遙かなる空の下で
赤や黄色の葉が風に舞う。頭上から降る光は、ほのかにあたたかい。八葉のひとりである平勝真は、まだ若い木の幹に背をあずけ座っていた。愛用の弓を傍らにおき、何をするでもなく空を眺めている。
地面に降り積もった落ち葉と、草が音を発した。勝真の視線が天から地へと移動する。視線の先には同じく八葉の源頼忠の姿があった。
「――頼忠か。何かあったのか?」
「神子殿が、伏見稲荷の怨霊を封印しにいくので、我々に同行してほしい、とのことだ」
伏見稲荷の怨霊は「きつね」で、属性は「土」である。対して、青龍二人の属性は「木」
であるため、戦闘を有利に進められるだろう。
「わかった。行くか」
そう言って、勝真は弓をとり、立ち上がる。と、視界をかすめた青色に、勝真は歩き出そうとした足をとめ、空を見上げた。気づいた頼忠が、いぶかしげに彼を見やる。
「どうかしたのか? 勝真?」
「いや……先代の地の青龍が、この山を好きだったことを思い出してな」
「そうなのか……?」
武士の青年は初めて知ったのか、少々驚いたような顔をした。双眸に空を映したまま、地の青龍は軽く肩をすくめ、真実のほどが不明であることを告げる。
「だが、もし、この話が本当ならば、先代もこうして空を眺めていたのかもしれないな」
勝真の、どこか遠くを見るような視線につられたのか、頼忠も天を仰ぐ。
「――そうだな……」
地の青龍は少しだけ意外そうな表情をすると、武士の青年の横顔を見やった。口元が自然とほころぶ。
「さてと、行こうぜ。伏見稲荷の怨霊は、確か、きつねだったな」
「ああ、属性的には我々が有利だ。しかし、少々気力が高い。長引くやもしれぬ」
「大丈夫だろう。花梨もいるし、それに――」
『お前もいる』
異口同音に二人は言葉を紡いだ。頼忠と勝真は、思わず互いの顔を見合わせる。一瞬の沈黙の後、どちらからともなく笑いだした。あまり表情を崩さない頼忠も、この時ばかりは、軽くではあったが、声を上げて笑った。
「よろしく頼むぞ、勝真」
「ああ、こっちこそ頼む」
天地の青龍は笑みを交わしあうと、龍神の神子である少女の元へ向かうべく、山を下り始めた。
……百年前、京を滅びの危機から救った龍神の神子と八葉、そして星の一族がいた。彼らもまた、いまの自分たちと同じように、絆を、想いを紡ぎながら生きていたのだろう。
何もかもが終わった時、彼らが見たものと同じものを、自分たちも見られるだろうか。
この遙かなる空の下で――。
―Fin―
<あとがき>
・初の遙か2創作です。はっきり言って、短い上に頼久さんと天真くんの区別がついていません; イメージを壊された方、すみません。もっと修行します。
頼忠さんと勝真さんは、見ていれば、先代のお二人とは確かに違う部分を持っていて、やっぱり別人なんだなぁと思わせてくれます。が、文章ではどうも表現するのは難しいですね。風見野が未熟ということもありますが(ーー;)それにゲーム中ではこんなに仲良くないですよね; 四神コンビの中では1、2を争う険悪ぶりに、こちらも困ったものです(^−^;)。遙か1の、ゲーム前半の頼久さんと天真くんの喧嘩が、とても可愛いものに思えました(笑)。
何にせよ、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
2002.5.10 風見野 里久