天より白く降り積もる
 大地や家々の屋根に降り積もった雪。そこは炭坑都市ナルシェ。物資の調達と休息を兼ねて立ち寄った、雪の消えることのない都市……。
 大気すら凍りつくような寒さの中、宿のバルコニーにひとりの青年がたたずんでいた。いまにも雪が降りだしそうな空を仰ぎ見ている。
 と、青年――ロックは、隣の部屋のバルコニーに、誰かが出てくるのを感じた。双眸をそちらに向けると、視線の先にひとりの少女が現れる。少女――ティナは、ロックに気づくと、少々驚いたようであったが、にこりと微笑んでみせた。
「……あの、そっちに、行ってもいい……?」
 少女の問いに、ロックはきょとんとした顔をした。が、それも一瞬のことで、すぐに笑顔になる。
「俺がそっちに行くよ」
 ロックは目で少し後ろに下がるよう指示する。了解したティナは、ひとつ頷いて下がる。それを確認すると、ロックは少女のいるバルコニーへと身軽に飛び移った。音もなく着地すると、少女に微笑みかけ、手すりに背を預けた。少し遅れてティナもそれに倣う。
 少女は何かを言いかけたものの、視線を宙に彷徨わせ、口を閉じてしまう。感情を表にだすことも、口にすることも慣れていないため、なかなか言葉がでてこないのだろう。それがわかっているロックは、急かすことなく待つ。
 ややあってから、ティナは再び口を開いた。
「……星、見えないね……」
「そうだな。ナルシェは年中冬だから、こういう空の方が多いのかもしれない」
 と、灰色の空から白き結晶が舞い落ちてくる。そのうちのひとつを白い掌で受け止め、ティナは不思議そうに見つめた。少女の体温で、雪はみるみる溶けていく。わずかに目を見開く彼女に、青年は口元をほころばせた。
 沈黙が訪れる。二人は暫し黙って雪を見つめた。
「――雪って、いいよな」
 次々と降ってくる雪片を見上げ、ロックはぽつりと呟いた。ティナは小首を傾げて青年の若々しい横顔を見やる。
「……ちょっと冷たいし、寒いけれど……真っ白で、綺麗だよね――」
「……きれい……?」
 よく理解できないのか、少女はますます首を傾げた。
 ロックはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「だからって、年中冬はいただけないけどね」
 白い結晶が何もかも覆わんと、天空より降ってくる。それらを見やる青年の双眸にちらつく、悲しげな光――。ティナにはその理由はわからない。わからないが……。
「……きれいだね……」
 ゆっくりと紡がれた言葉に、ロックはティナの顔を瞳に映す。やわらかく微笑する少女に、ロックは青空を思わせるような、彼特有の笑みで応えるのであった。


 ……雪が降る。
 白い白い結晶が降ってくる。
 見るものの心を、慰めるかのように、天より白く降り積もる――。



                       ―Fin―



  <あとがき>

 ・初のFF6創作です。FF6は、風見野が初めてプレイしたFFシリーズなのです。
  当初ロックとティナがくっつくと信じて疑いませんでした(^−^;) でも実際は――。
  風見野的には、ロックとティナという組み合わせの方が好きなんですけどね。
  初めてということもあって、よくわからない話となりました。すみません。
  また、イメージを壊された方も重ねてすみません。もっと勉強します;


                            2002.3.19   風見野 里久