太陽から空の支配権を譲り受けた月が、漆黒の闇の翼を広げる。
 地上にはいくつもの金色の灯りが夜空の星のように輝いて。
 天上で煌めく本物の星たちは、ささやかに見守るように、ただ静かに瞬いていた。





       Twinkle〜星の宝石箱〜 《後編》





「はい、キャル。メリークリスマス」
 家のお嬢猫の皿に盛られたフライドチキン。
 と言っても彼女があまり好かない皮を取り、中の肉を柔らかくほぐしたものだが。
 皿が置かれる、かた、という音だけでごはんの時間だと察知していたキャラメルは、一目散に飛んできてごちそうにありついた。
 はぐはぐと夢中で食べる愛猫を見て微笑むと、は先ほどテーブルに並べた夕食を見やる。
 店で売っているチキンのパックで、なかなか一人用というのも無くて作ってしまったが、やはり自分と愛猫だけには多すぎた。
 だからケーキも、今回は作らなかった。
 こればかりは猫であるキャラメルも食べられないので、ホールケーキもブッシュドノエルも一人でなんて食べきれない。
 お気に入りの洋菓子屋で、一切れのいちごショートケーキを買ってきた。
「あ、そうだ、キャンドル」
 また押し寄せてきた淋しさを追い払うように、はそれを思い出した。
 冬休みに入る終業式の日、友達としたプレゼント交換でもらった物。
 小さめのマグカップのような大きさで、金色のたくさんの星と二つのベル、柊の葉が描かれた中に、雪玉を固めたような白い蝋燭が入っている。
 テーブルの中央にそれを置いて火を灯し、部屋の電気を消した。
 ふわっと訪れた、優しい沈黙。
 心の中にも火が灯ったような、そんな気がした刻、キャラメルがベランダの窓に向かって、「にゃ」と微かに鳴いた。
 そちらに視線を向けてみると、レースのカーテン越しに見える夜空に、無数の白い光が降りそそいでいる。
「あ、雪……!?」
 そう思って、椅子から立ち上がると――コンコン、と小さな音がした。
「え……?」
 どこからだろう、と思っていると、もう一度同じ音。
 それは、窓の外を見ている愛猫の方から聴こえてきていた。
「キャル?」
 キャラメルが窓に何かしているのかと思いながら、彼女のそばへ歩み寄ってみると――は思わず瞳を見開いた。

「やぁ、こんばんは、

 窓の外に居たのは、キャラメルよりももっともっと小さい人。
 でも、とても大きな力と優しさを合わせ持つ人だった。
「ア、アーサー!?」
 びっくりしたはその場に膝をついて、勢いよくベランダの窓を開けた。
「メリークリスマス、
 まるで淡雪がじんわりと溶けてしまうような、あたたかくて優しい声。
「メ、メリー、クリスマス……」
 びっくりして、でも嬉しくて。
 アーサーの表情(かお)がとても穏やかだったから、そうつぶやき返す。
「って、あの、ど、どうして……?」
 彼の思いも寄らない訪問はすごく嬉しいのだが、本当に驚いてしまった。
「ベルタから聴いたんだ。君が、毎年のクリスマスをひとりで過ごしているって」
「え、あ……」
 相変わらずの穏やかな声に、は言葉を失くしていく。
「今年も、どうやらそうみたいだし……みんなで話し合ったんだが、
 少女を見つめる大地色の瞳が、どこまでも澄み渡る。
「今年のクリスマスは、私たちと共に過ごさないか?」
 心の中で凍っていた何もかもが、一瞬にして溶け出したように思えた。
「……うん。うん、ありがとう! すごく嬉しい!」
 から笑顔があふれると、アーサーも「よかった」と微笑んだ。
 と、その時、彼のヘッドセットに通信が入る。
「――ああ、こちらもOKだ」
 マグネパワーズのリーダーは、通信の相手にそう答えた。
「アーサー? 誰なの?」
 が不思議そうに訊ねると、アーサーはにっこりと楽しそうに微笑う。
、窓の外を見てごらん」
「え……?」
 言われた通りに顔を上げてみると――。

『メリークリスマス! !!』

 もう見慣れた青いミクロステーションが、トナカイのソリのごとく降りてくる。
 ちょっぴり曇った薄い色の夜空から、白銀の天使たちと共に舞い降りたのは、もう四人のとっても小さなサンタたちだった。
「み、みんな……!?」
 本日二度目のサプライズに、少女は思わず立ち上がる。
 そんなの顔を見て、イザムがふっと笑った。
「どうやら、びっくりさせよう作戦はうまくいったみたいだな」
「大成功なのであ〜る」
「イザム、エジソンさん……」
「ちゃんとケーキもあるぞ、
ちゃん、これ、オレたちが作ったんだぜ!!」
 傑作のそれが入っているらしい箱を持ってみせるオーディーンの隣りでは、ウォルトが得意げな笑顔を撒き散らした。
「オーディーンさん、ウォルト……!」
 皆の笑顔は、ツリーのてっぺんで輝く星の光のようだった。
「みんな……みんな、ありがとう! さぁ、中に入って」
 この星を守るために、宇宙から降り立った五人の小さな戦士たちと。
 選ばれし地球の少女と、その愛猫。
 静かに雪降る聖なる夜に、楽しいクリスマスパーティーが始まった。



 ――――また、あの優しい白の夢の世界が還ってきた。
 サンタクロースが居ないことなんて、小学生の時に知ったけれど。
 本当のサンタクロースは、周りをよく見ればちゃんと居るのだ。
(ありがとう……みんな)
 彼らがくれたのは、努力の結晶であるケーキだけではなかった。
 この地上に降る銀色の雪のように、あの雲の上で瞬く金色の星屑のように。
 キラキラと輝いて、心をあたたかく満たす、たくさんの小さな宝石たちだった。




                  end.




 《あとがき》
 す――っかりご無沙汰してしまったミクロマンドリー夢(滝汗)のクリスマス創作です。
 話の内容や、タイトルも大体早い段階から決まっていたのですが……最近本当にダメで
 なかなかはかどりませんでした; 昔のように、自分だけの時間がしっかり取れれば
 いいんですけどね……。またまたギリギリでしょーがない奴です(××)
 さて今回のドリーム(お相手)は、アーサーがメインです。彼と二人きりというのも
 捨てがたかったのですが、このお話に関してはみんなに出てきてもらった方がいいと
 思い、最後はにぎやかに終わるようにしました(^^)
 アーサーたちのアニメが終わってもう6年ほど経ちますが、まだまだまだ、やっぱり
 みんなが大好きな水帆です。書きたい話、煮詰めてる話もかなりありますし(^^;)
 これからも遅筆ながら、頑張ります。

                                  written by 羽柴水帆