ミクロバレンタイン ‐イザム編‐




「ベルタさん、あの、イザムはどこに居ますか?」
 おずおずとしながら訊ねたに、
「イザムなら、基地内の温室だと思うわ」
 ベルタは、優しき慈母の如き微笑みで答えてくれた。


 イザムが常に管理、世話をしている植物の温室。
 何度か来たことがあるそこへ、は緊張しながら向かった。
 そぉっと静かに入ってみると――ベルタの言葉の通り、綺麗なレモン・イエローの髪を持つ彼の姿があった。
 声をかけようとして、けれど一旦それを呑み込んでしまう。
 イザムは、元気な緑の枝葉をつけて咲く花達に、とても優しい笑顔を向けているのだ。
(わぁ……イザム、すごく優しい顔……)
 その笑顔は、自身も何度か見たことがある。
 普段マグネパワーズ五人の中で、割とクールなイザムが見せてくれる笑顔は、本当に綺麗で優しい。
 ――何だか、花が羨ましく思えてくるほどだ。
「……ん? ?」
 と、イザムは立ち尽くしているに気づいて、こちらを向いた。
「どうしたんだ?」
 歩み寄りながら訊ねてきた彼に、は「え? あ、えっと、その…!」と慌てる。
「オレに何か用か?」
「う、うん! そうなの」
 とても大切な『用』を思い出して、は一回、深い呼吸をした。
「あの、これ……!」
 再び緊張しながら、小さなその包みを前に持ってくる。
「バレンタインのチョコレートなんだけど……よかったら、もらってほしいの」
 微かに両手を震わせながら、チョコを差し出した。
……!」
 彼女の名を零したイザムは、どうやら驚いているようだった。
 二度ほど、濡れたような群青色の瞳を瞬かせる。
「あ、ありがとう、…」
 ようやく聴こえた、声。
 は反射的に顔を上げる。
 すると彼は、照れて朱に染まる顔を隠すように片手で覆いながら、のチョコを受け取った。
「よ……よかったぁ……! いらないって言われたら、どうしようかと思った」
「そ、そんなこと言うわけないじゃないか」
 はホッとして冗談まじりに言ったのだが、それに反して、イザムは予想以上にハッキリと否定した。
 ――イザムは、先日麻美から聞いた『バレンタイン』と、その日にチョコレートをもらう『意味』を、しっかり理解しているのだ。
「その……すごく嬉しい。ありがとう」
 イザムは、もう一度きちんと礼を言った。
「い、イザム…!」
 そんなに改まって言われると、こちらまで照れてしまう。
 も頬を薔薇色に染めながら俯いて、「ど、どういたしまして…」と小声で紡いだ。
 ――暫くの間、ふたりは沈黙に包まれる。
 重たいものではないが、どうにも気恥ずかしい。
 と、その刻、の横にある植物が微かに動いた。
「え?」
 それに気づいたは、見間違いではないかと思ってそちらを見やる。
 が、見間違いではなかった。
 長い蔓を持つその花は、突然達に向かって蔓を伸ばす。
「きゃぁ!?」
ッ!?」
 突然のことに驚いたは、避けようとした弾みで身体が倒れかかる。
 イザムは咄嗟に両腕を広げて、倒れそうになったを受け止めた。
「大丈夫か? ?」
「う、うん……ありがとう…って、あっ! ご、ごめんね!!」
 礼を言いながら、彼の腕の中に倒れ込んでしまったと気がついたは、慌てて彼から身を離す。
「いや、こっちこそすまなかった」
 イザムはに謝ってから、「こら、驚かしちゃ駄目じゃないか」と、いきなり蔓を伸ばしてきた花を叱る。
「え? よかったねって……まさかわざとやったのか!?」
 花に向かって、赤面しながら大きな声を上げるイザム。
 は「??」と、首を傾げる。
 ――どうやらその花は、沈黙したまま発展しないふたりを見かねて行動したらしい。
「イザム? どうしたの?」
「い、いや……何でもないんだ。怪我はなかったか? 
 平静を取り戻しつつ訊ねたイザムに、「うん、大丈夫よ」と答える。
「そうか、よかった…。本当にすまなかった。悪気があってやったわけじゃないらしいんだが……」
「平気よ。お花が元気な証拠なんでしょ?」
 にっこりと微笑んで、「すごい元気ねー」と花に話しかける。
……」
 てっきり怒るかと思っていたイザムは、驚いて群青の双眸を見開いた。
 ここの植物が嫌われてしまったら、怖がられてしまったらどうしようかと思っていたのに。
 と、名前を呼ばれたは、「なに?」と振り返る。
「……ありがとう」
 感謝の想いを込めて、イザムは柔らかく微笑んだ。
 は「え? な、何が??」と小首を傾げる。
 イザムが笑顔を見せてくれたのは嬉しいのだが、その意味がよく判らないのだ。
 きょとんとした顔をするに、イザムは「いや、何でもないんだ」と、微笑を繰り返す。
「あぁ、もうすぐ時間だな。そろそろ司令室へ戻ろうか、
「え? あ、うん。そうね」
 理由はよく判らないけど、大好きなイザムの笑顔が見れたのだから、いいか――。
 そう思ったは、こくんと頷いて、歩き出すイザムの後に続く。
 もう一度、暖かな笑顔を交わし合って――。


 ――今日は、小さいけれど大きな幸せに包まれた、
 ふたりのミクロ・ハッピー・バレンタイン。




              end.




 《あとがき》
 ミクロマンバレンタイン分岐ドリーム、イザムくんEDです〜!
 如何でしょうか?; ちょっと心配…(汗) でも、イザムくんっていいですね!
 ちゃんと恋愛的な切り返しをしてくれてる!(笑) ある意味大人ですよ〜。
 何気に協力してくれる植物さんも居るし(笑)、イザムくんがお相手の場合はそんなに
 難しい苦労はしなくて済みそうですね(^^) お返しはどうしようかなぁ…。
 あ、綺麗でカッコよくて優しい彼のイメージを壊してたら、すみませんでした; 

                            written by 羽柴水帆