激闘!クラッシュギアT 外伝


              コウヤ、分身の術!?(前編)


 ある晴れた日曜日の午後。
 クラッシュギア・レイジングブルの使い手、織座ジロウがトビタクラブの扉の前まで歩み寄る。
 その時、クラブの中から何やら物音がする。
「何か中が騒がしいな。今日はコウヤ達来てるのかな?」
 暢気に言って、ジロウがドアを開けようとした時。
「きゃああああああ!」
 中から悲鳴が聞こえる。
「!?」
 突然の声に驚く。
「何だ!? この声はカオルか! どうした!?」
 急いでジロウはドアを開ける。
 ドアを開けた瞬間、トビタクラブのマネージャー(自称)華野カオルがジロウに飛び込んでくる。
「ジロウ! コウヤが…コウヤが!」
 その時のカオルの表情はとっても慌ただしく、今にも泣きそうだ。
「えっ?」と、ジロウが中を見ると。
「何だよカオル。いきなり悲鳴あげやがって…あ、ジロウ! 来てたのか?」
 中からクラッシュギア・ガルダイーグルの幼き主、真理野コウヤが顔を出す。
 ジロウはそれを見て、一気に気が抜けた。
「カオル…いつものコウヤじゃねえか。何でコウヤを見て悲鳴をあげる必要があるんだ?」
 フッと自分の後ろに隠れて震えているカオルを見つめるジロウ。
 いつものカオルはお転婆で、勝気な女の子だ。
「それは…見ればわかるわ…」
 カオルはジロウの後ろから激しくコウヤを睨む。
「はぁっ?」
 そこへ。
「コウヤ、どうかしたの?」と、中から声が聞こえる。
 コウヤはその声の主に気づき、その方へ向く。
「あ、悪い悪い。カオルの奴驚いちまってさ。気にするなよ」
 一体、コウヤは誰と話をしているのだろうか?
 そして、コウヤと話をしていた相手が中から出てくる。
 それを見て、ジロウは驚いた。
「コウヤ…くん…そのお方は…?」
 ジロウは自分らしくない口調でコウヤに話しかける。
 するとコウヤは…。
「何言ってんだよ。コウヤに決まってるじゃん」
 きっぱりと平然と言い放つ。
 そう、そこにいるのは誰これ見ても、真理野コウヤだ。
「コ、コウヤが…コウヤが二人いいいい!?」
 もちろん、この叫び声はジロウだ。
「あ、ごめんねジロウくん。驚かせちゃったかな?」と、もう一人のコウヤが話しかける。
 よく見ると、もう一人のコウヤは性格が何だか温和のようだ。
「ジ、ジロウくん!?」
 未だにショックが治まらないジロウ。
 いつものコウヤなら余裕で命令してきて、自分を呼び捨てで呼ぶ。
 でも、突然現れたもう一人のコウヤはとっても温和で、自分を「くん」付けで呼んでいるのだ。
 ちょうどそこへ、クラッシュギア・ディノスパルタンのマスター、迅キョウスケと同じく、クラッシュギア・シューティングミラージュの主人、丸目クロウドがやってくる。
「何を悲鳴あげているんだ? ジロウ…コウヤ、そちらの人は?」
 どうやら、クロウドも驚いたようだ。
「そいつ…お前の生き別れの双子か…?」
 キョウスケはジト目で見つめながらコウヤに尋ねる。
「こんな時にボケている場合じゃないわよ…キョウスケ…」
 キョウスケにこっそりとツッコミを入れるカオルであった。
「ところで、どちらが本物のコウヤなんだ?」
 意味もなく質問するクロウド。
「両方だよ」
 二人のコウヤはきっぱりとそう言った。
「そうか…」
 クロウドはそれを聞いて黙り込む。
「それ…で、お前もクラッシュギアをやっているのか?」
 キョウスケに質問され、コウヤ2は笑顔で、
「うん!」と、答えた。
「ギアは?」
「ガルダイーグルだよv」
「大会には?」
「まだ出場はしてないよ」
「手入れはちゃんと自分でしているのか?」
「うん、時々怪我したりはするけどね」
「じゃあ…こっちのコウヤについては?」
 コウヤ2にキョウスケは真剣に質問してくる。
「コウヤについて? う〜ん…そうだなぁ…さっきギアファイトしたんだけど、僕負けちゃった。コウヤって意外と強いんだね♪」と、コウヤ2は悪気のない顔で微笑む。
「い、意外と…!?」
 コウヤ2の言葉にコウヤは少し心が傷つく。
「ぼ、僕ぅ!?」
 コウヤ以外の全員が驚く。
「なあコウヤ…お前さ何で…もう一人の自分がいるのに驚かないんだ?」
 ジロウがコウヤに恐る恐る聞くと。
「別に驚かないけど?」
 しっかり言い返すコウヤだった。
「そうか…はっ! そう言えばリリカさんは!?」と、ジロウが辺りをクラブの中を見回す。
 カオルは、「温和コウヤの出現で気絶して、休んでいるわ…」と、疲れ切った顔で話す。
「コウヤ…そのコウヤはいつ出現したんだ…?」
 いつもの冷静な態度でコウヤに質問するクロウド。
「カオルが来る二時間前、出会った場所が万願寺クラブの前! こいつがゴマノ達に絡まれてたから助けて、
その後にトビタクラブでギアファイトやってた」
 キョウスケは、「で、このうるさそうなコウヤが勝ったわけだな」と、コウヤに視線を向ける。
 コウヤって、案外ただ者じゃないかもしれない…。
 その時、コウヤ&コウヤ2意外のみんなは心の中でそう思った。
 確かに突然自分とそっくりな人間が現れて驚かないのは普通ではない。
 とにかくこれ以上問題を悪化させないためにも何とかしなければいけない。
「コウヤ…まさかとは思うが…そいつの他に冷静なコウヤがいるんじゃ…ないだろうな…?」
 キョウスケは少々震えながら質問する。
「おう、いるよ! 今、中でマシンの設備を行っているんだ! 邪魔しない方がいいぜ」
 コウヤはしっかりきっぱりと宣言した。
「い、言い切った…!」と、キョウスケは段々と力が抜けていって座り込む。
「ところで、コウヤ。その冷静コウヤはいつ来たんだ?」
 今度はジロウがコウヤに質問する。
「うーん…確かこのコウヤ(温和の方)が来て、約十分後かな?」
「現れた場所はここなのか?」
「おう」
 真剣にコウヤに質問するジロウ。
 どうやらコウヤの話では、大人しいコウヤと一緒にトビタクラブに来た十分後に冷静なコウヤが出現したらしい。
 突然現れた内気そうなのと冷静沈着な二人のコウヤ。
 今までにこんな事件は起こった事がない。
 一体この二人のコウヤは何処からやってきたのだろうか?
 ジロウ、カオル、キョウスケ、クロウドは真剣に考え始める。
 だが、本物(?)のコウヤはそんな事はちっとも気にせずに、コウヤ2とまたまたギアファイトをしているのだった。

               つづく