―――俺は…ずっと待っていた…。

―――もうこの願いは届かないのだろうか…?




                     七夕の願い事





 いつもと変わらぬラグビー部。
 だが…一人だけ様子がおかしい部員がいた。
「なあ、秀悟」
 ラグビー部員の青井拓馬が、アシスタントであり、親友である卜部秀悟に話しかける。
「何だよ拓馬? えらく真剣だな」
 着替えながら秀悟は拓馬の方へ振り向く。
「今日の晴哉、何か変じゃねぇ?」
 そう、一人だけ様子がおかしい部員とはクラスメートの桜井晴哉だった。
「そう言えば…そうだな。授業中でもボーッとしてたもんな」
 二人の側では晴哉がジャージに着替えている。
「晴哉ぁ、大丈夫かぁ?」
 同じくクラスメートでラグビー部員である柴木雅実が声をかけてみる。
「えっ…? あ、雅実。うん…大丈夫だよ」
「ホンマかいな?」
「ホントだよ」
 晴哉は笑うがその笑顔は何処か暗い。
「ならええんやけど、今お前が履こうとしとるズボン。それ慎太郎のや」
「えっ!?」
 よく見れば、晴哉が履こうとしているズボンは大きくてぶかぶかだ。
「あの巨大親父のズボンを履くなんて…晴哉って勇気があるんだなぁ」
 拓馬は冷めた口調で感心する。
「拓馬、拓馬」
 秀悟が拓馬の肩を叩く。
「んだよ、秀悟? 別にいいじゃねぇかよ。どうせ二年も留年してる親父なんだからよぉ」
「そうじゃなくて! 後ろっ!」
「後ろ? あっ…!」
 拓馬の背後には男子クラス委員であり、信頼も厚いラグビー部の部長、槇村慎太郎が立っていた。

「悪かったなぁ、巨大親父でよ( ̄_ ̄#)」

 こめかみには怒りマークが。
「あ、あら? し、慎太郎お兄様? いつからおったん?」
 雅実が苦笑いしている。
「俺が履いているズボンが晴哉のだった事に気付いて、今返しに来たんだよ」
「あ、ごめん慎太郎。このズボンが慎太郎のだって気が付かなくて」
 晴哉は慌ててズボンを返す。
「いや、誰にだって間違いはあるからいい。それより、拓馬」
 慎太郎の拳は準備完了している。
「お前、もうちょっと口調を直した方がいいぜ?」
「!?」
「あーあ…俺は知らないぜ?」
 秀悟は雅実、晴哉と共に部室を出て行った。
「おいっ! 待て秀悟!」
 拓馬は必死に秀悟に助けを求めるが…。
「安心しろよ。後で骨拾いに来るから」
 秀悟はハンカチをヒラヒラさせた後に部室のドアを閉めた。
 そして…。

「ぎゃあああああああああっ!Σ(〒□〒‖;)」

 物凄い音と拓馬の悲鳴が響き渡った。
「何だ!?」
「誰の悲鳴だこりゃ!?」
 部室の近くでは黒澤凌率いるシュバルツ・カッツが驚いている。
 得に、軍事オタクの志村鉄也、格闘マニアの前園健二は物凄く驚いているようだ。
「黒澤…」
 相棒の城直輝が黒澤に話しかけるが…。
「空耳だと思え。いいな」
 黒澤はただそう答えた。
「じゃあさ、これいる?」
 ロック好きの名波順がヘッドホンを取り出す。
「ジミヘンの新曲アルバムが出たんだ。悲鳴を聞くよりはいいだろ?」
 ちょうどヘッドホンの数は五つある。
「そうだな。じゃあ借りるぜ」
 頷いた前園はヘッドホンを耳に当てる。
 黒澤達もヘッドホンを受け取り、耳に当て、音楽を聴き始めるのだった。
 それは勿論、拓馬の悲鳴を遮る為でもあった。
「何やってんだ? ラグビー部の連中」
 福田和美グループの一人である三船夕佳が通りかかる。
 おそらく、和美や矢沢愛の元へ行く途中だろう。
「うるせー悲鳴だなぁ」
 手で耳を塞ぎながら夕佳は通り過ぎて行った。
 部室のドアの側ではキタノシオリがいた。
「……バカ」
 そう呟いたシオリは部室を後にしたのだった。


「で? 何でボロボロになったわけ?」
 部活中に、やっと慎太郎から解放された拓馬の手当をする、マネージャーの浅倉なお。
「俺はホントの事言っただけなのによぉ、慎太郎の奴。晴哉は許して、俺を許さなかったんだぜ? すっげーむかつくんだよ」
 頬にバンソーコーを貼られながら拓馬はぶーたれている。
「慎太郎はお家の事情で二年も留年しちゃってるんだから仕方ないじゃない。親父なんて言い方はやめた方がいいわよ」
 呆れながらもなおは拓馬の手当を終えた。
「はい、これで大丈夫よ」
「サンキュー」
 頬を軽く叩いた後、拓馬はベンチから立ち上がる。
 そこへ。
「なお! 救急箱貸して!」
 親友であり、同じマネージャーの本村明日香が大慌てで走って来る。
「どうしたの? 明日香?」
「またケガ人が出たの!」
「ケガ人? 明日香の旦那?」
 なおの言う旦那とは慎太郎の事。
 明日香は慎太郎のガールフレンドなのだ。
「バカね、違うわよ。晴哉なの!」
「ふーん…って晴哉!?」
 拓馬は平然としたかと思えば驚いた。
 隣のベンチで横たわる晴哉の側には後輩が謝っている。
 多分、チームメイトの向井渉が晴哉をベンチまで運んでくれたのだろう。
「すいません桜井先輩! 僕のせいでっ…!」
 どうやら、原因は後輩がボールを投げてしまった為、そのボールが晴哉の腹部に見事当たったらしい。
 これはかなり痛い。
「い、いや…今のはいいプレーだった。だけど、人に当てないように気を付けような」
 晴哉は苦笑いしながら後輩を許す。
「どうしたんだ晴哉? お前らしくないぞ?」
 慎太郎が晴哉の顔を覗き込む。
「いや、ちょっと寝不足なだけ。大丈夫だよ」
 晴哉は元気なのを見せる為に立ち上がるが…。
「うわっ…!」
 すぐによろめいてしまった。
「…もういい、今日はもう早退した方がいいな。飯はちゃんと食ってるのか?」
 よろめく晴哉を支えながら慎太郎は早退を勧める。
「うん、飯はちゃんと食べてるよ。ホントただの寝不足だってばぁ」
 晴哉は首を横に振るが、慎太郎は一歩も退かない。
「だったら、今日はちゃんと休んでおけ」
「そうだよ、無理して運動したら体がもたないよ?」
 慎太郎の意見に明日香も賛成する。
 結局、晴哉は早退する事となった。


「晴哉〜」
 男子寮にある晴哉の部屋に部活を終えた拓馬と秀悟が入ってくる。
「あ、拓馬、秀悟」
 ベッドで横になっていた晴哉は拓馬達に気付く。
「今日はどうしたんだよ? すっげーだるそうじゃん」
 秀悟が晴哉の額に手を触れる。
「うーん、熱はないみたいだな。それとも何か悩んでるのか?」
「…っ!」
 顔を伏せる晴哉。
 どうやら、図星らしい。
「…もうすぐ七夕だろ?」
 しばしの沈黙の後に、晴哉が唇を動かす。
「あ、ああ」
 頷く秀悟に晴哉は顔を上げる。
「俺さ、小さい時から七夕がある度に短冊に願い事書くのが楽しみで好きだったんだ。将来の事とか友達の事とか…家族の願い事も書いていたよ」
 晴哉は寮の外に飾られている笹の木を眺める。
「でも、去年から家族の願いは叶わなかった。何でだろうな?」
「あっ…」
 拓馬達は知っているのだ。
 晴哉は去年のBRで優勝し、失踪した最愛の姉の帰りを今も待ち続けている事を。
 父親も殺され、晴哉にとって家族はもう姉しかいない。
 BR法が無くなりますようにとかも書いた事もあったらしいが、それも叶う事はない。
「今年の願いが叶うかどうか怖くて仕方が無くて…」
「だから、今日は様子が変だったんだな」
 拓馬は晴哉の悲しそうな顔を見て辛く思った。
「もう…俺の願いは叶わないのかな?」
 晴哉の顔は今にも泣きそうだ。
「そんな事ねぇっ!」
 拓馬が晴哉の両肩を掴む。
「拓馬…?」
「叶わないからって諦めるな! 願いなんて一回だけじゃ叶わねぇっ! もし姉貴に戻って来て欲しかったら何回も願うんだ! そして探すんだ! 信じ続けていればかならず叶うんだっ!」
 拓馬の瞳には強い意志が込められている。
「拓馬…」
「そうだぞ、晴哉」
 秀悟も優しく晴哉の肩に手をのせる。
「お前の姉貴は死んだわけじゃない。きっと何処かで生きていて、晴哉の元へ帰りたくて仕方ないんだと思う。もしそうなら、一回で諦めるより、何回も信じた方がいいと俺は思うぜ」
「秀悟…」
 晴哉の心は喜びでいっぱいだった。
「ありがとう、二人共。俺はもう少し頑張ってみる。姉ちゃんに会えるその時まで」
 晴哉はベッドから起きあがり、笑顔で拓馬と秀悟に礼を言った。
「気にするなよ、俺達は仲間だろ?」
 秀悟は晴哉の頭をくしゃと撫でる。
「その調子なら願いは絶対叶うと思うぜ」
 秀悟に続き、拓馬も晴哉の肩に腕を回す。
「ああ、ありがとうな!」
 晴哉が笑った事で、拓馬と秀悟は安心した。

 部屋の外では雅実、慎太郎、渉、なお、明日香がいた。
 晴哉の様子を見に来たらしい。
「どうなるかと思ったけど、大丈夫みたいだな」
 三人の笑い声を聞いた渉はホッとしている。
「何だかんだ言ってもあいつはいい奴なのはわかるんだけどな」
 慎太郎も晴哉が元気になった事で安心しているようだ。
「今年の七夕は楽しくやれそうやなぁ〜♪」
 雅実は楽しそうに笹の葉を見つめる。
「そうね、きっと張り切ると思うわ」
 なおも久しぶりに拓馬の笑顔を見る事ができた。
 最近は慎太郎に叱られるわ、ミスしたりわで不機嫌だったのに。
「慎太郎も安心したみたいね。よかったわ」
 明日香が慎太郎へ耳打ちする。
「あ、ああ」
 慎太郎は照れているのか少し顔が赤い。
 外では笹の葉が風に吹かれ、サワサワと音を立てていた。


「!?」
 戦艦島にあるアジトでは女スナイパー・桜井サキが物音に気付く。
「どうしたの?」
 仲間の早田マキがサキに問いかける。
「今の音…聞こえたか?」
「ああ、笹の葉でしょ」
 マキには理解できていたらしい。
 物音の正体に。
「笹の葉?」
「そうよ。ほら、もうすぐ七月だし、七夕だもの。懐かしいなぁ、七夕かぁ」
 懐かしそうに話すマキにサキは外を眺める。
「…マキは七夕は好き?」
「えっ?」
 サキは振り返らずただ話す。
「…久しぶりに、短冊書こうかな?」
 思わぬサキの答えにマキは呆然としていたが、すぐに笑顔になる。
「そうだね、秋也ならきっとOK出してくれると思うよ」
 マキはペンと厚紙を持って来る。
「ほら、書こうよ。ね?」
「あ、うん…」
 サキはペンを握り、ある願いを二つ短冊に書き込んだ。
「どんなお願い書いたの?」
 マキは覗き込むが、サキは一枚を隠し、もう一枚を見せる。
「これなら見ていい」
「いいの? 何々、『すべての大人に勝利できますように』…か。サキらしいお願いだね」
 そう言ってマキは自分の短冊を見せる。
「私はね、『パパとママの無念を晴らせますように』にしたんだ」
「そう…」
 マキが席を外し、マキの短冊と預けた短冊を飾りに行っている間、サキは隠しておいた自分の短冊を見つめる。
『大切な人に会えますように』と、書かれていた。
 サキの大切な人とは勿論…。
「…晴哉…」
 小さい頃から自分の後をついて来たり、自分に甘えていた弟の名を呟いたサキの瞳から涙がこぼれ落ちる。
 この短冊をみんなには見せられない。
 行き場のない自分を受け入れてくれたみんながサキにとって家族だったからだ。
「晴哉…あんたは私に会いたいと願っている? 血で汚れた私に会う事ができる? 晴哉…晴哉ぁっ!」
 短冊を折れないように握りしめ、サキは泣き続け、そして弟の名を呼び続けた。
 サキのいる部屋の外ではリーダーの七原秋也がそっと様子を伺っていた。
「サキ…」
 仲間の様子を見た秋也は自分の短冊を見つめる。
『戦いを早く終え、典子にまた会えますように』
 これが秋也の願いだった…。
「必ずこの戦いを終える。必ず戻り、そして守る」
 そして、短冊をそっとポケットにしまう。
「…典子…」
 秋也は今も遠い国に残してきた恋人の名を呟くのだった。


 そして、七夕。
 外に飾られた笹の葉に生徒達は自分で書いた短冊を飾る。
『バスケットの選手になれますように』とか、『警察官になれますように』(これは皆本清の願い)などが
書かれた短冊が風に揺れる。
 勿論、シュバルツ・カッツやラグビー部のメンバーも短冊を書いて来ていた。
 ちなみに、シュバルツ・カッツの願いは五人共同じだった。
『テロリストがくたばりますように』(笑)
 いかにも彼ららしい願いだった。
 願いというか野望だろうか?
「えっと、どの辺りに飾る?」
 なおは辺りを見回しながら、拓馬達に尋ねる。
「俺はあそこに飾りたいな」
 晴哉は脚立を借り、登る。
 みんなの頭より少し高い位置に一枚ずつ短冊を飾る。
「そういやー、晴哉は何を書いたん?」
 脚立を押さえながら雅実が問いかける。
「三枚書いたんだ。一枚目は『早くすべての戦争が終わりますように』、二枚目は『みんなとずっと仲間でいられますように』、三枚目は…秘密!」
 仲間達と一緒なのだろうか、今日の晴哉はいつもより明るい。
「えー、いいじゃん。教えろよぉ!」
 拓馬が楽しそうに脚立を登り、晴哉の隣に立つ。
「秘密だってば!」
「いいじゃんかよぉ!」
 三枚目を結ぼうとする晴哉の手を掴む拓馬。
「あ、こら! 暴れるんやない!」
 脚立がガタガタと震える。
 さすがの雅実でも押さえきれない。
「「あっ…」」
 足を踏み外した二人はそのまま落下する。
 晴哉は力を込め、落ちる直前に三枚目の短冊を結んだ。
「「うわああああああっ!!」」
 二人はある人への上に落下した。
 ドタアアアアアアアアッ!
「拓馬! 晴哉!」
 秀悟達が慌てて二人の元へ駆け寄る。
「大丈夫か!?」
 秀悟は拓馬を抱き起こす。
「ケガはないか!?」
 慎太郎も晴哉の腕を掴む。
「な、何とか…」
「ケガはないぜ」
 ラグビー部のメンバーは二人が無傷な事にホッとした。
 だが…。
「おい…お前ら」
 志村が慎太郎の肩を叩く。
「?」
 志村だけでなく、城、名波、前園もポカーンと拓馬と晴哉を見つめている。
 正確に言えば、二人の下を見ているのだ。
「シュバルツ・カッツじゃねぇか。どした? あれ…黒澤は?」
 秀悟はメンバーを数えてみるが、肝心のリーダーの黒澤がいない。
「お前らの下だ」
 城が指さすと…。
「あらま…」
 拓馬は顔に青筋を立てながらそっと立ってみる。
「ホントだ…」
 晴哉も顔に青筋を立てながら後ずさる。
 黒澤は拓馬と晴哉の下で倒れて気絶していた。
 つまり、下敷き。
「お前ら〜! わざとやってんのか〜!?」
 前園が拓馬にくってかかる。
「わ、わざとじゃねえ〜!」
 笹の木の前は大騒ぎになったのだった。

 高い所に飾られた晴哉の三枚目の短冊にはこう書かれていた。

『姉ちゃんに会えますように』と…。




             〜完〜





 ―――あとがき

 結樹再び挑戦したバトロワ創作でございます。
 今回は2で桜井姉弟の七夕話にしました〜vv
 だって、晴哉くんやサキちゃん好きなんだもん。(もんって…)
 略してサキはるv(やめんかい)
 ちなみに、これはまだシオリちゃんが転入してきたばかりです。
 だから、シオリちゃんの出番が少ないです。
 シオリちゃんファンの皆様、すみません。
 何かシュバルツ・カッツも出番が少ないかも。
 黒澤くんが哀れ…。(汗)
 ごめんね、滝口くん。
 浮気しちゃいました。(笑)
 槇村慎太郎お兄様、強いっす。(笑い×2)
 慎太郎お兄様の活躍を楽しみにしてたんですがね〜…死んじゃうなんてもったいないです。
 あんなにいい男なのに〜!(アホ)
 2で気に入った主な男子は、晴哉くん、拓馬くん、秀悟くん、城くん、慎太郎お兄様、柴木くんですね。
 女子は、サキちゃん、なおちゃん、シオリちゃん、香菜ちゃん、マキちゃんかな?(よくばり!)
 いいんです!
 こんなに好きなキャラがいればバトロワは愛されているという証です!(お前な)
 後、結樹の母は名波くんがお気に入りのもよう。
 近いうちに、香菜ちゃんの小説も書きたいなと。
 (カップリングは…そうねぇ、晴哉×香菜とか。本編では接点がないですが、結希は好きです)
 または、桜井姉弟のちっこい頃の話とか。
 勿論、1で好きなのは滝口くんと秋也くん達です!
 女子だって典子ちゃんや光子ちゃん達です!
 一見冷めてるサキちゃんですが、心の何処かでは晴哉くんに会いたくて仕方がないと思います。
 晴哉くんの願い事はきっとサキちゃんに関する事だろうと思います。
 ビバ、桜井姉弟! 結樹はこの姉弟が好きです!

                                        結樹汐梨