琥珀のアミュレット





 優しく輝く月と、幾千の星々が煌めく夜空の下。
 聖なる宮殿の庭園の中に在る噴水が、静かな水音を奏でている。

 ――噴水の縁には、栗色の髪を持つ少女が悲しげに顔を俯かせて座っていた。
 少女の名は、アンジェリーク。
 新宇宙の女王である彼女にかせられたひとつの使命が、今日、幕を閉じる。
 彼女の故郷である宇宙を救うための戦いは、終わったのだ。
 それは、共に戦った仲間との――大好きな人との別れをも意味していた。
 明日には、住むべき宇宙へ帰らなければならない。
「なぁ、確かにこの先、一緒に暮らすことは出来んけど…二度と会えんわけやないやろ?」
 夜の噴水を眺めていたチャーリーは、くるっとアンジェリークの方を振り向いた。
「また巡り巡って、どこかでばったり出会うかもしれん。今回の旅で、俺らが出会えたみたいに」
 明るく優しい鳶色の瞳を向けて、「な? そやろ?」と微笑みかける。

「奇跡って案外、あっさり起きるもんなんや!」

 そう言って彼は、大人だけど人懐っこい――アンジェリークの大好きな笑顔を見せた。
 励まそうとしてくれていることが、痛いほど伝わってくる。
 本当にそんな奇跡が起きるような気がしてくるのは、まるで魔法みたいだった。
「俺はあんたとまた会える奇跡を、ずっと、ずーっと待っとる。あんたが驚くような話題たくさん用意して、しつこく待っとるから!」
 彼特有の優しさが込められた明るい言い回しに、心が軋んだ。
「チャーリーさん…」
 涙があふれ出そうとする碧い双眸を、アンジェリークはぎゅっと閉じて俯く。
 そんなアンジェリークを見たチャーリーは、少し淋しげに微笑するが、「そや! ええこと思い出した!」と、すぐにまた明るく言い出した。
「泉の中にコインを後ろ向きで投げ入れると、またふたりでその場所に来られるっていう話!」
 チャーリーは「うーん…『その場所にまた来られる』ってだけやったかもしれんけど……」とうろ覚えそうに続けるが、
「ま、この際や。『ふたりでまた来られる』おまじないってことで、やってみよ!」
 アンジェリークを励ますため、『おまじない』を実行することにした。

 ――ピィン…!

 後ろ姿のチャーリーの手から、一枚のコインが弾かれる。
 コインはきれいに放物線を描き、噴水の中へチャポンと小さな音をたてて飛び込む。
 アンジェリークは、波紋が描かれる水面を、ただ黙って見つめた。
「よっしゃ、これでもう大丈夫や」
 チャーリーが得意そうな笑顔でこちらを振り向く。
 しかし、アンジェリークの顔は一向に晴れず、今にも泣き出しそうだった。
「あーもうあかんって。そんな顔してたらどんどん運が逃げていくで?」
 その言葉に、アンジェリークは更に顔を俯かせる。
 チャーリーは仕方ないなぁというように軽い微笑を刻んだ。
 ――無論、チャーリーだって淋しさと哀しさでいっぱいだった。
 出来ることなら、いつまでもふたりで一緒に居たい。
 けれど、それが叶わぬ願いであることはお互いに哀しいほど解っている。
 だからこそチャーリーは、泣き顔で別れたくなかった。
 それよりも、ふたりでまた会える奇跡を信じる気持ちでいれば、本当にまた会えるかもしれないから――。
 チャーリーは噴水のそばに、アンジェリークのそばに歩み寄る。
 それに気づいたアンジェリークが少し上げた顔の顎を、右手でゆっくり持ち上げて。
 ――そっと優しく一瞬、唇を重ね合わせた。
「っ…!?」
 驚いて瞳を大きく見開き、頬を紅く染める彼女にチャーリーは優しく微笑む。
「信じてたら必ずまた会える。俺はずっと信じてるから…あんたも、な?」
 その優しい言葉に、彼女は――アンジェリークは両手を胸の前で握り合わせて。
「……はい」
 やっと柔らかく微笑みを返した。


 ――そして、一緒にいられる夜が明けていく中で。
「チャーリーさん…これ…!」
 アンジェリークは琥珀色のイヤリングの片方を、チャーリーに差し出した。
「これって……この前もらったイヤリングやんか…?」
 その琥珀色のイヤリングは、この宇宙を救うための旅の途中、ひょんなことで知り合い、助けてあげた人から『お礼に』といってチャーリーが手渡された物。
 だが男の自分よりも、協力してくれたアンジェリークの方が似合うと思ったので、彼女に贈ることにしたのだ。
「そうです。あの時、チャーリーさんからこれを頂いたけど…この片方を持っててくれませんか?」
 頬を染めたまま、やはり瞳から涙があふれそうになりながら、アンジェリークは懇願するようにチャーリーを見つめる。
「残りのもう片方は私が持ってます。またふたりで会えるように…私からもおまじないってことで…」
「アンジェ…」
 少し驚いたように見つめ返してくるチャーリーに、アンジェリークの顔は更に赤くなる。
「あ……あの、やっぱり……子供っぽい…ですか…?」
 細い肩を少し震わせて不安げに訊いたアンジェリークを、チャーリーは思いっきり引き寄せて、抱きしめた。
「きゃ…!」
 細いアンジェリークはいとも簡単にチャーリーの腕の中に倒れ込んでしまった。
「そんなことあらへん。めっちゃ嬉しいで、アンジェ……ありがと」
「……チャーリーさん…!」
 抱きしめられた暖かな温もりを感じながら。
 アンジェリークの碧い瞳の海から、清らかな波があふれ出した。

 ――それは、また会える奇跡を願う、ふたりの祈りが込められたもの。
 琥珀色をしたふたりの『お守り‐アミュレット‐』――――。




                       end.




 《あとがき》
 チャーリーさん創作二作目、天レクEDアレンジのお話でした;
 実は私、天レクの1stがチャーリーなんですよ〜(笑)
 二段階まで済ませて親密度200なのが、彼を含めてランディとリュミエール様が居たのです。
 で、「誰のが起こるのかなぁ?」なんて思ってたら彼が来ました(^^;)
 EDは…私が選んだメンバー中で一番すごいのを最初に見てしまったって感じですね;
 他にもオスカーのとか人気だったみたいですが、チャーリーのもすごかった(笑)
 チャーリーって子供っぽいとこもあるけど、大人だなぁって思います。
 「奇跡って案外、あっさり起きるもんなんや」って台詞、結構好きです。
 真殿さんの言い回しもすごくよかったんですよね。思わず泣いちゃいました;
 本編中のイヤリングは、チャーリーとのイベント『俺に任しとき!』のやつですv
 何で琥珀色にしたかというと、私がそんなのをとあるお店で買ったからです(笑)
 見つけた瞬間「こんな感じなんだろうな〜」と(勝手に)思ったものですから;
 実際は、どんなイヤリングだったんでしょうね?

                                     written by 羽柴水帆