私の時空、あなたの世界―明日もずっと、いつまでも―





 ――太陽のような赤い瞳。
 心を捕らえて放さない、真っ直ぐな眼差し。
『オレ、本当にお前が好きだ。お前と、ずっと一緒に居たいんだ』
 その刻は、ただ嬉しくて、涙があふれた。
 自分も同じ想いだったから、素直に頷いた。


「――………イサト…くん………っ…?」
 大好きな人の名を呟いて、は目を覚ました。
 夢だったんだ、と思って起き上がる。
 眩しい朝の光が射し込む庭へ降り立ち、大きく背伸びをした。

 大いなる使命を果たした龍神の神子――は、天の朱雀である少年と想いを実らせ、彼が居るこの京に残った。
 幼き星の一族の好意によって、今でもこの館に身を置かせてもらっている。
 そこへイサトが会いに来てくれるので、以前とさほど変わらない日々を送っていた。
 しかし昨日は、イサトが僧兵見習いとしての仕事故、会いに来れなかった。
「……たった一日会えなかっただけなのに」
 なんて淋しがりやなんだろう、と頬が染まる。

 でも――会いたい。
 声が聴きたい。
 あの、明るくて優しい笑顔に会いたい。

 想いを募らせ、暫し悩んだ末、は決心して出掛けることにした。



 前に案内してもらった、イサトが家族ぐるみで世話になっているという寺。
 その近くまでは来てみたものの、は暫くうろうろしてしまう。
 ――彼に会いたい一心で来てしまったが、彼の迷惑を考えていなかった。
「どうしよう……」
 直接訪ねていく勇気も、このまま帰る潔さも無い。
 が延々と頭を悩ませていると――ふと、赤い髪の少年が視界を掠める。
「…イサトくん!?」
 ハッと顔を上げてみると、確かにイサトだった。
 寺の境内で、御坊らしき人と話をしている。
(お話中みたい…)
 終わるまで待とうとは思いつつも、見失っては嫌なので、はそっとイサト達の元へ歩み寄った。
 ――段々と、御坊とイサトの声が聴こえてくる。
「……というわけでな。明日から本格的な修行に入る。当分、寺からは出られぬぞ」
「明日、ですか……わかりました」
 御坊の言葉に、イサトは何やら神妙な表情をして返す。
(え……――!?)
 突然聴こえてきたそれに、は耳を疑った。
(今……今、何て言ったの?)
 時が、鼓動が止まったかのような錯覚を起こす。

 ――かつて、イサトに言われたことがあった。
 彼が僧兵『見習い』のままでいる理由。
 それは、本格的な僧兵になる場合、寺に入って修行をしなければならないため、とは当分会えなくなってしまうからだった。
(イサトくん…! イサトくんに会えなくなっちゃう…!?)
 は、胸が締め付けられるように感じた。
 痛みに似たせつない思いがこみ上げてくる。

「では、確かに伝えたぞ。心残りの無いように、挨拶でもしてくるといい」
 そう言って去っていく御坊に、イサトは「…はい」と、静かに返事をした。
「…明日か…」
 溜め息を一つ零して、イサトはきびすを返す。
「なっ、…!?」
 振り返ったその先に立ち尽くし――はらはらと涙を零している少女を見た途端、イサトはぎょっと驚いた。
「どうしたんだよっ? 何でお前、こんな所に…!?」
 慌てて駆け寄り、少女の肩に手を置く。
 が、彼女の涙は止まりそうにない。
「………イサトくん……もう……会えなくなっちゃうの?」
「え?」
 暫ししてから零された問いの意味が、イサトにはすぐ理解できなかった。
「私……私……イサトくんに会えなくなっちゃうなんて、嫌…っ!!」
 涙と想いを一気にあふれさせて、はイサトの胸元にしがみつく。
…!?」
 イサトは驚き、頬を紅く染めて、双眸を見開かせた。
「我が儘言ってごめんなさい! 困らせてるって解ってる…! でも、でも私…!!」
 この世界に残ると決めた刻、決して彼の邪魔にならないようにしようと、彼を困らせることは絶対にしないと、自分自身に誓った。
 けれど――彼に会えなくなるなんて、耐えられない。
「ちょ、ちょっと待てよ、。お前まさか、今のオレと御坊の話を聞いてたのか?」
「う、うん……立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」
 ぐすぐすいいながら、はようやく顔を上げる。
 するとイサトは、「そうだったのか…」と何故か微笑んで軽い吐息を零した。
「違うぜ、。明日から本格的な僧兵の修行を始めるってのは、オレの修行仲間のことなんだ。オレじゃねぇよ」
「………え……??」
 の涙が一瞬、止まる。
 段々とその『事実』を把握したは、途端に顔中を真っ赤に染め始めた。
「そっ、そうなの!? ごっ、ごめんね! やだ、私ったら…!」
 勘違いしてしまった上に、自分のとった行動に今更ながら赤面する。
 パッとイサトから離れて手を弄らせ始めた。
「バカだな……オレが、お前と会えなくなる道を選ぶわけねぇだろ?」
 やがて、表情を和らげたイサトが、そっと優しくを抱きしめる。
「う…うん……」
 イサトの温もりが伝わってきて、の鼓動が早鐘を打ち出した。
 彼の鼓動も早くなっているように感じるのは、気のせいだろうか?
「これからどうするのか、まだ漠然としか考えてねぇけど…」
 そこまで言って、イサトは少しを放す。
 そして真っ直ぐにを見つめた。

「お前は、オレを選んでくれたから。お前が捨ててくれたものの代わりに、オレがなる」

 が選んだ答え――それによって捨てられたものは、たくさんある。
 生まれ育った故郷、家族、友達……。
 として生まれ、生きてきたあの世界へは――きっと、もう二度と戻れないから。
 今までを包んできたものに代わって、これからはイサトがを包む。
「イサトくん…!」
 の双眸に、再び涙がこみ上げてくる。
「うん……うん…! ありがとう、イサトくん…! 私、イサトくんとずっと一緒に居たい…!」
 そのために、ここに残った。
「ああ……ずっと一緒だ、。明日も、ずっとその先も……」
 天の朱雀の両腕が、龍神の神子を包み込む。
 これからの未来を託すように、安心しきったように、はイサトに身を委ねる。
 互いの想いを確かめ合うように。
 西の空へ溶けてゆく夕陽に照らされながら、強く抱きしめ合った。


 ――――決して後悔などしない。
 私が生きる時空は、あなたの生まれ育ったこの世界。
 私が選んだ未来は、あなたと共に在る天の下で――――。




                 end.




 《あとがき》
 イサトくんEDです〜v(笑) う〜ん、如何でしたでしょうか?;
 これも私が見た夢が元になってるんですねぇ(^^;)
 御坊さんの言葉を聴いた刻は「そんなっ;」とか思いました;
 結局は読んで頂いた通り、勘違いだったんですけどね〜(苦笑)
 執筆中は直純さんの『stay』をかけっぱなしって感じでした♪
 何でもあの曲は、結婚式で歌って欲しいという思いもあって作られたそうですね。
 こう、ふたりの想いが結ばれた刻…って感じ?(///)
 なので思いっきりイメージして書かせて頂きました(笑)
 ……って、それはいいのですが。私が書く神子ちゃんはどーも泣き虫で…;
 様、申し訳ございません; そして、読んで下さってありがとうございましたv

                         written by 羽柴水帆