あなたにプレゼント
一人の少女の部屋。
壁にかけられているカレンダーの『2月14日』は、『バレンタインデー』と記されている。
少女、橋本真恋人はうーんと顔をしかめている。
「うーん…ちゃんと明日あげられるかなぁ?」
真恋人の机には赤い包装紙に包まれた小箱がある。
中身は勿論、チョコレート(買ってきた物)。
「野村くん…受け取ってくれるかなぁ?」
渡す相手は、クラスメートの野村勝史と決めているが…。
「当日に嫌な事が起きたりしたら…困るなぁ」
真恋人は深くため息を付く。
そう、自分自身が持つ運の悪さに悩まされているのだ。
自分が大きな行動に出ると、必ず大変な事になってしまう。
そう思うと、真恋人は更にため息を付いた。
「…明日、葵に相談しようっと」
真恋人は椅子から立つと、ベッドへ横になる。
そして、電気を消して眠りについた。
翌日。
ついにバレンタイン当日となった。
教室にて、真恋人は親友の山本葵に相談しようと話しかける。
「ねえ、葵」
「ん? 何、真恋人?」
真恋人に気付いた葵は振り返る。
「えっと…えっとね、今日はバレンタインでしょ? それで…チョコどうしよう?」
もじもじしながら、真恋人は葵に悩みを話し始める。
「チョコ? 野村くんにあげるんじゃないの?」
葵がきょとんと訊ねると、真恋人はコクンと頷く。
「そうだけど…上手く渡せるか不安なんだ。私」
「あ、あんたねぇ…!」
自分の運の悪さを悩む真恋人に、葵は頭を抱える。
「もっと自信持ちなさいよ。自分が不運だからって逃げてると、渡せないよ?」
「けどぉ…」
元々あっさりした性格の葵の言葉に、真恋人は顔を伏せる。
「本当に…野村くんは受け取ってくれるかな?」
瞳を潤ませながら、葵に問いかける真恋人。
「真恋人…」
葵は、そんな真恋人の肩に優しく手を置いてくれる。
勝気な自分とは違い、真恋人はいつもおどおどしている。
一人になったら、真恋人は心細くなってしまう子だ。
現にこの大東亜共和国には、バトル・ロワイアルという残酷な実験が存在している。
真恋人と葵はその悪夢を噂で聞いたが、特に真恋人はそれを恐れている。
「それにほら、野村くんって格好いいから女の子に人気あるでしょ? だからいっぱいもらうんだと思う。私なんかのチョコを受け取ってくれるかどうか心配で…」
「そっか…真恋人は一生懸命なんだね」
落ち込んでいる真恋人の頭を撫でる葵。
そこで、葵はある事を思いつく。
「ね、放課後に渡してみたら?」
「放課後?」
「そっ! 放課後にね、野村くんを呼び出して渡すのよ」
そう、葵は放課後に渡す事を真恋人に提案した。
「放課後かぁ…そうだね。頑張ってみるよ、葵」
「そうそう! ガンバレ、真恋人!」
真恋人の決心に、ホッとする葵だった。
と、そこへ…。
「何を頑張るんだ?」
クラスメートの南 一が二人に話しかけてくる。
「あ、南くん。う、ううん! 何でもないよ」
「そうか? さっき、野村の事どうこう言ってたけど?」
真恋人は慌てて首を横に振るが、南は気になるらしい。
「女の子同士の話よ!」
席から立った葵は、真恋人を連れて行く。
「ほら、向こうで作戦を練ろう?」
「う、うん…」
南を置いて、葵と真恋人は教室から出ていった。
一人残された南は、ただそれをボーッと見送るだけだった…。
そして放課後になり、生徒達は次々と下校していく。
教室では、野村が帰りの支度をしているところだった。
ドアの側では真恋人と葵が見ている。
真恋人の手にはチョコの入ったプレゼントが握られていた。
「よし、野村くんいるよ。真恋人、行って来い!」
葵はそっと真恋人の背中を押した。
「う、うん…!」
深呼吸した真恋人はスクッと立ち上がる。
「あの、野村く…!」
野村を呼ぼうとした真恋人だが、途中でやめた。
何故なら…。
「野村くん、これどうぞv」
「私のもあげるねv」
真恋人より先に入って来た他の女子達が野村にプレゼントを渡していたのだ。
「俺にくれるの? サンキュ」
野村は笑顔でそれを受け取る。
「野村くん…」
真恋人は何とか名前だけでも呼ぼうとするが、女子達の歓声のせいで野村には声が届いていない。
それでも真恋人はめげずに何とか輪に入ろうとする。
しかし…どうやっても、真恋人が入れるスペースはない。
「………」
自分が渡したら他の子達に悪いと思った真恋人は、そっとその場から離れた。
「あ、ちょっと真恋人!?」
教室を出るのを見つけた葵は真恋人を呼ぶが、聞こえていないのか彼女はそのまま階段を下りて行った。
学校の外にある花壇で、真恋人はそっと座り込んだ。
「はぁ…野村くんに渡せなかったなぁ、チョコ」
ため息をつきながら、自分のチョコを見つめる。
「やっぱ…私って運が悪い。どうして不運な子供として産まれて来ちゃったんだろう…?」
涙を押さえようと真恋人は耐えるが、悔しさがあふれてしまったせいで涙が零れてしまった。
「ううっ…」
プレゼントを握りしめたまま泣き続ける真恋人。
しばらくしてからスッと立ち上がる。
「ぐすっ…帰ってからお母さんと食べようっと…ひっく」
ぐずりながら、真恋人はそっとポケットにチョコをしまう。
そして、そのまま帰ろうとする。
そこへ。
「おーい、橋本!」
側を通りかかった南が声をかけてきた。
「あ、南くん…」
南に気付いた真恋人は涙をこっそり拭った。
「い、今帰りなの?」
「ああ、ちょっと掃除が遅くなってよ。これから帰るんだ。あれ? 橋本…泣いてたのか?」
南は、明るく振る舞う真恋人の目尻に涙の跡が残っているのに気付く。
「う、うん。ちょっと事情があってね…」
気付かれてしまっては仕方がない。
真恋人は南から背を向けて、小石をコンッと蹴る。
「無理には聞かないけど…よっぽど辛かったんだな」
南はそっと真恋人の肩に手をおく。
「ありがとう。南くん…優しいんだね」
そっと振り返った真恋人はふわっと微笑む。
「い、いやぁ…それほどでも///」
南はへへっと照れ笑いしながら、自分の頬を軽く引っ掻く。
それを見た真恋人は、ある事を思いついた。
「あ、そうだ!」
「?」
真恋人はクスッと笑うと、ポケットからチョコが入った包みを取り出す。
南はそれをジーッと見つめる。
「えっとね、これ…受け取ってくれる? 南くん」
頬を淡く染めながら、真恋人はチョコを差し出す。
「えっ? お、俺に…?///」
「うん…///」
南が尋ねると、真恋人はコクンと頷いた。
二人は互いを見つめ合いながら照れている。
そして…。
「本当に…俺がもらっていいのか?」
南は再び真恋人に尋ねる。
「勿論だよ、南くん。受け取ってくれると嬉しいな。私…///」
ドキドキしながら、真恋人は南からの返事を待つ。
「そうか。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうな? 橋本///」
「うん///」
南の優しい返事に、真恋人は嬉しそうに頷いた。
「ありがとうな、橋本/// このチョコ、大事に食べるよ。あ、そうだ!」
「?」
チョコとカバンを持った南はある事を思いついたかのように声を上げる。
真恋人は首を傾げながら南を見つめる。
「その…一緒に帰らないか?」
南は真恋人に一緒に帰ろうと誘ってくれた。
「南くん…/// うん、一緒に帰ろう!///」
元気良く頷いた真恋人は、南と共に歩き出す。
今日も不運かと思えば、幸運に変わった。
真恋人はそれに安心した。
野村には渡せなかったが、元々自分と仲のいい南に渡せたから嬉しかったのだ。
赤い夕日は二人を見守るかのように輝いていた。
〜完〜
おまけ
自宅路へ進んでいる中、南は真恋人を見てある事を思い出した。
「あ、そう言えばさ、橋本」
「ん? なぁに?」
南に話しかけられた真恋人は顔を上げる。
すると、南は真恋人の手を指さし…。
「カバンは?」
南の指さす真恋人の手にはカバンが…なかった。
「あっ…まだ学校だ! 忘れて来ちゃったよぉ〜! ふぇ〜ん…」
真恋人の空しい叫び声が夕焼けの空中に響いた。
そして、学校では…。
「あれ?」
教室にて、真恋人が戻ってくるのを待っていた葵は真恋人の机で何かを見つける。
「これって…カバンだ。まさか真恋人はカバンなしで帰ったんじゃ…!?」
葵の予感は…当たっていたのだった。
あとがき
初です! ブリッツ・ロワイアルのバレンタイン創作です! カップリングは勿論、南×真恋人!
初めてコミックを買って読んだ時、『南くん…何ていいやつなんだ〜!』って感涙してました(笑)
真恋人ちゃんが泣きそうになると、いつも南くんが慰めてくれる…そんなシチュエーションを見て、私は思いました。
『こりゃ公認になるね(ニヤ)』とねv(待て) ちなみに、一巻しか出てないので、続きが早く出て欲しいです。
二巻…真恋人ちゃんや南くん達はどうなってしまうんでしょう?
まぁ、野村くんはどうでもいいんですけどね。←すみません、結希は野村くん嫌いです(あっさり)
ファンの方、すみません(いるのかよ?) 結希は南×真派です(わかったから)
この二人には生き残ってほしいんです…。 バレンタインから話がそれちゃいました(汗)
真恋人ちゃんのチョコ受け取ってくれる人は、そりゃもう南くんしかいないでしょう!(決めつけ)
ブリロワ本編でも真恋人ちゃんに優しくしてくれますしねv あ、でも…ブリロワ本編では葵ちゃんが…(涙)
友情が戻って来ますように…(切願) 南×真恋人はやっぱり大好きです!
結樹汐梨