激闘!クラッシュギアT 外伝


              コウヤ、分身の術!?(後編)


 トビタクラブの中では、二人のコウヤが楽しそうにギアファイトをやっている。
 その事に呆れているのか、カオルはジト目でコウヤ達を見ている。
「コウヤ、歯車を取り替えようか?」
 冷静沈着なコウヤが新たに現る。
「おう! 頼むぜ!」
 コウヤは笑顔にガルダイーグルをコウヤ3に渡す。
「お前よく初めて会う奴に自分のギアを手渡せるな…」
 キョウスケが不機嫌そうな顔でコウヤに話しかける。
「だって同じコウヤだからさ!」
 ガルダイーグルをコウヤ3に渡しながらご機嫌に話すコウヤ。
「とりあえず、これ以上問題が悪化しないように解決法を見つけなければな…」
 クロウドは小声で、ジロウとカオルに話しかける。
「ああ。それにしても、あの冷静コウヤと温和コウヤは一体どっから来たんだか…」
 ジロウが振り向いた先にはコウヤとコウヤ2とコウヤ3が仲良くギアのセッティングを行っている。
 いつもはあんまりセッティングしないコウヤだが、同じ自分がいるとやる気になるようだ。
 あんなに楽しそうにセッティングを行うのは珍しくない事もない。
「よし…これでできるだろう」
 コウヤ3は二つのガルダイーグルを二人のコウヤに手渡す。
「おっ! サンキューvv」
 早速コウヤはガルダイーグルをリングに投げ入れる。
「いっけー! ガルダイーグル!」
「頑張れガルダイーグル!」
 二人のコウヤは自分達のガルダイーグルを戦わせる。
「何だかコウヤ…楽しそうね…」
 カオルはコウヤ達を見ているのがだんだん慣れてくる。
 クロウドも慣れてきたようだ。
「あの二人には慣れてきたが…自分の分身を見ても平気だというコウヤには慣れない」
 やはりコウヤ自身には慣れていない。
「そう言えば、こっちのコウヤを助けた時、ゴマノ達が泡吹いて倒れたんだぜ! あれおっかしかったー!」
 コウヤは、コウヤ2を助けた時の出来事を思い出す。
「でも…あの人達大丈夫かな…?」
 コウヤ2は少し心配している。
「平気だって! これであいつらは当分トビタクラブの悪口を言ったりしないだろ!」
「本当かなぁ…?」
「ホントだって! モミタなんて悲鳴あげてたし! きっと万願寺も見たら驚くだろうなぁ!」
 ケラケラ笑うコウヤ。
 オロオロするコウヤ2。
 冷静にギアの手入れをしているコウヤ3。
「…っもう! さっさと解決法を考えましょう! 一刻も早くあの二人には帰ってもらわなきゃ!」
 苛立ちを隠せないカオルは後の三人に睨み付ける。
「帰ってもらうにしたって…何処へだよ?」
 カオルの心に突き刺さるように返信するキョウスケ。
「ぐっ…それは…!」
「なあ、お前らは同じ場所から来たのか?」
 コウヤはコウヤ2とコウヤ3に話しかける。
「わかんない、僕は普通にクラブへ行こうとしていたら雷が鳴って…」
「こっちもだ。雷がクラブに落っこちて気がついたらここにいた」
 雷?
「もしかして…今回の事件と関係あるのかしら?」
 何だか探偵気分でいるカオル。
「ああ、その雷が鍵になるようだな」
 カオルの言葉に頷きながらクロウドは窓の外を見上げる。
「……雨だ」
 クロウドが言ったのと同時に雨が降り出してくる。
「何だか雷が落ちそうだな…」
 ジロウは、何だか気分が優れない。
 ゴロゴロゴロゴロ…。
 外では、雷の音が鳴り響いている。
「あっ…」
 コウヤ2とコウヤ3が何かを思いだしたかのように窓を見つめる。
「どしたの?」
 首を傾げながら二人に尋ねるコウヤ。
 すると…。
「もうすぐだ…」
「はっ?」
 コウヤ2の言うもうすぐとは一体何なのだろうか?
「もうすぐ帰れるんだ…僕達のいた場所に…」
「あなた達のいた場所…?」
 カオルはコウヤ2の証言がうまく理解できていないようだ。
「もう…帰らなきゃいけないんだ…」
 コウヤ3は辛そうにコウヤ達を見つめる。
「そうか…もう行くのか…」
 コウヤも名残惜しそうに二人を見つめる。
「今回の事は僕達が戻った直後に記憶が消えるよ。実際そのままだったらコウヤが大変な事になるからね」
「そうなのか…でも…楽しかったよ。このギアファイト!」
「ああ…こっちも楽しかった…コウヤはもう俺達がいなくてもカオル達がいるから大丈夫だな…」
 コウヤ3が初めてコウヤやカオル達に笑顔を見せる。
「(そうか…この二人はやはり…)」
 クロウドは二人のコウヤを見て何かを確信した。
「(あの二人のコウヤはここにいるコウヤの心の姿なんだな。僕達と出会うまでは周りから兄である真理野ユウヤと比べられていて、
その孤独感から心を閉ざしかかったのが冷静コウヤ。そして、僕達という仲間を見つけて心が落ち着いたのが温和コウヤ…
コウヤはまだ僕達と出会ってまだ少ししか経っていない…だから…仲間とうまくやっていきたいと願っていたからコウヤの心があの二人となって
現れたんだな…雷は…稲光と音のショックでだろうか…?)」
 今までは気付かなかったが、コウヤの心の気持ちにクロウドは気付いたのだ。
 それはきっとジロウやキョウスケ、カオルも気付いているはず。
「じゃあみんな…さようなら…」
 コウヤ2は涙ぐみながら、別れを告げる。
「ああ…元気でな…!」
 泣くのを堪えながら、コウヤは笑顔で告げた。
「バイバイ…」
 カッ…!
 大きな稲光がトビタクラブを覆うかのように落ちる。
「うわあああああああああああ!」
 五人の悲鳴が一斉にトビタクラブ内に響き渡った。



「う…ん…」
 数分後、コウヤが目を覚ます。
「あ…れ? 俺何してたんだっけ…?」
 気がつけばフィールドの上にいる。
 その向かいにはジロウがいる。
「あ、そっか…ジロウとこれからトレーニングをするんだったけ…」
「コウヤー! 早く練習始めるぞー!」
 ジロウがレイジングブルを片手にセットアップする。
「おーっし! 負けないぜ! ジロウ!」
 自分達のギアをフィールドに投げ入れ、バトルが開始される。
「おっ? コウヤ、最近上手くなってるんじゃないか?」
 ジロウがコウヤを見て少し驚く。
「ふーん…へっ? マジ!?」
 今頃気がつくコウヤ。
「ああ、この間はちょっと変だったが、今日は上手いぞ!」
「そうか! よーっし! 頑張るぞー!」
 楽しそうにギアファイトをしている二人を見て、微笑むリリカ。
「上手ね、頑張って」
 クロウドとキョウスケは相変わらずお互い心を閉ざしたままだ。
「だからこのセッティングはちょっと無理だからやめるんだ」
「うるせー、命令すんな」
 本当に相変わらずのクロウドとキョウスケだ。
「えーっと、レイジングブルリングアウト! 勝者はコウヤ! すごいじゃない!」
 カオルはコウヤの方に振り向く。
「やったー!」
 嬉しそうに笑うコウヤ。
 今日もトビタクラブは明るく頑張っているようだ。



 終わり