少女と少年は、宇宙を救う旅の途中――。
勿論、二人だけではない。周りにはたくさんの仲間がいる。だが、それがとても重い使命であることにかわりはない。
宇宙の未来を背負う彼女たちだが、安らぐ時が、笑う時があってもいいはずだ――。
視界を数えきれないほどの星が埋め尽くしている。
「紺碧の海に光の船がただよっている」
詩人だったら、目の前にひろがる光景を、そう表現したかもしれない。だが少年は詩人ではない。
「綺麗だね……」
星空を見つめ、少年――ランディは呟いた。平凡な言葉だったが、横にいる少女は「そうですね……」と頷いてくれた。
「今夜は流星雨が見られる」
と、立ち寄った村で教えてもらったランディは、夜の帳が降りると、少女――アンジェリークを連れて宿を出た。闇に包まれた外は、昼間とはまた違った顔をみせていたが、不思議と恐くはなかった。
村から少し離れた丘に行くと、二人で草の上に寝転んだ。そして、空を眺めた。
夜風が草と頬を撫でていく。
視線を夜空に投げかけたまま、今度はアンジェリークが口を開いた。
「……凄い数の星ですね……」
「ああ、そうだね。あの星たちのひとつひとつに、人が住んでるなんて、ちょっと信じられないな……」
と、アンジェリークの表情が夜闇の中に沈んだ。
それに気づいた風の守護聖である少年は、晴れわたった空を思わせる青色の双眸に、少女の白い横顔を映した。
「どうしたんだい?」
「――ランディ様……本当に、救えるんでしょうか……? この宇宙を……」
アンジェリークは不安に耐えるような表情で言った。心なしか青緑色の瞳が揺れている。
ランディは彼女の心情を察した。いくら新宇宙の女王とはいえ、一人の少女である。宇宙を救うという重すぎる使命を背負って、何も感じないわけがない。不安もあれば恐怖もある。普段は周囲の者を心配させまいと、気丈に振る舞っているが、それはある意味自身の心との戦いだった。アンジェリークだけの孤独な戦いだ。誰もかわってやれない。彼女の心と戦うことができるのは、彼女だけである。
それに比べれば、剣や魔法を駆使して戦うことのなんと簡単なことか。目に見える戦いよりも、目に見えないそれの方がどんなに過酷で辛いことか、少年なりに理解していた。
ランディは、天使の名を持つ少女の手をそっと握った。自分の手が少しでも彼女の不安を取り除けることを願って。アンジェリークは驚いたように、自分の手とランディの顔を交互に見やる。
「――大丈夫さ。きっと救える。キミは一人じゃないんだから――」
「キミには俺がいる」という言葉は、口元にたたえた微笑に含んだ。彼女の戦いをかわってやることはできない。手助けしてやることもできない。ならばせめて自分の存在だけでも知らせておこう。
――俺は、キミの隣にいるから……。
彼の微笑に含まれたものを、アンジェリークは正確に理解した。それに対する返答を言葉ではなく、行動で示した。自分の手を握ってくれている風の守護聖のそれを、握り返したのである。
少女と少年は、互いの色の異なる瞳に、互いの姿を映し、そして笑った。
星が銀色の軌跡を描きながら、空を駆ける。
「あ、星が流れたよ」
ランディが言い、二人は再び天空に視線を投げかけた。
ひとつ、ふたつ……次々と星が流れていく。この光景を仰ぎ見る全てのものたちの願いと祈りをのせて、星たちは雨となって夜空に降る。
やわらかな星の光に濡れながら、二人は黙って天を見つめ続けた。
――互いの存在を、つないだ手をとおして確かに感じながら……。
―Fin―
<あとがき>
・恋愛小説第二弾です。これのどこが恋愛だ、という気もしますけどね。
今回は前回よりも平和で短いものとなりました(よかったね、ランディ)。
風見野は空や風とかが好きなので、小説のテーマになることが多いです。今回は夜空・流星雨となりました。
ですが、白状すると、私は流星雨を実際に見たことはありません(−−;)。
ですから、上記の話にでてくるのは、全て想像のもと書かれています。すみません。
それにしても、見てみたいです、流星雨。きっとアンジェリークたちの世界から見ると素晴らしいでしょうね。
一度行ってみたいものです。
2001.11.11 風見野 里久
