遠くから『声』が聴こえたような気がして、空を見上げる。
――今日も、あの青い空は。
『あの世界』と『この世界』を隔てて、広がっている――。
約束の空
授業が終わった青春学園中等部の生徒達は、各々帰るなり、部活へ向かうなりと散らばってゆく。
名門と謳われるほどの活躍を見せるテニス部員達は、いつものようにコートに集まってきていた。
「……あれ?」
部活が始まって少しした刻、青学男子テニス部の二の姫と言われるマネージャー、は顔をしかめて胸を押さえる。
何だか頭痛がして、胸が痛んだような気がしたのだ。
「どうしたの? 」
彼女の親友であり、同じマネージャーである一の姫・は、そんなに気づいて訊ねる。
「ううん、何でもない。大丈夫だよ」
に笑顔を向けて、はぱたぱたと手を振って見せた。
(多分、寝不足なんだろうな……)
睡眠時間が足りないと、たまにこうゆうことがあった。
けれど、やらなければならないことはたくさんある。
今日は早めに寝なきゃ、と思いながら、はと共に、練習が一区切りした部員へタオルを配りに行った。
「お疲れ様です、部長」
「ああ、すまない」
まずは部長の手塚へ、は副部長の大石へタオルを渡す。
「どうぞ、大石先輩」
「ありがとう、ちゃん」
タオルを受け取りながら、大石はふと何かに気づいたような顔をする。
「ちゃん、顔色があんまりよくないみたいだけど……大丈夫かい?」
「え? あ、はい、平気です」
は内心ドキッとしたが、何事もないように笑顔を浮かべた。
「ならいいけど、無理したら駄目からね。具合が悪くなったら、ちゃんと言うんだよ」
「はい、大石先輩。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、は次の部員の元へ向かった。
(あ〜、びっくりした。大石先輩って、相変わらず鋭くて……優しいな)
テニスの試合においてもそうであるように、大石は普段の生活でも冷静で視野が広く、気配りが上手い。
は、大石がこのテニス部の副部長にすごく相応しいと思うし、尊敬もしている。
同時に彼に心配かけないよう気をつけなければ、とも思った。
「はい、桃くん」
「お、サンキュー! !」
からタオルを渡された桃城は、この上なく嬉しそうな笑顔で礼を言う。
その真意を知っているは、そんな彼が微笑ましくて、くすっと笑った。
(あとは、ちゃんが少しでも気づいてくれるといいね、桃くん)
胸中で桃城にそう語りかけながら、自分もクラスメートにタオルを渡しに行く。
「海堂くん、タオル……――っ!」
と、彼の元へ駆け寄った瞬間、めまいと胸の痛みがを襲った。
「おいっ……!?」
タオルを渡しに来たかと思ったら、ふらぁっと倒れ込んできたを、海堂は咄嗟に支えた。
「あ……ごめんね、海堂くん」
ゆっくりと身を起こしながら、は海堂にすまなさそうな笑みを見せる。
「ちゃん! 大丈夫かい!?」
血相を変えて、大石が駆け寄ってきた。
が軽く胸を押さえているのを見て、その表情が青ざめてしまう。
「まさか、心臓が…!?」
「い、いえ、ちょっと寝不足なだけですから……もう治りましたし、これぐらい、大丈夫です」
は「お騒がせしてすみません」と、何とか笑って取り繕った。
すると、大石の表情がきっと真剣なものになる。
「無理したら駄目だって言ったじゃないか!」
突然、強い大きな声で言われ、はびくっとして目をつぶる。
二人のそばに居た海堂を始め、テニスコートにいた部員のほとんどが驚いた。
「とにかく、保健室へ行かなくちゃ駄目だ」
これ以上無理させるわけにはいかない、と思った大石は、の身体を抱き上げる。
「お、大石先輩…っ!?」
驚いて慌てるに気づく様子もなく、大石は部長である手塚の方を向く。
「手塚! 悪いけど、俺、ちょっと抜けるよ」
手塚から「ああ」という了承の声を得て、大石はを抱えたまま、保健室へと駆け出した。
「めっずらし〜。大石があんな大声出すなんて。しかもちゃん相手に」
黄金ペアとして彼と組んでいる菊丸は、あまり見たことのない様子の相方の背を、珍しげに見送りながら言う。
「それほど、大事なんだろうね。ちゃんが」
クラスメートである不二の言葉に、菊丸は「そだね、きっと」と頷いた。
部活が終了しても、大石とは保健室から帰って来なかった。
心配になって様子を見に行くの後を、桃城と菊丸がついて行く。
は二回ほどノックした保健室のドアを、「失礼します」と言いながら開ける。
彼女の後に桃城と菊丸が続いて入ると、養護教員の姿は見当たらなかった。
「大石先輩? 、大丈夫ですか?」
が、が横になっているベッドのそばの椅子に腰掛けている大石に問う。
「ああ、よっぽど疲れてたみたいで、横になったらすぐに寝ちゃったけど……。そのまま何事も無いから、多分大丈夫だと思うよ」
大石が振り返って穏やかに答えると、はホッと安堵の吐息をついた。
桃城は周りを見回しながら、「保健室の先生、居ないんすか?」と問いかける。
「来た刻は居たんだけどね。急用が入ったらしくて、今日はもう帰っちゃったんだ。それで、このままちゃんをひとりにして行けなくて」
「なるほどね。部活が終わっても帰って来ないから、ちょっと心配したにゃ」
心配かけた上、自分が居なくて練習にならなかったのではと思った大石は、「あ、悪いな、英二」と相方に謝る。
「ヘーキヘーキ。あのあとは一人一人の練習だったし、気にすることないって!」
真面目な相方に、菊丸は明るく笑って応えた。
「それにしても、さっきの大石さ。ちゃんに対しての剣幕、すごかったね」
菊丸が続けてそう言うと、桃城も「珍しいっすよね」と同意するように頷く。
「あとでちゃんが起きたら、謝らなきゃいけないな。悪いことしたよ」
苦笑しながら、大石は眠っているの方へ視線を向けた。
「でも、をすごく心配してのことでしょう? だって、きっと解ってますよ」
フォローするようなの言葉に、大石は「ありがとう、ちゃん」と礼を返す。
「けどさ、ちゃんの病気ってもう治ってるんだろ? まだ何かあるの?」
不思議そうな中に、どこか心配そうな顔で、菊丸が訊ねた。
大石は少し沈黙すると、振り返らせていた身体をの方へ戻す。
そして「俺も、詳しく聞いたわけじゃないけど」と前置きをして、両手のひらを組んだ。
「……完治はしたそうだ。でも、再発の恐れが無いわけじゃないらしくて……それは、何が原因で起こるか、判らないそうなんだ」
大石の真剣な声で紡がれた言葉に、桃城と菊丸は息を呑み、は表情を厳しくする。
「勿論、再発するって決まったわけじゃない。このまま何事もなく生活していけるはずなんだ。でも……ちゃんの家には、お母さんが居ない」
菊丸は「え? ホントに!?」と驚いた。
「ああ。お父さんは仕事でほとんど帰れないみたいだし、双子の兄さんの夜凪くんは、少し遠い学校で……色々大変みたいだし。弟の波輝くんはまだ小学四年生だ。そんな中で、うちのマネージャーなんて……絶対、大変なはずなんだよ」
少し辛そうな大石の表情。
彼もその場に居る三人も、ベッドで眠る黒髪の少女を瞳に映した。
「それでもは……テニスが好きだから。自分は出来ないけど、せめてテニスをする人の手助けがしたいんですよね」
静かなの言葉に、大石は大きく頷く。
「ああ、そうなんだ。うちのマネージャーをするのが楽しいって、そう言ってくれるから……無理させないように俺が気をつけていようって、思ってたんだ」
大石がそう言うと、桃城と菊丸、そしても納得したようだった。
「それに……さっき『大丈夫です』って言ったちゃんの顔を見てたら、思い出しちゃってな」
軽く苦笑するような大石に、菊丸は「思い出した…って、何を?」と首を傾げる。
「ちゃんが心臓の手術を受ける前の……子供の頃の『忘れられない思い出』、とでも言うのかな」
大石は、懐かしそうに言って深緑の瞳を閉じた。
ふたりが初めて出逢ったのは、大石が六歳、が五歳の時だった。
大石がちょっとした怪我をして、おじの病院へ行った時、そこに心臓を悪くしたが通院していて――そこで、出逢った。
初めは、引っ込み思案で人見知りしやすいの、唯一の遊び友達のような存在だった。
他の子と馴染めず、いつもひとりでぽつんとしているが放っとけなくて、大石は病気も怪我もしていないのに何度か病院に足を運んだりしていた。
たまに兄弟である夜凪、波輝も一緒に来た時は、揃って遊んだこともあった。
「でもそれから二年くらい、会えなくなったんだ。その間に、ちゃん達のお母さんが心臓病で亡くなってたんだって知ったのは、俺が八歳になった時……ちゃんの心臓病が悪化して、おじさんの病院に入院してきた時だった」
「え? ちゃんのお母さん、心臓病で……!?」
菊丸がそう訊くと、大石は重々しく頷いた。
「ああ。ちゃんの病気は、どうやら遺伝性らしかったんだ。だから、危なかった」
――母親と同じ運命を辿る前に。
は、手術を受けることになった。
それを聞いた幼い大石――秀一郎は、の元へ飛んで行った。
きっと、怖がって、不安に包まれているだろうと思ったから。
けれど、秀一郎が病院に来てみると、はにっこりとした笑顔で彼を迎えた。
「秀おにいちゃん、こんにちは」
「…ちゃん……? 大丈夫なの…?」
かなりひどくなっていると聞いたのに、中庭へ出てきていたを見て、秀一郎はぽかんとしてしまう。
「はい。今日はお天気もいいし、の調子もいいんです」
そう言ってにこにこと笑うに、一瞬つられそうになったが、振り払って真剣に、ここへ来た理由を口にした。
「ちゃん、今度手術するって聞いたんだけど……! それで、ぼく……!」
その先を紡げずにいる秀一郎を、大きな琥珀の瞳で見つめたは、また笑顔になる。
「それで、心配して来てくれたの…? ありがとう」
のその笑顔が、秀一郎には春の日だまりのように思えた。
「でも、大丈夫です。わたし、こわくないです」
予想外の彼女の言葉に、秀一郎は「え?」と驚く。
「だって、もし手術が失敗しても……」
は、白い雲が流れる空の、遙か遠くを見上げて。
「あの空の向こうのおかあさんに、会いに行けるから」
陽射しに目を細めながら、紡いだ。
「なっ……!? そんなのダメだよ!!」
一瞬言葉を失った秀一郎は、気がついたら大声を出していた。
「え……?」
は、驚いて空から秀一郎に視線をおろす。
「そんなこと、言っちゃダメだよ……! ちゃんのお母さんだって、きっとそう言うよ。ちゃんに生きてほしいから」
秀一郎は、真っ直ぐにを見て言う。
彼の言葉とその真剣さに、は「あ……」と言って見つめ返す。
「だから、がんばって、ちゃん。希望を持って」
の細い小さな手を、力づけるように握る。
「君が生きるのは、あの空の上じゃない。この空の下だよ」
にその言葉を贈った秀一郎の瞳も声も、限りなく優しいものだった。
――今までの琥珀色の瞳は、綺麗だが光が無かった。
けれど今、そこに光がよみがえる。
ぽろぽろと雫が零れ出し、小さな嗚咽が漏れてくる。
「っく……秀……おにいちゃん……」
今まで無理していただけだった。
本当は――泣きたかった。
怖くて、不安で、生きられるか判らなくて、泣きたかった。
「秀おにいちゃぁん……!!」
は胸の奥に閉まっていた思いを、全部零すように、泣き出す。
「大丈夫。一緒に、生きよう――」
秀一郎は穏やかな声で言い、泣きじゃくるの頭を優しく撫でた――。
「まぁ、彼女がそれを憶えているか、判らないけどな。俺には、忘れられないんだ」
やがて大石は、深緑の双眸を開いた。
――あの空の向こうのおかあさんに、会いに行けるから――。
そう言って微笑むが、まるで天使のようで。
今にも、空へ行ってしまいそうな気がした。
「……大丈夫ですよ、大石先輩」
暫しの沈黙の後、が微笑んだ。
「そんなに大事な思い出なら、だって、絶対に憶えてますよ」
にっこりと笑って言ってくれたに、大石は「そうかな」と言いつつ、嬉しそうな笑顔を返した。
と、急に菊丸がにーっと笑い出す。
「ところで、大石! 最後の『一緒に、生きよう』って、早々と将来の約束までしちゃったってわけ!?」
「えっ? なっ、何言ってるんだ!? 一緒にっていうのは、別にふたりでって意味では、いや、あるんだけど、いや、そうじゃなくてっ!!」
焦って赤面してしまった大石は、上手く説明できなくて困惑する。
そんな彼の様子に、菊丸は勿論、桃城もも笑いが込み上げてきた。
「大石先輩、静かに静かに」
必死に笑いを堪えながら桃城が言うと、大石は「あっ…!!」と言って慌てて口を押さえる。
「え、英二っ…!!」
からかってきた相方を窘めようとしても、決まりが悪い。
菊丸は、可笑しすぎて涙まで浮かべていた。
「じゃ、大石先輩。そろそろ下校時間ですから、の荷物持ってきますね」
さすがに大石が可哀想に思えたは、助け船のつもりで言う。
「あ、あぁ、頼むよ。ちゃん」
大石は半ばホッとして頷いた。
保健室を出て行こうとする菊丸と桃城は、まだ笑いが止まらないようだ。
と、最初に桃城が開いたままの扉口から出た刻。
「ん……!?」
保健室を出て少し歩いた廊下の角を、誰かが曲がって行ったような気がした。
しかもそれは――。
「どうしたんだよ? 桃?」
次に出てきた菊丸が、立ち尽くしている桃城に問いかける。
「いや、今なんかそこに、マムシが居たような……」
「え? 海堂??」
菊丸は目を丸くして、角の所まで走っていく。
そして周りをきょろきょろと見回すが、彼の自慢の目は人影を捉えなかった。
「誰も居ないよー? 見間違いじゃないの?」
「そうっすか……そうだよな、あのマムシが、こんな所に来るわけねぇよな」
考え直して一人納得した桃城は、そのまま歩き出す。
も彼の後に続くが、彼女だけは、何か物思うような顔をしていた。
「まったく……」
誰も居ないのに咳払いをして、大石は火照った頬や、速まった動悸を落ち着かせようとした。
「――……秀……おにいちゃん……」
と、その刻、の小さな声が聴こえた。
大石は「えっ…!?」と驚いて、に視線を向ける。
すると、がゆっくりと琥珀色の双眸を開けた。
「……大石…先輩……?」
目覚めたの瞳に、心配そうな大石の顔が映る。
「大丈夫かい? ちゃん、気分は?」
「あ……はい、大丈夫です」
がそう答えると、大石は「そうか、よかった」と言って安堵の笑みを浮かべた。
が、瞬時に申し訳なさそうな表情に変わる。
「えっと、ちゃん……さっきはごめん。怒鳴ったりして」
は二回ほど瞬きをするが、すぐに微笑んだ。
「いいえ…。無理した私がいけなかったんです。先輩は、私のことを心配して下さったんですから。私の方こそ、ごめんなさい」
その微笑みを見た大石は、もう一度安堵の笑みと吐息を零した。
は「でも……」と言いながら、ゆっくりとベッドから身を起こす。
「大丈夫です、大石先輩」
「え?」
「先輩が、私を励まして下さったこと……私が生きるのは『この空の下だ』って、『一緒に生きよう』って、言って下さったこと……憶えてます」
「えっ…!? ちゃん…っ!?」
大石は驚いて深緑の瞳を見開く。
「だから、大丈夫です」
ふわりとは微笑んだ。
――さっきの話を聞いていたわけではない。
にとっても、あれは『忘れられない思い出』だった。
大石は、何とも言えないような表情をする。
嬉しくて、胸が軋んで。
上半身を起こしただけのを、そっと抱きしめた。
「お、大石せんぱ……!?」
大石のレギュラージャージの腕の中におさまってしまったの頬が、朱に染まる。
「……ありがとう、ちゃん」
目を閉じて、感謝の言葉を紡ぐ。
憶えていてくれたことが、大石は本当に嬉しかった。
「でも、もうあんまり心配させないでくれよ」
微かに笑って、大石は優しい声と腕でを包み込んだ。
「は、はい……あ、あの、大石先輩……?」
こくんと小さく頷いたは、おずおずと彼の名を呼ぶ。
「え? あっ……!?」
大石がふと目を開けてを見てみると、彼女は頬を真っ赤にしていて。
初めて自分がを抱きしめていることに気づいた。
「ご、ごめん!」
大石も頬を紅くして、慌ててを解放する。
は「いえ…」と言いながら俯いた。
「あ、えっと、もうすぐちゃんが、ちゃんの荷物とか持ってきてくれるから」
照れくさい状況をどうにかしようと、大石は話題を転換する。
は「え?」と顔を上げた。
「送っていくよ。俺も着替えてくるから、ちゃんとここで待っててね」
「え? あ、もうこんな時間……!?」
すっかり下校時間を示す時計を見たは、琥珀の瞳を瞬かせる。
「じゃぁね」
笑顔を残して保健室を出て行こうとした大石を、はハッとして呼び止める。
「あの、大石先輩!」
大石は「ん?」と、振り返った。
「あの……ずっと、居て下さったんですか……?」
手のひらをきゅっと握って、問いかける。
「あぁ、うん」
大石は何でもないことのように頷いた。
「す、すみません…! それと……ありがとう、ございました」
心底恐縮そうに、はぺこりと頭を下げる。
「いいんだよ、そんなこと気にしなくても。うちの部にとっても、俺にとっても、君は大事な子だから」
大石から返ってきた優しい声に、は「え…?」と驚いた顔を上げる。
「じゃぁ、ちょっと待っててね」
極力笑顔を保って、大石は保健室を出て行った。
静かにドアを閉めて、けれどすぐに歩き出すでもなく、壁に身を寄りかからせる。
「……参ったな」
片手で顔を覆うようにして、呟く。
溜め息を一つ零すと、大石は壁から身を離して、廊下を歩き始めた。
保健室に残されたは、ベッドの上で複雑そうな顔をしていた。
「大石…先輩……」
ぽつりと彼の名を零す。
――今まで、頭を撫でてもらったり、手をつないでもらったことはあった。
けれど、あんな風に抱きしめられたのは初めてで。
の頬が再びかぁっと染まる。
鼓動が全然凪いでくれない。
深呼吸を一つして、はベッドから降りる。
窓のそばへ行き、それを開けて、青く広がる空を見上げた。
――君が生きるのは、あの空の上じゃない。この空の下だよ――。
今でもあの優しい声が耳によみがえる。
「秀お兄ちゃん……」
の口から、自然とその名が零れた。
同時に琥珀の瞳が、ゆっくりと潤み始める。
「あれ……? どうしよう……」
胸の中に生まれた想いが解らない。
嬉しいのに、よく解らない。
どうして涙が込み上げてくるのかさえ、解らなくて。
は、綺麗に晴れ渡った青空が、琥珀の瞳と胸に染みていくのを感じた。
――あの刻、確かに『約束』したから。
限りなく青く、果てしなく広い空の下で、一緒に生きていくと。
きっとあの空へ続いていくような、遠い『約束』――。
end.
《あとがき》
大石くん&二の姫ドリーム……様の過去を織りまぜたお話でした;
本来、終わり方を大石くんと海堂くんの分岐にしようと思っていたのですが、
何故か話が進む内に、海堂くんの入る隙が無くなってしまいました(汗)
なので、それはまたの機会にしたいと思います; ごめんなさい(><;)
今回はこんな感じ……大石くんとの『思い出』ということでしたが、如何でしょう?
きっと大石くんって、昔から優しかったんだと思うんですよねv(笑)
小さい頃から、様にとって『心の支え』だったのでは、と思います。
水帆も優しい大石くんが大好きですv 元々こうゆう補佐する立場の、『二番目』に
居る人って好きなんですよねv 大石くんはもろにそれ!って感じです(笑)
おかげで色々と盛り上がってしまいました(笑)
盛り上がりついでに、もういくつか書いていきたいと思います〜♪
written by 羽柴水帆
