清き戦士たち〜打倒コレクター!〜 《後編》



 ――――嫌な予感はしていた。
 イザムはそう思い、溜め息を零しながら、ドラグォールのアジトへ潜入するフレイムの後に続いた。


「なっ、何でオレがそんな『おとり』にならなけりゃいけないんだ!?」
 アーデンフレイムの提案した作戦を聞いたイザムは、思わず叫んだ。
 可愛い女の子好きなドラグォールに、フレイムが『おみやげ』としてイザムを差し出し、寄ってきたところをイザムが攻撃、怯んだ隙に隠れていた皆が飛び出してを救出、あとは倒すだけだ――ということだった。
 後半は良い。
 だが、自分の役割を思うと――どう考えたって『女の子の振りをしろ』、ということではないか。
「おや? 君以外に適任な者が、この中に居ると思うのかい?」
 意外そうに訊き返されて、イザムはハッとして周りを見回した。
 確かに、アーサーやウォルトにはちょっと(?)無理があるし、エジソンやオーディーンなど……ドラグォールが暴走しかねない。
「……ま、仕方ないだろうな」
「仕方ないのである」
 いつぞや聞いたような台詞を言って、うんうんと頷くオーディーンとエジソン。
「頑張れ、イザム。この役はお前にしかできねぇよ」
 ウォルトにまで言われて、イザムは最後の頼みの綱とばかりに、「アーサー…!」と、リーダーである彼に助けを求めるような視線を向けた。
 しかし、アーサーは心底真面目な、すまなさそうな顔をして。
「すまない、イザム…! これものためなんだ。解ってくれ…!」
 諭すように、力強くイザムの両肩に手を置いた。

 イザムは半ばやけになっていた。
 だが、確かに――を守ってやれなかった責任もある。
(仕方がない……! のため……のためだ…!!)
 イザムは、極力パープルのことは考えずに、のためと自分を言い聞かせるしかなかった。



 一方、ドラグォールに連れ去られたとアーデンパープルは――。
「放してっ、放してったら!」
「どうゆうことなの!? 私を一体誰だと思ってるの!?」
 それぞれドラグォールの手の中で抗議していた。
 しかし、聞く耳持たずなドラグォール。
 空中に漂う犬小屋――もとい、竜小屋とでも言うべき、彼のアジトへと帰還する。
 地球に来た刻に、おそらくアーデン三将軍にでも特別に用意してもらったのだろう。
 部屋の中の物はすべてドラグォールサイズ。
 まるで巨人の家だった。
『きゃぁっ!!』
 上機嫌のまま帰ってきたドラグォールは、とある台に乗せられたカゴの中に、とパープルを放り込んだ。
「何するのよ!? ちょっと、ドラグォール!?」
 乱暴な扱いに腹を立て、パープルはドラグォールに叫ぶ。
 が、ドラグォールは鼻歌でも歌うような雰囲気で、この部屋を出ていった。
「何でこの私が、こんな扱いされなきゃいけないのよ!?」
 パープルは「冗談じゃないわ」と怒りながら、カゴから出ようとする。
「うっ! こ、これは…!?」
 ところが――カゴには丁寧にバリアが張られていた。
 即座に打ったパープルのアーデンキャノンでも、傷一つ入らない。
「ドラグォール――ッ!!」
 いい加減頭にきたパープルの叫びが響き渡る。
「……って、一体どうゆうことなのかしら? 何で私達、連れてこられたの? 私はともかく、あなたはアクロイヤーの人なのに…」
 これ以上いくら騒ぎ、喚いても無駄だと判ったが、パープルに尋ねる。
 パープルも「そうね…」と、ようやく落ち着いてきた。
「あのドラゴンは何なの?」
「あいつはドラグォール。アンゴルモア様が、放し飼いにしてるペットよ。私は興味無いからあんまり関わったことないんだけど……何だってこんな扱いを…!!」
 パープルの表情が、また段々と険しくなってゆく。
「絶対に変よ! 私達が来るまでは、普通にミクロマン達と戦っていた筈なのに…!」

(――私達が来るまでは……?)

 ふと、疑問に思って胸中で繰り返す。
 けれど判らずじまいで、は溜め息を零し、周りを見回した。
「………なっ、何…これ…っ!?」
 目に入ってきた光景に驚く
 パープルも「え? 何よ?」と言ってそちらを振り向いた。
 するとそこには――リカちゃんやらジェニーちゃんやらという女の子の人形が、たくさん詰め込まれていたのである。
 どうやら、地球に来てから拾い集めたらしい。
 これでとパープルは、フレイムから説明を受けなくても、ドラグォールの『趣味』を理解することができた。
『――さ、最低!!』
 異口同音に、叫ぶとパープル。
「私達は人形じゃないのよ!?」
「それにっ、あんたのコレクションでもないのよ! ドラグォール――ッ!!」
 ドラグォールの『コレクション』のカゴの中で。
 とパープルは延々叫び続けるのだった。



 ドラグォールが部屋に戻ってくる。
 それと時を同じくして、フレイムとミクロマン達はこの部屋への侵入を果たした。
 ドラグォールに悟られぬよう、小声で作戦会議を開く。
「…パープル達は多分、あのカゴの中だ。かなり頑丈なバリアでね。中からは何をしてもびくともしないんだ。でも外からの攻撃なら破れるだろう」
 フレイムがそう言うと、丁度エジソンもバリアの分析を終える。
「確かに。イザムを覗いた僕ら四人の攻撃を合わせれば、何とか突破出来そうなのである」
「よし。ウォルトとエジソンはの救出を優先してくれ。私とオーディーンは、バリアを破った後、イザムの援護に回る」
『了解!』
 小声でのアーサーの指示に、皆はやはり小声で応じた。
「頑張れよ、イザム!」
「頼んだよ」
 ウォルトとアーサーがイザムにそう声をかけてから、カゴが乗っている台のそばへと近づいていく。
 フレイムは面白そうにイザムを見やる。
「責任重大だね。覚悟はいいかい? イザム君」
「ああ、もう何でもいいから早くやってくれ」
 項垂れたようにして言葉を返すイザム。
 こうなったら、なるべく早く終わってほしい。
「やる気満々だねぇ。じゃぁ、行くよ」
 くすくすと笑いながら、フレイムは作戦を開始した。
「――やぁ、ドラグォール。お邪魔するよ」
 突然の来訪者の声に、ドラグォールが振り向く。
 カゴの中のものは返さん、とばかりに鳴き声を上げた。
「ああ、違うよ、ドラグォール。実はいいものを見つけたから、君にプレゼントしに来たんだ」
 演技とは思えないフレイムの言葉に、案の定ドラグォールは何の疑問も持たずに彼の元へ近づく。
 その隙を利用して、アーサー達はカゴの後ろへ回った。
「ほら、これだよ」
 そう言ってフレイムは、一応縛ったようにしてあるイザムを放った。
 一応と言うのは、すぐにほどけるようになっている、ということである。
 イザムを見たドラグォールは、暫しの間、彼をまじまじと見つめる。
 先程イザムが功を奏していたもの――竜のマスク。
 それを解除した、素顔の状態の彼を見て。
 ドラグォールは――それはそれは嬉しそうな声を上げた。
「え…!? い、イザム…!?」
 カゴの中から外の様子を見たは、びっくりして目を丸くする。
 フレイムが『プレゼント』なんて言ったが、どう見たってあれはミクロマンのイザム。
「へぇ…なるほど。フレイムも考えたわねぇ」
 感心したようなパープルに、は「そ、そんな呑気な…!」と、焦って言う。
「どうだい? 僕の目も大したものだろう?」
 フレイムの問いかけに、ドラグォールは頷くように鳴き返す。
 早速コレクションに加えようとでも思ったのか、イザムの方へ更に近づいた。

 もう少し、あともう少し近づいたら――。

(――今だ!!)
 ドラグォールが達の居るカゴから充分離れた、その瞬間。
「超磁力ソードッ!! ドラゴンフェノメナンッ!!」
 イザムは愛剣を素早く出現させ、ドラグォールに必殺技をお見舞いした。
 突然の攻撃を避けられず、ドラグォールは悲鳴を上げて巨体を蹌踉めかせる。
「行くぞ、みんな!!」
『おうっ!!』
 アーサーの一声に、皆はカゴの上へと跳躍する。
、ふせているんだ!!」
「わ、わかった!」
 皆が助けに来てくれたのだと理解したは、アーサーに返事をして、言われた通りにした。
「超磁力マグネブラスターッ!!」
「ウォーターホイッパー!!」
「エネルギースティック!!」
「タックルオブファイヤー!!」
 それぞれの必殺技が炸裂し、カゴを覆っていたバリアを見事に破壊する。
「よしっ、ウォルト、エジソン! を頼む!」
 ウォルトとエジソンは「任せろ!」、「なのである!」と、各々リーダーに返した。
 アーサーとオーディーンは、おとりとなった仲間の元へと急ぐ。
 すると、双眸に怒りを燃えたぎらせたドラグォールとイザムが対峙しているところだった。
ちゃんっ!」
「大丈夫であるか!?」
 駆けつけてくれたウォルトとエジソンに、は「ええ、大丈夫よ。ありがとう!」と微笑んで答えた。
 突然の攻撃をくらい、大事なコレクションをしまってあるカゴのバリアまで破壊されたドラグォールは怒り狂い、口内から炎の弾を幾つも吐き出す。
 イザムとアーサーとオーディーンは、一つ一つが大きいそれを何とか交わしていくが…。
「イザムっ、みんな…!!」
 戦闘の様子を見たは、堪りかねたように立ち上がる。
 ウォルトが「ちゃん…!?」と呼びかけた、次の瞬間には、
「もう、許せない!!」
 カゴが乗せられた台の上から、ドラグォール目掛けて飛び降りて。
「私も一発お見舞いしなきゃ気が済まないわっ!」
 ロボット形態にチェンジしたアーデンパープルも、それに続いた。
「超磁力マグネホイッパーッ!!」
「アーデンキャノンッ!!」
 上空からのとパープルの攻撃が、ドラグォールを襲う。
 またしても突然のそれに、ドラグォールの炎の弾が止まった。
「よくもをさらった上、オレにこんなバカな真似をさせてくれたな……ッ!!」
 蒼い瞳にこの上ない怒りを映し、イザムは竜のマスクを装着する。
「超磁力ソード!! ドラゴン・アローッ!!」
 とパープルと、イザムの必殺技は、ドラグォールごとアジトの天井を突き抜けてゆく。
 妙な『趣味』を持ったコレクターは。
 それに巻き込まれた、清き戦士たちの怒りによって、遙か空の彼方へ吹き飛ばされた。



「まったく……ロボット形態で来れば、こんなことにはならなかったのに」
「ドラグォールがあんな『趣味』を持った奴だなんて、知らなかったのよ!」
 ――そんなことを言いながら、炎と紫の将軍は帰って行った。

「あ、あの……イザム」
、怪我は無いか? ひどい目に遭ったな」
 おずおずと声をかけてきたに、イザムは心配そうな顔で問う。
 は「ううん、そんな…! 私は平気よ」と、慌てて両手を振り、
「それより……ごめんね。私のせいで…」
 と、申し訳なさそうに俯いた。
 何せ彼に『女の子の振り』をさせてしまったのである。
 あれの発案者がアーデンフレイムだろうというのは想像つくが、イザムがそれを承知するのに、何の抵抗も無かったわけは無い。
 ほぼ無理矢理というか、強制的だったのではないだろうか。
「い、いいんだ、。オレがあの刻、君を守ってあげられなかったんだから、その責任を取っただけさ」
 イザムは段々と照れくさそうになる。
「…すまなかった。怖い思いさせて」
「う、ううん……平気だって。――ありがとう、助けに来てくれて」
 も薄らと頬を染め、とても嬉しそうに礼の言葉を紡いだ。

「――んじゃ、オレ達は先に乗ってるとするか」
「賛成なのであーる」
 気を遣って、先にミクロステーションへ向かうウォルトに、同じく続くエジソン。
「え? 何故なんだ? イザムとは…?」
 しかし彼らのリーダーは、きょとんとして瞬きをする。
「今は二人で話したいことがあるんだろう。いいから行くぞ、アーサー」
「あ、ああ…そうか」
 オーディーンの言葉に、一応頷くアーサー。
 けれど「そうか」とは言いつつ、彼が本当に理解したかどうかは定かではなかった…。




                 end.




 《あとがき》
 ようやく終わりました、『イザム達の戦闘中のアクシデント!』話の後編です;
 リクエストして下さった風海様、お待たせしてしまって、すみませんでした(><;)
 ちょっと家庭内で内乱が…いえ、何でもございません〜;;
 こんな話でよろしかったでしょうか?; あんまりやりすぎるとイザムくんが可哀想
 だったので、なるべく控えめにしたつもりです(何を?/笑)
 ちなみに『ドラグォール』という名前は、『ウェブダイバー』のドラグオンをもじった
 という伝説がありますが、彼とは一切関係ありません(←何のこっちゃ/苦笑)
 それはともかく。風海様。すごく時間を掛けてしいましたが(汗)、こんな私に
 リクエストして下さって、ありがとうございましたm(__)m

                            written by 羽柴水帆