―――あなたちょっと素敵だった…あたしちょっと嬉しかった…。

 想い人に命を奪われた少年に言う少女。
「忘れないわ…あなたの事…」





                       信じる人



 森の中、一つの銃を手に少女は歩いていた。
 その銃はクラスメート―旗上忠勝から奪ったS&WM19・357マグナムだった。
「これで銃は二つ揃ったわね…」
 少女―相馬光子はデイバックの中のコルトガバメント45口径を見つめる。
「好美には悪いけど…本当に倉元は足手まといなのよ…」
 昨日殺した友人との対話を思い出す光子。
「そう、あたしは奪う側に回る…あたしは正しいのだから…」
 光子は何やら自分に言い聞かせている。
「…何でかしら…? 残りの子達は少ない。みんな倒せばあたしは優勝者となるのに…何故死んだ滝口の事ばかり考えているの…?」
 とりあえず、休憩しようと光子は座るのに相応しい岩を見つけて座る。
「あたしに殺されて悔しいの…? それとも嬉しいの…? 滝口…」
 ぶつぶつ言いながら光子は瞼を閉じる。





 ―――このゲームが始まる前はみんな普通の中学生だった。
 昼休みになると、教室ではみんな喋ったり遊んだりしている。
「こら、秋也! また人の机の上に座って! ダメだってこの間林田先生に注意されただろ?」
 国信慶時は、机の上に座っている親友・七原秋也に注意する。
「あ、悪い悪い!」と、秋也は急いで降りる。
 秋也と慶時がいる方向とは逆の方では三村信史と瀬戸 豊が何やらパソコンについて話をしている。
「それでな、豊。インターネットでは…」
 様々なインターネットの説明をしている信史。
「うんうん! やっぱシンジは凄いやぁ♪」
 豊は小さい体でぴょんぴょん跳ねながら信史の話を楽しそうに聞いている。
「あれ? 慶時、この机誰のだっけ?」
 秋也は自分が座っていた机を見て、慶時に聞き込む。
「もう、秋也ったら…。そこは滝口の席だろ? 後で滝口に謝らないとな秋也」
 慶時はまだ秋也に注意している。

 女子の方では、中川典子や内海幸枝達が楽しそうに話している。
「ねえ、今度のお休みに買い物にでも行かない?」
 その一人・谷沢はるかが、典子達に買い物への誘いをかけている。
「そうだね、修学旅行の準備もあるけど行くわ」
 はるかの誘いに典子は頷きながらOKを出す。
 そんな典子達の会話を見つめ、ボーッと席に座っている光子。
「……なんだけど…光子?」
 矢作好美は、上の空になっている光子に声をかける。
「はっ…好美何?」
「何じゃないよ、今度のお客が光子に会いたいんだって!」
 光子達の会話は典子達の会話とは違い、売春についてだった。
「比呂乃は?」
 仲間の姿が見えないので、光子は好美に尋ねる。
「ああ、比呂乃ならちょっとそこのコンビニまで煙草買いに行ってるよ」
 どうりで、売春仲間の清水比呂乃の姿が見えないと思った。
「じゃあ、薬売の人に薬予約しとくから」
「お願いね、好美」
 そして、好美は光子の携帯電話を借りて、外まで電話をかけに出かけた。

 しばらくたって、男子・滝口優一郎が教室に戻って来た。
「ふう…」
 何やらため息をつきながら席に座る。
「あ、滝口! ちょうどよかった! ごめんな? お前の机に勝手に座ったりして…」
 優一郎の帰還(?)に秋也は両手を合わせて誤っている。
「いいよ、七原くん。気にしないでよ。時々笹川くんや沼井くんも座ってるから…」
 笑顔で許す優一郎に秋也は泣いていた。
 どうやら優一郎の優しさに感動したようだ。
 光子はその様子を見ていた。

 ―――滝口はいつも優しい。
 何があっても全く怒ろうとしない。

 掃除時間になって、みんなは掃除を始めた。
 桐山和雄率いる桐山ファミリーはその場にはいなかったけど。
「チビだな琴弾」と、杉村弘樹が琴弾加代子の手伝いをしている。
 光子達はさすがにはサボる事はできずに掃除をする。
「よいしょ…っと」
 光子は二つのバケツに水をくみ、歩き出すが両手に持っているため、重すぎて思うように歩けない。
「水の量が多すぎたわ…困ったわね…重い…」
 その時。
「あ、あの…相馬さん…持ってあげるよ…」
「えっ?」
 光子の側には優一郎がいた。
「その…重そうだから…」
 そう言って優一郎は片方のバケツを持つ。
「…ありがとう」
 光子は優しく優一郎に礼を言った。
「ううん。誰かの役に立つ事って嬉しいからいいんだよ」と、優一郎は嬉しそうに笑顔で話す。
「どうしてそう思うの?」
 そんな優一郎に問いかける光子。
「えっ? うーん…よくわかんないけど…困ってる人って放っておけないから誰かが助けてあげたりしたら困ってる人は心が落ち着いて元気になれる…そんな気がするんだ」
 優一郎は考え込んでいたが、すぐに答えを話した。
「優しいのね…滝口くんって…」
 光子は優一郎を見つめている。
「そんな…相馬さんの方がずっと優しいよ!」
 優一郎は赤面になりながら慌てる。
「そうかしら?」
「そうだよ! 相馬さん!」
 落ち着いたのか今度は先程よりも明るい笑顔になる優一郎。
「そう? ありがとう」
 光子も笑顔になる。
「えへへ、相馬さんが笑ってくれると僕も嬉しいよ。だって相馬さんの笑顔ってすごく素敵なんだもん!」
「?」
 優一郎の言葉に光子は首を傾げる。
「あ…あれ!? 僕うっかり…」
 今言った事を思い出して、優一郎はまた赤面になってしまった。
「くすくすv」
 それが面白いのか光子は小さく笑う。
「あははっ」
 優一郎もつられて笑ってしまった。


 ―――今まで楽しかったのに…。


「滝口!!…夢?」
 ハッと目を覚ました光子は辺りを見回す。
 そこは元の森の中だった。
「そうよね…今はゲーム中だもの…」
 そう…先程その人を殺して来た。
 ゲーム終了までもう少し。
「あの時…笑顔が素敵だって言ってくれた滝口にありがとうって言えばよかったかな?」
 自分の手を見つめる光子。
 すると、手は濡れていた。
 雨が降ったわけでもなく、支給された水をこぼしたわけでもない。
「これって…泣いているの? 私が…」
 その手が濡れているのは光子の涙が手に落ちたのだ。
「涙…どうして溢れてくるのかしら…」
 こらえようとする光子だが、止まらない。
「何で…どうして溢れてくるの…?」
 光子は一人で泣いた事は小学生の時によくあったが、中学生になった時はあまりない。
「やっぱり…あたしの事を信じてくれたあなたを失ったからなの? ねえ…滝口…」
 しばらく泣いていた光子だったが…。

 ダーンッ!

 近くで銃声が鳴る。
「…この先に誰かいるみたいね」
 涙を拭った光子は立ち上がる。
 そして、コルトガバメントを手に持つ。
「あたしは負けるわけにはいかないわ…だってあたしは正しいもの…」
 そう言っていつもの笑みで光子は銃声が鳴った方向へ歩き始めるのだった。



                         〜完〜





 ―――あとがき

 はい、結希が初めて書いたバトロワ第一弾創作。
 早速難しい光子嬢の小説を書きました。
 滝口×光子は私の好きなカップリングの一つですv
 私は原作の方は呼んだ事ありませんが、滝口くんはオタクだけど優しい男の子だと知って、
 『…好みだな…気に入った…』と思いました。(←危ない!)
 ちなみに、私の好きな男の子キャラは滝口くんと慶時くんと豊くんですv(誰も聞いちゃいないっつの!)
 映画では彼は一言も喋らなかったのが残念です。
 後、好きな女の子キャラはヒロインである典子ちゃんやさくらちゃん、榊ちゃん、光子ちゃんがお気に入りです。
 (だから誰も聞いてないってーの!)
 光子ちゃんの過去を知った時、『彼女は美しく、そして恐いけれど、とても可哀相な子なんだな』と思いました。
もしかしたら、光子ちゃんの運命の人は滝口くんだったのかもしれません。
滝口くんだったらきっと光子ちゃんを幸せにしてくれると信じています。
 この話はゲーム中の時と三年B組が修学旅行に行く少し前の事です。
 掃除時間は絶対桐山ファミリーはいないと確信しましたです。(おい!)
 困っている人を助ける事を書きました。