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パリへの準備
「パリへ行こう!」そう決心した日から、出発までには約1年間の準備期間が必要でした。
当初、準備は順調と思われました。パリの設計事務所から招待建築家として迎える招待状を受け取り、在籍していた設計事務所の恩師からの推薦状、
所属している日本建築家協会より文化庁への芸術家派遣制度への推薦もいただき、トントンと進みました。
しかしその年は、残念ながら文化庁から建築家の派遣枠はありませんでした。
フランスに3か月以上長期滞在する場合、VISAが必要なことは皆さまもご存知かと思います。
フランスでは、自国の建築家を保護しているため外国人建築家が労働VISAを取得することは難しいと言われています。
長期滞在するためには、長期滞在ビザを獲得するための何らかのお墨付きをもらって渡仏することが必要でした。
そこで困って、社会人を対象としたフランス政府の技術者給付制度にチャレンジすることにしました。
フランス大使館でのフランス語の筆記試験と面接が必須です。そのために、フランス語を真面目に勉強しなければならない状況に陥りました。
語学学校
まず、フランス人の知人におすすめの語学学校を聞き、勤め先からも近い原宿の語学学校に通うことにしました。
当時はスタッフ2人と仕事に追われていましたので、事務所から近い学校はよい条件に思えました。
クラスは、会話中心の4〜5人の少人数制で、フランス人教師のとてもわかりやすい丁寧な授業でした。
しかし1ヶ月経ったとき、このペースでは1年後に試験を受けるレベルまでに達しないことに気づきました。
そもそもフランス語を知らない私がフランスへ行こうと考え、フランス語で試験を受けようと思うことが、無理に思えてきました。
あわてて、もっと集中的に勉強できるところを探しました。
ちょうど4月になりアテネフランセのフランス語を総合的に学べる視聴覚の集中クラスを知りました。
授業は月水金週3回で、9時50分から夕方の6時7時くらいまで。講師の先生方が次々と交代して、いわば朝から晩まで授業が進められます。
このクラスの説明会は、すでに終わっていましたので、何も知らないままいきなり授業に飛び込みました。
月水金は学校(夜は仕事)、火木土日は仕事、の生活が始まりました。
授業
私のような初級者のために初歩から教えられますがペースがとても速く、加速度がつくような感覚で、やっとの思いでついていきました。
でもフランス語は私に合っていたようで、途中で嫌になったりはしませんでした。
このすばらしいクラスで、最も感謝していることは、発音を重視したカリキュラムが組まれていたことです。
口の形や舌の形、音のつなげ方などの指導を受けて、自分で鏡をのぞきながら何度も練習をします。
歩きながら、電車に乗っている間、お風呂に入りながら、全ての時間を使って練習しました。
クラスの助手さんにマンツーマンでチェックしていただくので、必死で練習しました。
練習の成果あって、助手さんから初級者がこのくらいきれいに発音できると先が楽ですね、と言われるようになりました。
在仏中にフランス人から「ナマリがない発音ですね」としばしば褒められたのも、この授業のおかげです。
建築を視察に行った先で仲良くなって、一緒に遊んだりプレゼントを交換した小さな男の子、アントワーヌ君から
お父さんの名前”ジャック“の発音を注意されることもありました。
授業を思い出してすぐ言い換えると、「うん、それでいいよ!」と言われ、フランス語の発音の大切さに気付くこともありました。
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宿題
授業が1日おきでしたので、宿題は多く出されました。
動詞の活用、教科書の本文の書き写し、助手さんが黒板に書いた板書の書き写しなど、
今でもファイルを大切に持っています。
宿題は、次の朝に提出をして、夕方までに助手さんが添削をして戻されます。
もしどこか1か所でも間違えると、新たに再提出しなければなりません。
まちがえると宿題が増えていくシステムです。
宿題は、助手さんが読みやすいように活字体で丁寧に書いていましたが、
だんだん時間に追われて筆記体で書くようになりました。
授業の最終日に、助手さんから「吉田さんの字がきれいなので、いつも助手が宿題を添削するときの
解答例に使わせていただいていましたよ」と言われました。
思いがけず少しうれしい反面、たくさん間違えていたことがとても恥ずかしくなりました。
助手さん全員に、私の間違いがバレバレだったのですね。。。
教科書の本文を丸暗記する宿題も、毎回でました。
初めはよかったのですが、だんだん前に覚えた文と新たに覚える文が混乱して覚えにくくなりました。
先生のアドバイスをヒントに、目で読んで覚えるのでなく、テープを聞いて覚えるようにしたら、
スムーズに覚えられるようになりました。私は耳で覚えるタイプなのかもしれません。
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フランス大使館での試験
いよいよ試験の日になりました。
午前中が筆記試験で、午後が面接でした。
試験は、過去の問題が公表されていないため、
どのような内容か全く想像がつきませんでした。
直前になって心配になり仏検の過去の問題を始めましたが、
ひととおり目を通す前に試験日となりました。
筆記試験は、予想外にレベルが高かったのを覚えています。
フランス語をきちんと勉強しなければ難しいと思われるレベルでした。
苦しい1年間でしたが、私には必要なことだったと実感しました。
面接試験は、とても和やかな雰囲気で、会話の瞬発力を試すような
質問でした。私に関する質問ばかりでした。
その年の合格者は2人でした。
スタッフに報告すると、「本当に僕たちを置いて行くんですか?」
「この一年、ボスは本当に余裕なかったですよ。」
と厳しい言葉が返ってきました。ウーン、確かにそうです。
でもそう言いながらも温かく見守って仕事に励んでくれたスタッフに、
感謝の気持ちでいっぱいになりました。
本当にありがとう!
こうして、私はパリへ行くことになりました。
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