――――雷鳴が轟く、雨の夜だった。
都内の病院に入院していた少女は、何故か寝付けずにいて。
雨が打ちつけられる窓の外を見ていた。
――その瞬間、強く雷が鳴り響いたかと思うと。
「……――――っ!?」
少女の身体も視界もすべて、真っ白に包まれた――。
「、忘れ物はない?」
綺麗に片づけられた病室。
母親に訊かれた少女は、
「うん、お母さん。準備はばっちりよ」
すっかり回復したことを証明させるかのように、にっこりと微笑んだ。
少女の名は、。
今年でめでたく中学生となり、今日でめでたく退院することになった少女。
「やっと退院できるんだ…!」
病院の外に出たは、伸びをして大きく息を吸い込む。
しかし、その伸び伸びとした嬉しそうな表情はすぐに解けてしまった。
「………あれは…やっぱり夢だったのかしら……」
風がの碧色の髪を撫でた刻、忘れるに忘れられない――けれど確かだという証拠も無い思い出が彼女の脳裏によみがえっていた。
――あの、激しい雷雨の夜。
突然眩しい光に包まれたかと思った『』は全く知らない場所に瞬間移動されていた。
そこは――見たこともない機械に埋め尽くされた『彼ら』の秘密基地。
小さき身体に大きな力を秘め、この星を護るために戦う彼ら――。
「……ううん、やっぱり夢なんかじゃない。だって憶えてるもの。彼らの声や姿――あの刻のベルタさんも――!」
幾度となく助けてくれた、優しく落ち着いた雰囲気を漂わせた女性。
を守るために自ら犠牲になった彼女のことを、忘れられるはずがなかった…。
――退院して家に帰って来た、その夜。
「……う――ん……」
自分の部屋で、あるものを手にしたは悩んでいた。
彼女が持っているのは――宛名に『様』と書かれた小包。
母に「退院祝いじゃない?」と言われたのだが、差出人の名が書かれていないのでよく判らない。
「……とりあえず、開けてみようかな」
差出人不明というのはいささか不安だが――特に根拠は無いがこれはそんな物騒なものではないような気がして、は箱に手をかけた。
「……これは…?」
中から出てきたのは変わったデザインの腕時計。
「腕時計…よね」
キーホルダーが付いた携帯用ゲームのようなその時計にはいくつかのボタンがある。
押したらどうなるのだろう、と単純に思ったは、その一つを押してみた。
すると――腕時計から目映い光が放たれる…!
「きゃぁ! 何っ…――――!?」
光に包まれながら、に、よみがえる。
(これは……『あの時』に似てる――――!!)
雷雨の夜に彼らの基地へ行ってしまった、あの『瞬間』が――。
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