――――その日、生まれた尊き命。
                    かけがえのないただひとつの命。
             広い広い宇宙の片隅で生まれ落ちた、たったひとつの奇跡――。





                小さな奇跡―感謝と願いをこめて―





、ちょっと一緒に来てくれないか?」
 ――アーサーにそう言われて、ミクロマン基地で開かれた誕生日パーティーからこっそりと抜け出してきた
「アーサー? ねぇ、どこに行くの?」
 促されるままスパイヘリの後ろに乗ったは、彼の目的が判らなくて尋ねる。
「君にプレゼントしたいものがあるんだ」
「え…? でも、さっきももらったのに…??」
 先程も、『みんなから』ということで、イザムが持っていた種から全員で大事に育てられたという花束をもらった。
「今度のは『私から』なんだ」
 そう答えて、アーサーは微笑んだ横顔を向ける。
「え…――?」
 彼持ち前の爽やかな声と笑顔。
 すっかり夜の薄明かりに包まれている今、明るい陽の下ではないが、の鼓動を高鳴らせるには充分だった。
(よ、よかった……もう夜で)
 それに、の紅く染まった頬も丁度いい具合に隠してくれていた。



 七王子の街から少し離れた、高尾根山。
 アーサーがスパイヘリを降ろしたのは、その山に生きる一本の木立だった。
、すまないが少しの間、目を閉じていてほしいんだが…」
 相変わらず頭の中が『?』マークだらけのだが、取りあえず「う、うん…」と頷いて瞳を閉じる。
 と、突然、ふわっと身体が浮き上がる。
「え…っ!? ちょ、ちょっと、アーサー!?」
 それが、アーサーに抱き上げられたのだということはすぐに判った。
 驚きのあまり目を開けてしまいそうになる。
「あ、すまない。すぐに済むから、しっかり掴まっていてくれ」
 アーサーは「それから、目も閉じていてくれよ」と念を押す。
(あ…アーサー…??)
 はこの上ないほど頬を朱に染めて、ぎゅっとアーサーに掴まり、瞳を閉じる。
 彼に言われるまでもなく、今のには正視などとても出来なかった。
 を抱えたアーサーは、スパイヘリを置いた太い樹の枝から、跳躍する。
 段々と細い枝に――高い枝に飛び移っていく。
「……さぁ、。もういいよ。目を開けて」
「…??」
 静かに降ろされたは、そぉっと目を開けてみる。
「空を見てごらん」
「え…? あ…――!?」
 アーサーの言葉と一緒に、舞い降りてきたほのかな光。
 それを辿るようには夜空を見上げ――驚いた。

 大きな瞳いっぱいに映ったのは、満天の星空。

「すごいっ…星がこんなに…!!」
 家の窓から見るのよりも、ずっとずっとすごい数の星。
「街なかで見るよりも、街から少し離れたここの方が見えるだろう? この前、パトロールをしている時に見つけたんだが……にも見せてあげたいと思ってね」
「うん、すごく綺麗…! ありがとう、アーサー!」
 は頬を紅潮させながら、瞳をまるで星のように輝かせた。
「喜んでもらえてよかった」
 アーサーは安堵をこめて優しく微笑む。
「――
 と、ふいにアーサーの声と表情が真剣なものになる。
 元々端正な顔が凛々しく引き締められて、それでいて優しさをも含んだ表情。
「改めて言わせてほしい。――誕生日、おめでとう」
 パーティーで『みんな』と一緒に言ったのとは別に、アーサーは、『アーサー個人』から祝いの言葉を紡いだ。
「え…?」
 心地よく響く声で紡がれた、嬉しい言葉。
 は凪がない鼓動を感じ取る。
「こんな星空を見ていて、思うんだ」
 穏やかな声のまま、アーサーは静かに輝く星空を見上げる。
「宇宙は限りなく広くて、星はそれこそ無数にある。生命が生まれ、住める星はその中のほんの一部しかない」
 救えた星、救えなかった星。
 まるで宇宙の中を星が流れるように。
 アーサーの胸中を、様々な想いが巡った。

「この果てしなく広い宇宙の中の、『地球』という星で、君が生まれてきてくれたこと。君に出逢えたことが、私は何より嬉しい」

 大地色をした優しい双眸が、星空からに映り変わる。
「広い宇宙に比べたら小さなことかもしれないけど、私はこの奇跡が本当に嬉しいし、感謝したいんだ。ありがとう、
 優しい瞳、優しい笑顔、優しい言葉――『想い』。
「あ……アーサー……っ!」
 どこまで暖かくて、優しい人なんだろう。
 の胸の奥から暖かな嬉しさが、瞳の奥から熱い涙があふれてくる。
「アーサぁ…っ!」
 ついに耐えきれなくなった涙がの双眸からぽろぽろと零れてゆく。
? すまない、私は何か――」
 悪いことを言っただろうか、とアーサーは尋ねようとする。
「ううん、嬉しいの、すごく…!」
 今までにも誕生日に「おめでとう」と言われたことはあった。
 けれど、の存在を喜んでくれたこと。
 が生まれてきたこと。
 に出逢えたことを喜び、祝い、感謝してくれたことが嬉しい。
 きっと――家族以外では初めてだから。
「ありがとう、アーサー…! 私も、アーサーに逢えて嬉しい…! 本当に…本当にありがとう、アーサー…!!」
 素敵なプレゼントをくれたアーサーの胸元に、は涙を零しながらしがみつく。
 アーサーは一瞬驚いたような顔をするが、すぐに和らいで。
 微笑みながら、の髪を優しく撫でた。


 ――広い広い宇宙に比べたら、それはきっと小さな奇跡。
 けれど、大切な宇宙の一部。
 星の運命、天の贈り物。

 君が生まれてきてくれた奇跡、君に出逢えた奇跡に感謝しよう。

 これからの君の未来が、幸せなものでありますように。
 ――誕生日、おめでとう。




                    end.




 《あとがき》
 Dリナーガ様にキリ番1111でリクエストして頂いたアーサードリームの第二作目
 として、Dリナーガ様のお誕生日祝いvとして書かせて頂きました〜v
 こっ…こんなもので如何でしょうか?; って、アーサーが別人っぽい…(×△×)
 すみません;; 水帆はすっかり恋愛ボケしてます(苦笑)
 二年程前から(要するにアンジェと遙かを知ってから/笑)、水帆は泣き虫になったの
 ですが(笑) 申し分ない素敵な声優さんが演じられる、数々の素敵な男性キャラの
 言葉に涙してきて、「一番嬉しい『言葉』って何かな…?」と考えてみました。
 そして浮かんだのが『自分の存在を喜んでくれる』言葉、でした。
 生まれてきたこと、出逢えたこと。これに感謝してくれるのが一番泣けます;(笑)
 たったひとりでもそんな風に言ってくれる人に出逢えたら、きっと幸せだろうなぁと
 思います…v
 って、長いあとがき; すみません、Dリナーガ様;
 そして、お誕生日おめでとうございます…vv

                                 written by 羽柴水帆