――――鈴の音が響く……――。
それは、選ばれし者にしか聞こえない音。
他の誰の耳にも届かない音。
「……龍神様……?」
涼やかで神聖なその響きを聞き、感じ取ったのはひとりの少女だった。
少女は顔を上げ、外へ飛び出すと、藤の咲き乱れる雅な庭の真ん中で、空を見上げる。
「龍神様、私はここです」
少女は凛とした声と瞳で応えた。
今居るこの世界――『京』を守るために選ばれた神子として…。
――やがて龍神は、少女に――自らが選んだ神子に、ひとつの『運命』を告げた。
「おい、あかね。どうしたんだよ? 急に飛び出したりして」
「神子殿。何かを感じ取られたのですか?」
先程まで少女のそばにいた二人の青年が、彼女の元へ歩いてくる。
――少女の名は、元宮あかね。
京を守るために、遙かなる時空を越えて、この地に舞い降りた龍神の神子。
「天真くん……頼久さん……」
あかねは自分を守護する役目を持つ八葉の内の二人――天の青龍・源 頼久と、地の青龍・森村天真に向き直る。
「神子様? どうなさったのですか?」
可憐な声と足音と共に、あかねに尋ねたのは健気な瞳を持つ幼き姫だった。
「藤姫、お願いがあるんだけど…」
「はい? 何でございますか?」
「……みんなを……八葉のみんなを、呼んでほしいの…!」
藤姫は素直に返事をしたものの、普段のあかねとは少し違う様子に心の中で首を傾げた。
それは、頼久と天真も同じだった。
いつもの前向きで明るく素直な彼女とは――……しかし、あかねがそんな表情をするのは、その素直さゆえなのだ。
「……もうひとつの、運命……!」
少し曇った空を見上げ、あかねはそう呟いた――。

序章 運命の予兆