七王子市内の高速道路を、小さな赤いバイク――ギャラクホッパーが駆けてゆく。
それを走らせているのは当然持ち主であるミクロマンの好青年、アーサーだ。
アーサーは後ろにもうひとり、新たな仲間として加わったミクロレディを乗せていた。
今日もまた地球を狙うアクロイヤーとの戦闘を終えて、元は人間である彼女――を家まで送っていくところだ。
「もう日が暮れるな……すまない、。こんな時間までつき合わせてしまって」
西の空へ落ちていく陽を横目で見ながら、アーサーは後ろのに謝る。
「ううん、大丈夫だから気にしないで」
彼の背にしっかりと掴まるは、本当に気にしている様子もなく言った。
「…ありがとう」
アーサーは微かに微笑んで――しかし、どこかすまなさそうな色を残していた。
本当は『遅くなってしまった』ことだけではなく、『アクロイヤーとの戦いに巻き込んでしまった』ことをも、謝りたかったのだ。
それはが決めた、自身の意志でもあるが――。
彼女もまた、この星に生きる『』という、ひとりの少女。
アーサーが守ると決めた『地球』の人なのに。
「わぁ…見て、アーサー! すごく綺麗…!」
「――え?」
考え込んでいたアーサーの耳に、嬉しそうなの声が届く。
言われるがまま大地色の双眸を横へ向けてみると、
夕焼け色に染まる空と、夕映えに輝く海が広がっていた。
アーサーは「本当だな…」と呟いて、無意識にギャラクホッパーを止める。
幾つもの車が後ろの道路を走り去って行く中、アーサーとはオレンジ色の空と海を一心に見つめた。
は「ね? 綺麗でしょ?」と言おうと思い、顔を上げる。
「……!」
しかし、は言葉も忘れて栗色の瞳を大きく見開いた。
――夕陽に映えた、凛々しい横顔。
潮風に靡く、紺青色の髪。
水平線の彼方へまっすぐに向けられている、遙かな大地色の瞳。
そのすべてがの瞳と心を占めて、離れない。
胸の奥の鼓動が小さく高鳴った。
「――私は…」
落日の空へ視線を向けたまま、アーサーは言葉を零す。
彼の横顔に見惚れていたは「えっ…!?」と我に返った。
「こんな風景を見る度、この星を守ろうという思いを、決意を新たにしてきた。だが……」
水平線を見据えていた双眸が、急にを映したかと思うと、
「――すまない、」
アーサーは端正な顔を翳らせて、またに謝りの言葉を紡いだ。
「えっ? な、何で? どうして謝るの?」
アーサーの話の意図が全然解らないは、すごく焦ってしまう。
「君もこの星の人間……私が守りたいと決めたものなのに、そんな君をアクロイヤーとの戦いに巻き込んでしまった…! 本当にすまない、…!」
アーサーがそこまで思い詰めているのには、理由があった。
ひとつは、かつてアクロイヤーの手によって壊滅的な危機を負わされた時、地球の少女であるに救われたこと。
そしてもうひとつは、先程の戦闘でのことだ。
相手は、密かに三バカと呼ばれる内の一人、コブラージと数人のアクロ兵のみだったので、アーサーとだけで事足りたのだが――戦闘終了に近づいた際に、コブラージの攻撃がを襲った。
咄嗟のことでも避けられず、危機一髪のところでアーサーが彼女の前に身を滑り込ませ、彼が受けることで防ぐことが出来た。
――直後にコブラージがアーサーのマグネブラスターに吹っ飛ばされたのは言うまでもない。
「アーサー…!」
は驚いたように栗色の瞳を瞬きさせていたが、きゅっと表情を締めた。
「アーサーが謝ることなんてないよ…! だって、アクロイヤーと戦うのは私が自分で決めたことだし、それに――アーサー、いつも助けてくれるじゃない。いつも、自分のことそっちのけで…!」
の言葉に、今度はアーサーが「え?」と驚く。
「今日の戦いでだって、謝らなきゃいけないのは、私の方よ」
アーサーは「いや、君を守るのは当然のことだから…」と言いかけるが、
「ううん…私に限ったことじゃないの。アーサー、いつも無茶ばっかりしてる」
そう言ったの瞳は、微かな悲しみの色をたたえていた。
――彼らの戦闘に、実際加わってみて。
今までの戦闘を共にこなしてきた彼の仲間から話を聞いて。
アーサーが、幾度も自分の身を省みずに地球を救ってきたのを知った。
「アーサーの勇気と正義感は、とっても素晴らしいものだと思う。ずっと失くさないでいてほしいとも思うよ。でもね……仕方ない時もあるのかもしれないけど、やっぱり、無茶しないでほしいの。何でもかんでも、ひとりで背負おうとしないで」
「…」
「ご、ごめんなさいっ、勝手なこと言って…! でもね、アーサーはひとりじゃないんだもの。みんなも私も居るんだから、ひとりで責任感じないで。ね? 私なら、大丈夫だから!」
の嘘偽りない想い。
それを理解したアーサーは、凛々しい面立ちを和らげて。
「ありがとう、」
爽やかな笑顔と声で、礼の言葉を紡いだ。
――アーサーは、太陽みたいな人だ。
朝陽みたいに爽やかで、夕陽みたいに優しい。
希望の光でみんなを照らして、包み込んでくれるような、心の暖かい人――。
それならきっと、私は月なんだろう。
アーサーが居てくれれば、いくらでも頑張れる。
――いくらでも輝ける――。
そんな想いを抱きながら、は夕焼けの空と海へ視線を向けた。
「……綺麗だな」
「え? あ、うん、本当に綺麗よね。今日の夕陽は一段と…」
アーサーが零した言葉を、は素直に頷いてみせる。
「いや、私が今言ったのは君のことさ」
「え……えぇっ!?」
さらりと紡がれたそれに心底驚く。
頬を紅く染めながらアーサーを見上げると、彼には特に照れた様子は無かった。
「君も、君の心もこの夕陽に負けないほど綺麗だ。、君は責任を感じることはないと言ってくれたけど、やはりこれからの戦いでも、私に君を守らせてほしい」
まっすぐに注がれる瞳と言葉、おまけにそっと手まで握られて、は「えっと…あっ…あの…!?」と慌てるばかりだ。
アーサーはのそんな様子に「駄目かい?」と尋ねる。
「う、ううん! すごく嬉しい…! けど、あの…!」
「けど?」
手まで握られて心臓が破裂しそうなのだが、言っても何だか伝わらないような気がする。
「む、無茶はしないでね? 約束よ?」
――結局、言えたのはそれだけだった。
「ああ、約束だ。ありがとう、」
アーサーに笑顔を向けられる度、「ありがとう」と言われる度、の鼓動が高鳴ることを、きっと彼は知らない。
そんなことを感じながら、の頬は益々朱に染まっていく。
「? 顔が赤いみたいだが、どうしたんだい?」
自分がその原因であることに、アーサーはちっとも気づいていなかった。
「えっ? どうしたって…! ゆ、夕陽のせいよ、きっと…!」
アーサーのそのあまりにもきょとんとした顔に、はそう取り繕うことしか出来なかった…。
――すべてが夕映えに包まれる。
空と海を染める夕陽は、約束を交わした小さなふたつの影をも優しく照らす。
ゆっくりと、水平線の彼方へ沈みながら――。
end.
《あとがき》
アーサードリーム第一段です; うーん…いいのかなぁこれで;
このお話を書いたのは「アーサーと一緒に夕陽が見たい!」と思ったからです。
実はですね……伊藤健太郎さんの歌って、『夕陽』という歌詞が入ってることが
多いんですよ(笑) なので伊藤さんの歌を聴く度に「アーサーと夕陽を見たい」
という思いが、すくすくと育っていったわけです(^^)
まぁそれはいいとして……アーサーって絶対、恋愛感情理解してないですよね;
だから、恥ずかしい台詞も爽やか笑顔でさらっと言えちゃう人だと思うんです(笑)
でもって自分の魅力にも気づいてませんね、あれは。
彼のウィンクを見た時はしばらく固まっちゃいましたよ(笑)
――執筆中の主なBGM。
『オレンジ』by伊藤健太郎さん、『THANKS』by伊藤健太郎さん&三浦智子さん、
『この街』by広報2課オールスターズ(ダイ・ガード出演声優さん方)、
『夕陽の約束』byAiMさん…等々。
執筆中にAiMさんの歌を見つけた時は「おおっ」と驚きました(笑)
writeen by 羽柴水帆