君に贈る言葉





 ある日の午後の事だった。

「アーサー、何処まで行くんだ?」

 小鳥が囀る森の中、久磁耕平が目の前を歩いている『戦友』に問いかけた。

 とても小さな『戦友』に――。

「もうすぐだよ、耕平くん」

『戦友』――レーザー・アーサーは『もうすぐだ』としか言わなかった。

 一体、何処まで行くのだろう――。

「なぁ、アーサー。本当に何処へ――」

「もうついたよ」

 耕平がもう一度訊ねようとすると、アーサーの歩調が止まった。

 森を抜けた先には、太陽の光に照らされている野道だった。

「あ、ここは――」

 耕平は、この場所に見覚えがあった――。

 振り返ると同時に、アーサーが微笑んだ。

「耕平くん、憶えているかな? ここは――私と君が初めて出会った場所だ」

 二人がたどり着いた場所、そこは御倉山だった。

「そっか――そうだったな。ああ、よく憶えてるよ」

 頷いた耕平が、スゥっと息を吸った。

 穏やかな風。

 澄んだ青空。

 懐かしい――何もかも。 

 ここ最近、レッドジウムの研究で多忙だった耕平にとって、この山へ足を運ぶのは久しぶりだった。

「ここから――俺や君達の戦いが始まったんだよな。あの日から――」

「ああ、そうさ。ところで、耕平くん」

「ん?」

 思い出に振り返っている耕平に、今度はアーサーから話しかけた。

「今日は何の日か、わかるかな?」

「今日――か? 確か――あっ」

 アーサーの問いに、耕平は一瞬だけ考え込んだ。

 だが、すぐに思い出した。

「今日は――俺達が出会った日か!」

「そう。君達と出会ってから――15年目のね」

 15年前、まだ小学生だった耕平と弟の祐太、友人の水沢麻美の3人は、この御倉山でアーサーと出会った。

 もう――あれから15年も経っていたのか。

 まだ、アーサー達と別れてから少ししか時が過ぎていない気がする。

 自分は大人になったけど、あの時の出来事が昨日のように思える。

 耕平はそう感じた。

「アーサー」

「ん?」

 耕平はそっと、アーサーを自分の手のひらに乗せた。

 そして――伝えた。

「俺達と――出会ってくれて、ありがとう」

 15年もの間、心に留めておいた『ありがとう』という言葉を――漸く伝えられた。

 そんな耕平に、アーサーは微笑んだ。

「私の方こそ――私達ミクロマンを信じてくれて、ありがとう」

 彼もまた、心に留めていた感謝の言葉を伝えた。

「本当はウォルト達にも言いたかったけど――今はみんな、宇宙にいるんだよな」

「ああ――」

 耕平が空を見上げると、アーサーも一緒になって顔を上げた。

 今頃、戦友達はどうしているのだろう。

 無事でいるのだろうか――と、アーサーは心配でたまらないようだ。

 大丈夫だとわかっていても、やはり不安なのだ。

 そんな彼を元気づけるかのように、耕平は笑顔で言った。

「大丈夫。俺達からみんなへのこの言葉は、きっと伝わっているから――」

 その微笑みは、15年前と全く変わっていなかった。

 耕平の笑顔は、最初に出会った時から今に至るまで、アーサーを支えてきた。

 いつも助けられていた。

 その太陽のような笑みを見る度に、『大丈夫だ』と自分に言い聞かせる事ができた。

 だから――『ありがとう』の言葉は、きっと宇宙で頑張っている仲間達に届いているに違いない。

「――ああ。みんなは、この言葉をきっと受け止めていてくれている。私もそう信じている。耕平くんと一緒に、これからも信じ続ける――」

 そう言ってアーサーは、自分の手のひらを空に向けた。

 ありがとう。

 出会ってくれて、ありがとう。

 信じてくれて、ありがとう。

 本当にありがとう。

 遠く離れていても、この言葉が君達に伝わっていますように――。



                 完





あとがき

すごい久々の小説です;←ホントだね
時空界5周年記念小説ですが、今回はミクロマンで、しかも初のコミック版で挑戦してみました!
普段はアニメ版の方で書いていたので、初のコミック版はちょっと難しかったです;
ストーリーの時期は、レッドパワーズ最終章でエジソン達が宇宙へ行ってしまった後という設定です。
(シャイニングエジソン&ロケットーベースに付属のコミック参照)
15年後の耕平くんとアーサーが、初めて出会った場所へ行ったりすると、このような会話をするんじゃ
ないかなと思い、書いてみました。
先程も書きましたが、コミック版はちょっと難しかったです;
初めてだったけど…でも、書いてて楽しかったです!
このような駄文ですが、楽しんでいただければ幸いです♪

                                             結樹汐梨