――――夜が明け、月が白く霞み、太陽が昇る。
                    毎日、新しい朝がくること。
            時が流れるから、当たり前のように繰り返される、日常。
          けれどそれは、決して『当たり前』ではないことを、少女は知った。





                       私の好きな人





 太陽が西の空へ差し掛かった頃、学校のチャイムが鳴る。
 授業もHRも終わり、生徒達は各々の行動を始めた。
、一緒に帰ろう!」
 同じクラスの友人に声をかけられて、少女――は、
「うん!」
 荷物をまとめたカバンのふたを閉じて、答えた。


 学校から少し離れた街の中を、同じ制服を着た三人の少女達が歩く。
 その中に、碧い髪の少女――も居る。
「えー!? じゃぁ、ついに告白するの?」
 がぼぅっと空を見上げていると、隣りの友達から声が上がった。
 もう一人の友達が、「やだ、大きな声出さないでよ!」と、やや赤面して抗議する。
「まだ決めたわけじゃないし…!」
「でも、彼カッコイイもんねー。早くしないと他の誰かにとられちゃうかもよ?」
「怖いこと言わないでよ。で、そっちはどうなわけ?」
 が上の空だった間に、話題は『好きな人』のことになっていたようだ。
「私はね……厄介なことに、手の届かないところに居る人だから」
 突然の言葉に、と友人は「へ?」と不思議そうな顔をする。
 聞けばその相手とは、タレント業をしている人らしい。
「そんな人追いかけても仕方ないってのは、わかってるんだけどね。その人以上に素敵な人と出逢えないから、どうしようもないのよ」
「そっかぁ……大変だね。ねぇ、は?」
「え?」
 いきなり話を振られて、はきょとんとした。
「そういえばって、こうゆう話に全然入ってこないよね」
「居ないの? 好きな人」
 このくらいの年齢の少女なら、こういった話題には興味津々になるものである。
 しかしは、今回に限らず、学校の休み時間の刻でも『聴いてるだけ』といった感じなのだ。
「そ、そうゆうわけじゃ……!」
 好きな人が居ない、というわけではないので、は焦って手をぱたぱたと振る。
「じゃぁ、居るんだ? 誰? うちのクラス?」
 そう訊かれるが、「う、ううん……」と首を横に振った。
「どんな人なの?」
 からこんな話を聴くのは初めてだった友人達は、楽しげで、それこそ興味津々だ。
「えっと……」
 段々と俯き加減になりながら、は『好きな人』のことを思い出す。
「爽やかで、真面目で、優しくて……強くて、カッコいい人」

 の脳裏には、爽やかに笑う、紺青の髪と大地色の双眸を持つ青年が浮かんでいた。

「普段は穏やかなんだけど、すごく強い勇気と正義感を持ってるから、いざとなったら自分の危険を省みないで飛び出しちゃうの。そういうところが、いつも心配だけど……」

 この星に迫る脅威に、彼は仲間と共に、何度も立ち向かった。
 星を失う悲しみを、心の奥に抱えている人だから。
 この星とすべての命を救い、守ってきてくれた。

「そんなところも、何だか誇らしくて、好きなんだ」
 は両手を合わせて、はにかむように微笑む。
「それに、もうなるべく無茶はしないって、ひとりで抱え込んだりしないって、約束してくれたから」
 大丈夫だよ、というように、友人達に向かって笑顔を向けた。
 しかし友人である少女達は、大きく瞳を瞬きさせている。
「……の好きな人って」
「何してる人なの?」
 至極切実な表情で、友人達は問わずにはいられなかった。
 話から察するに、実際に存在する人ではあるのだろうが、職業などが皆目見当つかない。
「え? あ、えぇっと、その…!」
 まさか「正義の味方やってます」とも言えない。
 思い出したらつい、詳しいことを知らない人には判らないことまで話してしまった。
 さすがに、地球でのサイズで「身長8p」ということまでは言わなかったが。
 笑って誤魔化そうとすると、の左手のミクロッチがアラームを鳴らす。
「あ、ごめん、私、ちょっと用事があったの! また明日ね!」
 助かったというように、は友人達に手を振って走り出す。
「何か……大変そうね、あの子も」
「うん。でも、嬉しそうだったから、いいんじゃない?」
「…そうね」
 取りあえず、に『好きな人』が居て、おそらくうまくいっているのだろうと思った友人達は、未だ不思議な気持ちを残しつつ、を見送った。



「――アーサー!」
 ミクロマン基地の司令室のドアが開き、ミクロレディにチェンジした少女――が入ってきた。
「やぁ、。よく来たね」
 ミクロマン・マグネパワーズのリーダーである青年――アーサーが、持ち前の爽やかな笑顔で迎える。
 それだけで、の中に暖かな気持ちがあふれ出していた。
「どうしたの? またアクロイヤー?」
 司令室の中を見回しながら、訊ねる。
 他の仲間の姿は見当たらない。
「いや、いつものパトロールなんだが、よかったら一緒に行かないか?」
「…うん、行く!」
 が笑顔で頷くと、アーサーは「よかった」と安堵したように笑む。
「みんなはもう行ったの?」
「ああ。それじゃ、私達も行こう」
「うん!」
 ふたりはまた笑顔を交わして、格納庫へと向かった。


「今日はスパイヘリで行こうか」
 アーサーのそんな言葉があって、乗り物が決まる。
「さぁ、
 乗ろうと近づいたに、先に乗ったアーサーが手を差し出した。
「あ……うん、ありがとう」
 穏やかな笑顔と、気遣いと――手。
 の鼓動が忙しなく騒ぎ始めたことを、アーサーは気づいていないだろう。
 不自然に思われないように、はアーサーの後ろに乗る。
「しっかり掴まっているんだぞ」
 彼の背中越しに聴こえた声に、は「…うん」と答えて、彼の広い背に掴まった。
 やがて、スパイヘリがミクロマン基地から発進する。
 人々の気づかないうちに、七王子の空へと飛び立っていく。

『えー!? じゃぁ、ついに告白するの?』

 先程の友人の声が、ふいによみがえる。
(そんなことする日が、来るのかな……?)
 は、少し見えるアーサーの横顔を、そっと見上げた。
(……何だかすっごい先の話のような気がする……)
 今までのことをも思い出して、は溜め息をつきそうになった。
 アーサーは、爽やかで真面目で優しい好青年。
 だが、恋愛経験がまるで無いので、そういったことには凄まじく鈍い。
(アーサーは……誰にでも優しいもんね)
 彼の優しさは、決して自分に限られたものではないと思う。
 何だかせつない気持ちになって、は知らないうちに、アーサーの背に掴まる両手に力を込めていた。
「どうかしたかい? ?」
 それに気づいたアーサーが、後ろを横目で見るようにして問いかける。
「高度が高すぎて、怖がらせてしまったかな?」
 ――やっぱり、優しい。
 天然、と言う言葉が当てはまるのかもしれない。
「……ううん、大丈夫。何でもないから」
 ゆっくりと首を横に振って、微笑む
「しっかり見回らないとね」
「…ああ」
 彼女らしい言葉に、アーサーは優しい声と表情で頷いた。



 七王子の――地球の空は、今日も青い。

 ――毎日、新しい朝がくること。
 時が流れるから、当たり前のように繰り返される、日常。
 けれどそれは、決して『当たり前』ではないことを、少女は知った。

 その日常は、彼らが傷つき戦いながら、守ってくれているもの。

 今までも、そしてこれからもこの星を守ってくれる人。
 凛々しさと、気高さ。
 暖かさと、強さ。
 誇らしいほどの優しさを持ったこの人が――私の好きな人。




               end.




 《あとがき》
 時空界一周年記念創作として書いた、アーサードリーム第三弾です。
 今回は『好きな人』がテーマでしたv(笑) こんな人と出逢っていたら、学校や
 芸能人の男の子どころではなくなるのでは、と思って書いてみました(笑)
 その分、大変ですけどね。彼、無茶ばっかりするし。鈍いし(←致命的/苦笑)
 まぁでもこうゆう人って、自覚したら一直線だと思うので(^^;)
 今後に期待って感じですね〜(←まるで人ごと/笑)
 読んで下さってありがとうございました!

                           written by 羽柴水帆