二人の聖なる夜





 今日はクリスマス・イブ。

「はぁ…」

 M.I.C.R内にあるロードフォース用ミーティングルームで、若きミクロマン、カイトがため息をついていた。

 その理由とは――。

「リン、今頃どうしてるんだろう。会いたいなぁ…」

 カイトのいうリンとは、かつて起こった古代アクロイヤーとの戦いの中で、パートナーとなった人間の女性、リンセ鷹匠の事だ。

 あの戦いの後、M.I.C.Rを引退し、看護婦の仕事に専念する為、ペルーへと帰って行った。

 またいつか、会う約束をして――。

「とか言いながら、いつもメールしているだろうが…何が原因でそのようなため息をついているのか、俺には全くわからん」

 その隣に、先程から呆れてみていたリュウが座ってきた。

「だーってさぁ…メールはいつでもできるけど、直接会う事ができないのが寂しいんだもん」

「わからなくはないが…リンセ女史といえど、色々と事情があるから仕方ないだろ?」

 ぶーぶー言っているカイトに、リュウは更に呆れた。

 と、そこへ――。

「どしたどしたぁ?」

「さっきから何をぶつぶつ言ってるの? カイト」

 ロードスパルタンのメンテナンスを終えたサンダーとレイが、ミーティングルームへと入って来た。

 未だ呆れているリュウが、カイトを見て言う。

「リンセ女史に会えないのが寂しいそうだ」

「リンのねーちゃんにか? んなこたぁねぇだろ」

「そうだよ。毎日メールしてるみたいじゃない」

 やはり、サンダーもレイもカイトが落ち込んでいる理由がわからないようだ。

 カイトは更に落ち込んだ。

「俺には…リュウやサンダー、レイがいる。ライアン兄やハック兄だっている。けどリンは…お母さんを亡くしてから一人なんだよ。リンがかわいそうだよ――」

 寂しそうに話すカイトに、リュウ達も寂しそうに顔を伏せた。

 確かに――リンセは、2年前に起こった『ミクロ兵器戦争』で母親を亡くした。

 あの戦争は、今ではミクロヒューマノイドの中で英雄的存在であるミクロマン、スカイマスター・ハヤテがその悲劇を終結させた。

 しかし、その事件がきっかけで、リンセはミクロヒューマノイドに恐怖を抱くようになってしまった。

 最初こそは、出逢ったばかりのカイトを拒絶していたものの、徐々に受け入れるようになった。

 その証拠にエネルギー切れのロードスパルタンを守ったり、命令無視が原因で処刑されそうになったカイト達を助けてくれた。

 M.I.C.Rにいる間は、自分達がいたからリンセは頑張れた。

 しかし、引退後は離れ離れになってしまった――。

「だからね、俺…せめてこのクリスマスの日には、リンに会いたいって思ったんだ。会って何をすればいいかはわかんない。でも…とにかく、元気な顔が見たいんだ」

 スッと立ち上がったカイトの瞳には決意が秘められている。

 それは、リュウとサンダー、レイも見抜いていた。

 そして――。

「――うん、わかったわカイト。リンセさんに会いに行こ!」

 真っ先にカイトに賛同してくれたのはレイだった。

 後の二人も続く。

「仕方ねぇな。んじゃ、カイトとリンのねーちゃんの為にも一肌脱いでやるとするか」

「そうだな。たまには会うのもいいだろう」

 三人の頼もしい仲間の優しさに、カイトは心を打たれた。

「ありがとう、みんな――うん! 俺、リンに会って来る!」

「気にするな、カイト。俺達は仲間だろう?」

「そうそう。」

「仲間が困っているのを助けるのが仲間だから当然だよ。そうと決まったら、まずリンセさんに何を持って行ってあげるか考えましょ? そうねぇ…彼女は看護婦のお勤めがあるから、せめてプレゼントと一緒に差し入れとか」

 カイトが礼を言うと、リュウはその頭を軽く撫でてくれた。

 サンダーも、頬に軽いパンチをくれる。

 レイはというと、メモパッドとペンを取り出し、リンセに渡す物を書き始めていた。





 その頃、ペルーでは――。

「お疲れ、リン。メリークリスマスv」

「うん、メリークリスマス。また明日ね」

 雪が舞う夜。

 とある病院では、次々と仕事を終えた看護婦達が帰宅していく。

 同僚を見送った後、リンセはカルテをまとめ終えた。

 なんといっても、今日はクリスマス・イブだ。

 リンセの同僚の看護婦達はたいてい、自分と年が近い若い女性達。

 彼氏と過ごしたりするのだろう。

「今年も一人か…まあ、慣れてるけどね」

 苦笑いしながらも、リンセはふとカイト達の事を思い浮かべる。

「カイトやみんな…元気にしてるかなぁ?」

 彼らと別れてから少ししか経っていないのに、もう長い事会っていないような感覚に陥ってしまう。

「何か、会いたくなったかも。メールじゃなくて…実際に――」

 会いたい、という言葉を口に出した時。

 トントン、と窓を叩く音が聞こえてきた。

「ん? 誰だろう。ドアから来ればいいのに。でも、もう終わりだけど――あっ!」

 窓辺に行き、窓を開けようとしたリンセはあっと声を出した。


「リンっ!」


 雪降る中、窓を叩いていたのは、かつて自分のパートナーとして、アクロイヤーと戦ったミクロマン、カイトだった。

「カ、カイト!? ど、どうしたの一体っ…!?」

「ちょ、ちょっとね。その…リンに会いたくなって。あ、もしかしてまだ仕事中だった!?」

 リンセが手のひらにのせると、その中にいるカイトの体はとても冷たかった。

「う、ううん。ちょうど終わって帰る所だよ。でも、どうしてここに――?」

 リンセが問いかけると、カイトは窓辺の近くに停めてあるマシン、マッハスラッガーに乗せてある包みを指した。

「あれ、リンへのプレゼントなんだ。プレゼントと言っても大した物じゃないけどね…ちょっと待ってて!」と、カイトは一旦リンセの手から飛び降り、マッハスラッガーの元へと走って行った。

 そして、包みを持ってきた。

「はぁはぁ…はい、これ!」

「あ、ありがとう。開けてもいい?」

「うん!」

 カイトから受け取ると、リンセはその包みを開けてみる。

 中に入っていたのは、小さな銀のベルがついたペンダントとサンドイッチ。 

「そのサンドイッチはフルーツ入りだよ。ケーキの代わりにって、レイが提案してくれたんだ。後、疲れた時は甘い物がいいってリュウも言ってたし。リンが食べやすいように、ミクロシスターやみんなと協力して人間サイズのフルーツサンドを作ったんだ」

 人間であるリンセが食べれる手頃な大きさ。

 小さい彼らにとっては大掛かりな作業だったのだろう――。

「それと、このペンダント。リンが前つけていたのは、アクロエンペラーを封印する時に、俺のせいで壊れちゃったから…その、代わりと言っちゃあなんだけど、リンに似合いそうだったから――」

 照れくさそうに話すカイト。

 それを見てニコッと笑ったリンセは、そのペンダントを身につけた。

 そして、再びカイトを手のひらで包み込む。

「リ、リン――?」

「――ありがとう、カイト。すっごく嬉しいよ。私も…あなたに会いたかったんだ」

 だから、ありがとう。

 笑顔でお礼を言われたカイトは、「えへへv」と笑い返した。

 そして――。

「メリークリスマス、リン」

 言いたかったこの言葉を、カイトはようやく伝えられた。

「うん――メリークリスマス、カイト」

 リンセも微笑みながら、彼の髪を指先で撫でた。

「せっかく来たから、一緒に食べようか。フルーツサンド」

「うん!」

 リンセが問いかけると、カイトは嬉しそうに頷く。

 フルーツサンドが入った包みと小さな客人を中に招き入れ、窓を閉めたのだった――。




                完




あとがき

クリスマス創作第2弾は、ミクロマン(200X版)です!
念願のカイト×リンセ小説を書きました!
ちなみに、これも急いで書いていたのはナイショですv←だから、バラしてるって;
平成版がフルーツポンチに対し、こちらはフルーツサンドにしましたv
これらも、ある意味パーティーにかかせないものだと思います。
はっ!カレー出すの忘れた!;←いきなり何だ;
ごめんね、カイトくん;まあ、これは次の機会にでも…←こらこら
二人が楽しんでる中、レイちゃん達はきっとカイトくんがいなくてちょっと寂しい思いをしているのかもしれません;
けれど、今回はリンセさんの為にと、カイトくんを見送ってくれたのでしょう。
これも書いてて楽しかったですねv では、メリークリスマス!

                               by 結希 汐