手がとどく空
少女は空を見上げていた。
踏みしめる大地の感触が、奇妙な安堵感を少女にもたらしてくる。空は抜けるように青く、そして高い。「青」という言い方は、本当は正しくないのかもしれない。見つめるほどに、淡く濃く、不思議な色合いをおびてくるのだから。
他の仲間たちは物資の調達やら息抜きやらで、街に繰り出している。が、翡翠の髪を持つ少女は特に用もなかったので、飛空艇から降りはしたものの、こうしてひとり空を見上げているのだ。
「ティナ」
呼びかけに振り返れば、ひとりの青年が自分に微笑みかけている。
「……ロック、街に行ったんじゃなかったの?」
問いかけに、青年――ロックは曖昧な笑みで応えると、ティナの横に並んで立った。頭上から降り注がれてくる光を、気持ちよさそうに浴びる。
ティナは少しの間、不思議そうにロックを見つめていたが、再び視線を天空へと上げた。
「……高いね……空。手がとどかない……」
双眸を空色に染めた少女の口から洩れたのは、そんな呟きだった。無意識のうちに、手が空に向けて伸ばされる。もしこの手がとどいたら、一体どんな感じがするのだろうか。あたたかいのだろうか。それとも冷たいのだろうか。わかるのはひとつだけだ。空はいつも傍にいて、自分を見守ってくれているということ。
ロックの口元に微笑がたたえられる。
「一生かかっても、俺たちの手が、この空にとどくことはないだろうし、触れることもできないだろうね。でも――」
「でも……?」
ティナが小首を傾げる。
ロックは軽く笑ってみせると、、空に向けて伸ばされているティナの手を、自身の手でそっと包んだ。少女は驚いたように軽く瞳を見開く。
「でも、こうして、手がとどいて、触れることのできるものも、ちゃんとあるよ」
まるで子供のように、どこかいたずらっぽくロックは言った。
目の高さまで下ろされてきた自分と青年の手を、少女はじっと見つめた。陽の光とはまた違ったあたたかさが、自分の手を包み込んでいる。
「それじゃあ……」
「ん?」
ティナの瞳が、真っ直ぐにロックを見つめる。
「それじゃあ、ロックは……空なのね、私の……」
いつも傍にいて、見守ってくれているのだから――。
ふわりと微笑んで紡がれた言葉に、ロックの若々しい顔は、驚きと照れに彩られた。上気しているであろう頬を、空いている方の手で掻く。そんな彼の様子が、少々理解できないのか、ティナは首を傾げた。
少しの間視線を彷徨わせると、ロックは翡翠の髪を持つ少女にそれを戻した。
「――ありがとう、ティナ。俺の空は――ティナだよ」
ティナはロックの言葉を、自身の中に染み込ませた。そして、それに対して、何と言えば、自分の気持ちを伝えられるか、一生懸命考える。悩んだ末に、ロックが自分に言ってくれた言葉を返すことにした。いまの自分の、精一杯の気持ちを込めて。
「……ありがとう……」
ロックは照れを忘れ、笑ってみせた。
それに応えて、ティナもやわらかな微笑を口元に刻む。
目の前に、空の青さが広がったような気がした。
――空に手がとどいたよ。
――Fin――
<あとがき>
・またもやってしまいました、FF6創作第二弾です。しかもまたもロックとティナ;
すみません、好きなんです、この二人(^−^;)イメージが壊れていないか、とても心配ですけれど;
自分でも思うことなのですが、もっとわかりやすい話を書ければいいんですけど、どうもうまくいきません(ーー;)FF6創作は思いつきで書いているので、第何弾まで続くかいまのところ風見野自身にもわかっておりません。ですが、もしよろしければ、これからもお付き合い下さると、嬉しいです。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
2002.10.13 風見野 里久
