清き戦士たち〜打倒コレクター!〜 《前編》




 ――それは、ミクロマン達がミクロステーションに搭乗し、パトロールをしている時だった。
 海岸埋め立て地まで来た所で、突然の攻撃を受ける。
「何だ!? アクロイヤーか!?」
 衝撃に襲われたミクロステーションの中央の席で、アーサーが右後方を振り向く。
「レーダーに感知! 上空なのである!」
 その席に座る、状況分析担当のエジソンが真上を指した。
『――っ!?』
 皆、一斉に真上を見上げる。
 すると――太陽の光を遮りながら翔ぶ存在が、それぞれの瞳に映った。
「何だぁ、あいつは!?」
 ウォルトがそのあまりの大きさに驚く。
「ドラゴン…か…?」
 ミクロステーションの上空を悠々と飛翔するそれは、イザムには取りあえずそう見えた。

「――その通りだよ」

 どこからともなく、聞き慣れた、余裕を含んだ声が響く。
「久しぶりだね、諸君」
「…アーデンフレイム!」
 ドラゴンの隣りに姿を現したアーデンフレイムを見、オーディーンは表情を厳しくした。
「中々見事なドラゴンだろう? 彼の名はドラグォール。恐れ多くも、アンゴルモア様のペットであらせられるのだよ」
「アンゴルモアの……ペットぉ??」
 ウォルトのやや気の抜けた声に、フレイムは「そう、ペット」と答える。
「しかしあまり忠実ではないらしくてね。手がつけられないので、放し飼いにしていらっしゃるんだ」
 さも楽しそうに説明する炎の将軍。
「何だって!?」
「放し飼いにするなよ!! なんて無責任な飼い主だ!?」
 アーサーとウォルトの抗議するような声に、フレイムは愉快そうに笑うばかりだ。
「広い宇宙を放浪中、この地球の近くまで来てくれたからね。彼はアンゴルモア様に忠実ではないが、ミクロマンのことは嫌いらしい。だから、僕のお願いを聞いてくれたってわけさ」
 フレイムが語った後、ドラグォールはミクロステーションに向かって炎を吐いた。
「くっ…!!」
 何とか旋回して、炎を回避するミクロステーション。
「仕方ない、我々は出よう! エジソン、君はミクロステーションに残って援護を頼む」
「了解である!」
「行くぞ、みんな!」
『おう!!』
 リーダーであるアーサーの指示の声に各々答えて、ミクロマンは打倒ドラグォールのため、戦闘を開始した。
 イザム、ウォルト、オーディーンはそれぞれマスクを装着する。
「タックルオブファイヤァーッ!!」
 オーディーンの左腕に現れたマグネアームから、必殺技となった炎が放出される。
 しかし、ドラグォールも負けじと放った炎とぶつかり、爆発を起こした。
 その衝撃が皆を襲いそうになったところを、ウォルトが「炎とくりゃオレの出番だぜ!!」と得意げに飛び出していく。
「ウォーターホイッパァーッ!!」
 彼のマグネアームから繰り出された得意の水の鞭は、炎の衝撃を防ぎ、皆を守った。
 が、ウォルトは内心「ありゃ?」と期待が外れてしまった。
 そのままドラグォールをも攻撃できると思ったのだが…。
「はぁぁ――ッ!!」
「超磁力ブレイクッ!!」
 イザムが超磁力ソードで斬り掛かり、アーサーが必殺技をお見舞いする。
 ところが――ドラグォールはイザムの剣を避け、アーサーの超磁力ブレイクを吸収してしまった。
『何ッ!?』
 ――今回の敵は、冗談抜きで巨大すぎた。
「くっ…!?」
 体勢が危うくなったアーサーとイザムを救うべく、エジソンの操縦するミクロステーションがドラグォールを砲撃する。
 おかげでアーサーとイザムはその場から離れることができた。
「大丈夫であるか!?」
「ああ!」
「すまない、エジソン!」
 イザムとアーサーがそれぞれ返事を返す中、暴れ足りないドラグォールは炎の弾を放出し続け、埋め立て地に雨のように降り注がせる。
「おやおや、パワーが有り余っているようだね…。気持ちは解るけど、地上を攻撃するより先にミクロマン達を片づけたらどうなんだい?」
 アーデンフレイムの言葉に、しかしドラグォールは受け入れなかった。
 まるで「嫌だ」というように反抗するような咆哮を上げる。
「やれやれ…自分の好きなようにやりたいみたいだね。ま、アンゴルモア様の言うことも聞かないんだ。やはり、僕の言うことなんかもう聞いてくれないか」
 苦笑いじみているが楽しそうなフレイムに、ウォルトは堪らず声を上げる。
「そんな言うこと聞かねぇような奴を、何でアンゴルモアはペットなんかにしてんだよ!?」
「う〜ん…僕のピーちゃんは、普段はいい子だから、よく解らないんだけど……おそらく『バカな子ほどかわいい』ってことなんじゃないかなぁ」
 フレイムは止めに「よくあることだよ」と付け足した。
「なっ……!?」
「あってたまるかッ!!」
 アーサーやイザムは開いた口が塞がらないし、ウォルトは叫ばずにはいられなかった。
「あんな奴、放っておけ、アーサー。それよりドラグォールだ」
 オーディーンの言葉のおかげで、アーサーは我に返る。
「そ、そうだな…このままでは無理だ。みんな、超磁力アクセレーターを…――っ!?」
 装着しよう、とアーサーは言おうとした。
 が、それより早くドラグォールの炎が来襲し、皆はやむなくその場から飛び退く。
 ――と、その刻。

「アーサー! みんな! 大丈夫!?」

 彼らの元に、ミクロレディである少女が到着した。
!』
 皆は一斉に彼女の名を呼び、視線を集わせる。
 アーサーは少し驚いて「どうしてここに…!?」と尋ねた。
「基地へ行ったら、みんなが戦闘中だって、ベルタさんが教えてくれたから…!」
 駆けつけるため、基地からこの場所へベルタに転送してもらったらしい。
「そうか…ありがとう、
 アーサーは微笑んでに感謝した。

「フレイム、様子はどう?」
 が来たのとほぼ同時に、フレイムの方にアーデンパープルが現れた。
 その姿は、彼女お得意の人間形態である。
「ああ、やっぱりドラグォールはもう僕の言うことを聞いてくれなくてねぇ…でもまぁ、順調なんじゃないかな」
 フレイムはそう答えた後、戦闘の場の不思議な光景を目の当たりにした。
 ――ドラグォールが、動きを止めたのである。
『え…っ!?』
 ミクロマン達も、二人の将軍も驚いて目を見張る。
「一体、どうしたんだ…?」
 オーディーンが誰にとなく問うように呟く。
 と、突然、ドラグォールが目掛けて飛来してきた…!
「なっ、!!」
 彼女の近くに居たアーサーとイザムが、彼女を守るべく身を投げる。
「えっ…!? きゃぁぁ!?」
 しかしそれも間に合わず、はドラグォールの手に捕らわれてしまった。
 そしてドラグォールはを捕らえた勢いのまま、二人の将軍の方へと翔び、
「え? え!? ちょ、ちょっと何を…!?」
 もう片方の手で、パープルを捕らえた。
 右手に、左手にパープルを掴んだドラグォールは、上機嫌でこの場から飛び去っていく。
ッ!?」
 訳の解らないままさらわれてしまったミクロレディの名を、イザムが叫んだ。
「あ、あぁっ、ドラグォールの反応が、レーダーからどんどん離れていくのである!!」
 やドラグォール達の反応を示す点滅が、レーダーの片隅へ消えていく。

 エジソンが焦ってそう告げた数秒後には、ドラグォールの反応がミクロステーションのレーダーから完全に消失してしまった。

「……きっ、消えてしまったのである……」
 呆然としてレーダーの状況を報告するエジソン。
「なっ……何なんだ一体!?」
「フレイムッ、どういうことだ!?」
 ウォルトとアーサーはフレイムに向かって問い質した。
 が、ドラグォールの飛び去った方を見上げている炎の将軍は、
「…………はて?」
 心底不思議そうに首を傾げた。
「はて? じゃねぇだろうッ!!」
「ふざけるな!!」
 その態度に、ウォルトとオーディーンは腹を立てる。
「フレイム! アーデンパープルまで連れて行かれたんだぞ!?」
 はともかく、パープルは彼の仲間だ。
 それを思えば確かにおかしな話である。
 アーサーの言葉を受けてフレイムは暫し「う〜ん…」と考え込み、
「あっ!!」
 何かを思いだしたのか、手をぽんと打った。
「そうだ、ドラグォールは……可愛い女の子好きだったんだ」
『――はぁ??』
 フレイムの口にした『事実』を聞いた途端、皆は揃って気の抜けた声を出した。
「なっ、何だよそれ!?」
 真っ先に我に返ったウォルトが叫ぶ。
 他にも抗議の声を上げるミクロマンのそれを聞き流し、フレイムは「う〜ん、困ったねぇ…」と更に考え込む。
 ――暫しして、アーデンフレイムは一つの結論を出した。
「ミクロマン諸君、ものは相談だ。一つ提案があるんだけど…」
「……何だ?」
 未だ警戒を解いていない声で、アーサーが訊き返す。
「ここは一時休戦して手を組まないかい?」
「何っ…!?」
「僕はドラグォールの居場所を知っている。だが彼がおとなしく僕の言うことを聞いて、パープルを返してくれるとは思えない。僕がドラグォールの居場所を教え、作戦を立てるから協力してもらえないかな? 僕はパープルを助けるため、君達は仲間の彼女を助けるため」
 どこかまだ信用できないアーサーは、取りあえず「……作戦とは?」と訊いてみる。
「おとり作戦だよ。オーソドックスにね」
「おとりって…」
 誰が? というように、ウォルトが呟いた。
 そしてフレイムが指し示した先には――。
「え? オレ…!?」
 ミクロマンの美しき剣士、イザムが居た。




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 《あとがき》
 風海様にキリ番1000でリクして頂いた『イザム達の戦闘中のアクシデント!』話、
 の前編です; すみません; 水帆は文章が長いんです(TT)
 って……これってアクシデント?? ハプニング?? この二つの言葉の意味を改めて
 カタカナ語辞典で調べてしまいました(結局どちらも似たようなものでしたが/笑)
 勝手に前後編にしてしまって、ごめんなさい(><;) 後編も頑張ります〜;
 はてさて。様とパープル、そしてイザムくんの運命やいかに!?(笑)

                          written by 羽柴水帆