒に
 手紙を届けてくれました。

 広~い中庭に建っているため、郵便屋さんが中へ入って
 こられないからだと思います。

 木々の向こうから、ワンワンワン・・・という犬の声と
 鍵の音が聞こえると、コンシェルジュさんの姿が現れます。
 きっと庭を通る時の合図にしていたのですね。

 通常は手紙を玄関横のポストに入れていくだけですが、
 時々、一人暮らしの私を気遣って声をかけてくれました。
 とてもおしゃべりで世話好きなコンシェルジュさんでした。



 おもて通りのブルタイユ通りは、とても美しい通りです。
 パリジャンの誰もがパリ有数の美しい通りと言います。

 私は、毎日欠かさず朝か夜に、この通りを往復して
                30分くらいの散歩を楽しみました。
                マルシェで有名なサックス通りも徒歩1分です。
ブルタイユ通り